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第84話 出発

朝でございましたわ。


 荷物を整えましたの——銀のティーポット、茶葉、手帳でございますわ。いつもと同じ荷物でございますの。


 食堂でございましたわ。


 クーリエが扉のところに立っておりましたの——荷物を持っておりますわ。


「……私も行きます」


「存じておりますわ」


 クーリエが少し間を置きましたわ——頷きましたの。


 ヴァルターが一礼しましたわ。「お供します」


「ええ」


 3人で宿を出ましたの。




 道でございましたわ。


 東の街道でございますの——空が広うございますわ。風が少しございましたの。草の匂いでございますわ。


 クーリエが歩きながら話しておりましたの。


「——そういえば、あの草ってまだありますかね。丘の手前の」


「さあ、どうでしょう」


「また摘みたいんですよね。あの香り、好きで」


 ヴァルターが少し頷きましたわ。「悪くなかったですね」


「でしょう。ヴァルターさんも好きでしたか」


「……まあ」


「まあって何ですか。飲んでたじゃないですか」


 ヴァルターが前を向きましたわ——何も言いませんでしたの。


 クーリエが笑いましたわ——わたくしを見ましたの。


「クラリッサさま」


「ええ」


「終わったら、また旅ができますよね」


「ええ」


 少し間がございましたわ。


「どこへ行きますか?」


「まだ行ったことのない場所でございますわ」


 クーリエが少し考えましたわ——空を見ましたの。


「それは——いっぱいありますね」


「ええ。ありがたいことでございますわ」


 ヴァルターが少し笑いましたわ——小さな笑いでございますの。前を向いたままでございましたわ。


 3人で歩き続けましたの。




 道端でございましたわ。


 クーリエが立ち止まりましたの——草の中にしゃがみましたわ。


「……あった」


「どれでございますか?」


「これです——先日と同じ葉っぱです」


 わたくしはしゃがみましたわ——葉を確かめましたの。裏を見ましたわ。香りを確かめましたの。


「ええ。同じでございますわ」


「摘んでいいですか?」


「ええ」


 クーリエが丁寧に摘みましたわ——ヴァルターが荷物を下ろしましたの。


「淹れてみますか?」


「ええ」


 ヴァルターが荷物から湯筒を出しましたわ——まだ温かうございますの。クーリエが量を確かめましたの。蒸らしましたの。


 3人で草地に座りましたわ。


 カップを受け取りましたの——一口飲みましたわ。


「どうですか?」とクーリエが言いましたわ。


「悪くございませんわ」


「やっぱり同じ香りですね」


「ええ」


 クーリエが自分のカップを飲みましたわ——空を見ましたの。


「……セバスチャンさん、待ってますかね?」


「待っておりますわ」


「怒りますかね?」


「さあ、どうでしょう」


 ヴァルターがカップを持ったままでございましたわ——少し間がございましたの。「……行きましょう」


「そうでございますわね」


 3人で立ち上がりましたの——また歩き出しましたわ。




 荒野でございましたわ。


 草が少のうございますの——石の多い地面でございますわ。空が広うございましたの。風がございますわ——乾いた風でございますの。


 人影がございましたわ。


 黒い鎧でございましたの——立っておりますわ。腕を組んでおりましたの。


 近づきましたわ。


「……遅い」


「道中に茶葉がございましたわ」


 少し間がございましたの。


「……そうか」


 セバスチャンが腕を組んだままでございましたわ——空を見ましたの。何も言いませんでしたわ。


 クーリエがヴァルターを見ましたの——ヴァルターが前を向いておりましたわ。


 風が吹きましたの——草が揺れましたわ。


「参りますわ」


 4人で歩き出しましたの。

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