第82話 天界へ
雲紙が、光った。
セラフィナはすでに机の前に座っていた。書類仕事をしていた——転生申請の束だった。今月分の審査記録だった。羽根筆を置いた。
雲紙を手に取った。
文字が浮いていた。
「条件充足確認依頼」——エリオからだった。
セラフィナは立った。廊下へ出た。エリオの部屋は隣だった。扉を開けた。
エリオが資料を広げていた。台帳と照合しながらだった。こちらを見た。
「……条件が、揃いました」
セラフィナは台帳を受け取った。確認した。
条件①——勇者全員の離脱が確定していること。印が5つあった。アレン、レオガルド、オルフェウス、ソフィア、ナルバス——5つだった。
条件②——均衡崩壊が差し迫っていること。観測値が基準を超えていた。
台帳を閉じた。
「確認しました」
エリオが少し間を置いた。「……どうしますか」
セラフィナは窓の外を見た。天界の空は白かった。地上の方角だった——何も見えなかった。
「……私が行きます」
エリオが頷いた。何も言わなかった。
セラフィナは自分の部屋に戻った。羽根筆を片付けた。書類を引き出しにしまった。上着を取った。
扉のところで少し止まった。
それから出た。
降下は、時間がかかった。
光の中を通った——足が地面についた瞬間、空気が変わった。重かった。湿気があった。土の匂いがした。草の匂いがした。天界にはない匂いだった。
しばらく、そのまま立っていた。
位置を確認した。宿は近かった——覗き石で把握していた位置だった。
歩いた。
宿の前だった。
黒い鎧が外に出て壁に背を預けていた。腕を組んで空を見上げていた。
セラフィナが近づいた。黒い鎧がこちらを見た。赤い瞳だ。少し間があった。
「……天界転生局、統括官のセラフィナと申します」
「……天界の人間か」
「はい」
少し間があった。
「条件が揃いました」
「……何の条件だ?」
セラフィナは話した。
勇者が全員離脱したこと——黒い鎧が少し動いた。
均衡崩壊が差し迫っていること——動かなくなった。
今なら、魔王本人が女神に直接求めれば、勇者以外の者による討伐が認められること——黒い鎧が黙った。
通りが静かだった。風の音だけだった。
「……つまり」と黒い鎧が言った。「死ぬしかないということか」
セラフィナは答えられなかった。
「……条件が、揃いましたので」
「そうか」
黒い鎧が黙った。
黒い鎧が空を見た。さっきと同じ方角だった。
しばらくして。
「……わかった。女神に会う」
天界へ戻った。
光の中を通った——黒い鎧が少し足を止めた。それから歩いた。
天界の空気だった。白く、軽かった。黒い鎧がその中に立っていた——場違いだった。それでも立っていた。
女神フィレーネの間だった。石の床、高い天井、白い光だった。広かった。音がなかった。
扉を開ける。
女神フィレーネが立っていた。白い衣だった。魔王セバスチャンを見た。何も言わなかった。
少し間があった。
「……来てくれましたか」
「条件が揃ったと聞いた」
「ええ」
「……認めてもらえるか。勇者以外の者による討伐を」
女神フィレーネが頷いた。
「……認めます」
間があった。
女神フィレーネが少し前に出た。
「……長い間、ご苦労様でした」
魔王セバスチャンが少し間を置いた。
何も言わなかった。
セラフィナは雲紙を取り出した。羽根筆を持った。記録した——「討伐条件承認。女神フィレーネ確認済み」だった。
雲紙が少し光った。
羽根筆を置いた。
女神フィレーネがまだ魔王を見ていた。セバスチャンが窓の外を見ていた——天界の空は白かった。地上より、白かった。




