第77話 信徒の波
翌朝でございましたわ。
宿の前でございますの——ナルバスが立っておりましたわ。昨夜と同じ白い衣でございますの。穏やかな顔でございますわ——でも昨夜の声のままでございましたの。
「間違っているのはあなたです」
静かな声でございましたわ——穏やかではございませんでしたの。昨夜の続きでございますわ。
「正しいことをしているのに——なぜ否定するのですか」
「否定はしておりませんわ」とわたくしは言いましたの。
「……問いかけることは否定です。正しいことを正しいと受け取れない——それはあなたの中に曇りがあるからです」
セバスチャンが後ろに立っておりましたわ——少し前に出ましたの。わたくしは手を上げましたわ——セバスチャンが止まりましたの。
「信徒の皆さんに話を聞いていただきます」とナルバスが言いましたわ。「あなたたちも正しい道に——」
「……それは、困ります」とヴァルターが言いましたわ。
「なぜですか? 正しいことを伝えているだけです」
ヴァルターが少し間を置きましたわ。
人影でございましたわ。
通りの向こうからでございますの——白い衣でございますわ。武器を持っておりましたの——槍でございますわ。10人でございますの。また来ましたわ。また来ましたの。
30人でございますわ。50人でございますの——止まりませんでしたわ。善意の顔でございますの。殺意がございませんでしたわ。
セバスチャンが前に出ましたわ。
「……また捌くのか」と小声で言いましたの。
1人退かせましたわ。3人来ましたの。5人退かせましたわ——10人来ましたの。
「……切りがない」
退かせましたの。来ましたわ。退かせましたの。来ましたわ。信徒が倒れましたわ——立ち上がりましたの。また来ましたわ。確信があるから立ち上がりますの——怯えておりませんでしたわ。
セバスチャンの動きが少し重うなりましたの——わずかでございますわ。
ナルバスが動きましたわ。
信徒たちの向こうでございますの——両手を合わせておりますわ。光が集まり始めましたわ——泉の傍で見た光とは違いましたの。重うございますわ。信徒たちの声が重なりましたの——祈りの声でございますわ。光が濃うなりましたの。
「魔王——今です」
光が放たれましたわ。
セバスチャンが剣を構えましたの——受けましたわ。光が散りましたの——でも押されましたわ。膝が少し折れましたの。
「……本気か」とセバスチャンが言いましたわ——低い声でございますの。
「ええ。愛をもって」とナルバスが言いましたわ。穏やかな声でございますの——でも光が再び集まり始めておりましたわ。
わたくしは動きましたわ。
セバスチャンとナルバスの間でございますの——2人の間に立ちましたわ。
「ナルバス殿」
ナルバスが止まりましたわ——わたくしを見ておりますの。光が少し緩みましたわ。
「……あなたを傷つけるつもりはありません」
「存じておりますわ」
鞄から取り出しましたの——銀のティーポットでございますわ。湯は持っておりましたの。茶葉も手の中にございましたわ——最深部で採ったものでございますの。
「一杯、いかがですか」
場が止まりましたわ。
信徒たちが動きを止めましたの——ナルバスを見ておりますわ。ナルバスがティーポットを見ておりましたの。光が薄うなりましたの。
「クラリッサ殿」とセバスチャンが言いましたわ——低い声でございますの。
「ええ」
セバスチャンが立て直しましたわ——剣を構え直しましたの。
「ヴァルター、クーリエ——」
ヴァルターが大盾を構えましたわ——信徒たちの方でございますの。クーリエがハンマーを持ちましたわ——横に出ましたの。
ナルバスがわたくしを見ておりましたわ——ティーポットを見ておりますの。セバスチャンを見ましたわ。
「……焦ることではない」と言いましたわ——独り言でございますの。
信徒たちに向きましたわ。「今日は引きましょう」
信徒たちが下がりましたの——静かでございますわ。それぞれ去っていきましたの。武器を持ったままでございますわ——でも使いませんでしたの。
ナルバスがわたくしを見ましたわ——最後にもう一度でございますの。
「……あなたは不思議な方ですね」
それから背を向けましたわ。聖堂の扉の方へ歩いて行きましたの。信徒たちも続きましたわ——扉が閉まりましたの。
宿の前に4人だけになりましたわ。
セバスチャンが息を整えておりましたの——ゆっくりとでございますわ。「……茶で止めるとは」
「ええ」
「……理解できん」
「でも止まりましたわ」
セバスチャンが少し間を置きましたわ——頷きましたの。「……そうだな」
クーリエがわたくしを見ましたわ。「ティーポット、本物ですか」
「ええ。淹れられますわ」
「今ですか」
「今は宿に入りましょう。荷物をまとめますわ」
クーリエが少し間を置きましたわ。「……今夜、出るんですか」
「ええ。街が静かになったらでございますわ」
セバスチャンが宿の扉を見ましたわ——空を見ましたの。まだ明るうございますわ。
「……何時間ある」
「3時間ほどでございますわ」
「仮眠を取る」とセバスチャンが言いましたわ——宿へ入りましたの。




