第76話 核心と確信
ナルバスが来ましたわ。
夕方でございましたの——宿の食堂でございますわ。クーリエとヴァルターが夕食を終えて部屋に戻りましたの。食堂に2人だけになりましたわ——わたくしとナルバスでございますの。
ナルバスが向かいに座りましたわ——静かに、でございますの。
わたくしは銀のティーポットを前に置きましたの。茶を淹れましたわ——自分の分だけでございますの。一口飲みましたわ。
「あなたは——信仰を持っていないのですか?」
「お茶への信仰でございましたら」
「……それは信仰ではありません」
「そうでございますかしら」
ナルバスがティーポットを見ましたの——わたくしを見ましたわ。
「あなたに、正しい生き方をお伝えしたい」
「ありがとうございますわ」
一口飲みましたわ。
「でも——」
「ナルバス殿、あなたが導いた先に、人はいますかしら」
ナルバスが黙りましたわ。
燭台の炎が揺れましたの——食堂が静かでございますわ。
「……います。私の言葉で変わった方が、何人も」
「ええ。それはそうでございましょう」とわたくしは言いましたわ。「あなたの言葉で変わった方がいる——それはそうでございますわ」
一口飲みましたわ。
「でも——あなたに導かれた方は、その後あなたを必要としていますか?」
「……」
「それとも、あなたなしで歩いておりますか?」
ナルバスが黙っておりましたわ——わたくしを見ておりますの。笑顔がございましたの——でも少し動きが止まっておりましたわ。
「……より良い生き方に変わっています。それが答えです」
「ご自身で確認されましたか?」
「……導いた後は、その方の選択ですから」
「ええ」とわたくしは言いましたわ。
茶を一口飲みましたの。
「正しいことをしているのに——」とナルバスが言いましたわ。声が少し低うなりましたの。「なぜそのようなことを聞くのですか」
「正しいことをしているのに、なぜ問われるのかわからない——そうお感じでございますか?」
ナルバスが止まりましたわ。
「……そうです」
「ええ」とわたくしは言いましたの。「それでございますわ」
ナルバスがわたくしを見ておりましたわ——笑顔が変わりましたの。
「……どういう意味ですか」
「正しいことをしている——その確信が、問いかけを否定に変えておりますわ。あなたのお言葉は正しい。でも正しさは、問いに答えてはくれませんの」
ナルバスが黙りましたわ——テーブルの上を見ておりますの。ティーポットでございますわ——わたくしのカップでございますの。
「……それが、あなたの答えですか」
「わたくしの答えではございませんわ」とわたくしは言いましたの。「ただ、お茶が好きでございますの」
一口飲みましたわ。
「あなたが導いているのは、あなた自身でございますわ」
静かでございましたわ。
ナルバスがわたくしを見ておりましたの——笑顔が消えておりましたわ。
「……あなたは間違っている」
声のトーンが変わりましたわ——穏やかではございませんでしたの。静かでございますわ——でも穏やかではございませんでしたの。
わたくしはティーポットを置きましたわ。
「そうでございますかしら」
ナルバスが立ちましたわ——椅子を引く音でございますの。それから部屋を出ましたわ。足音が廊下を遠ざかりましたの。
食堂が静かになりましたわ。
わたくしは茶を一口飲みましたの——まだ温かうございましたわ。




