第75話 善意の圧力
地上に出ましたの。
夜明け前でございましたわ——空が明るくなり始めておりますの。乾いた風でございますわ。石畳が冷たうございましたの。
4人で宿へ向かいましたわ。
通りでございますの——街がまだ静かでございますわ。石畳に足音だけでございましたの。角を曲がりましたわ。
白い衣でございましたの。
向こうから歩いてまいりましたわ——ナルバスでございますの。穏やかな顔でございますわ。4人を見ましたの——茶葉が手の中にあるのを見ましたわ。少し間がございましたの。
「せっかくですから、少しご一緒してよろしいですか。お話ししたいのです」
「ええ」
セバスチャンが少し動きましたわ——ナルバスとわたくしの間に入ろうとしましたの。
「大丈夫でございますわ」とわたくしは言いましたの。
セバスチャンが止まりましたわ——ナルバスを見ておりますの。ナルバスがセバスチャンを見ましたわ——穏やかな顔でございますの。
「心が閉じているのですね」とナルバスが言いましたわ。「でも、それでいいのです。時間をかければわかります」
セバスチャンが何も言いませんでしたわ。
5人で歩き始めましたの。
ナルバスが語りましたわ。
歩きながらでございますの——正しい生き方、神への道、人を導くことの意味でございますわ。声が柔らかうございましたの。押しつけがましくはございませんでしたわ。でも止まりませんでしたの。
セバスチャンが間合いを保っておりましたわ——ナルバスが一歩近づくたびに、セバスチャンが半歩動きましたの。ナルバスがまた近づきましたわ。セバスチャンがまた動きましたの。
「……それは、義務感とは違うんですか?」とヴァルターが言いましたわ——歩きながらでございますの。
「違います」とナルバスが言いましたわ。「義務ではなく、愛です。人を導くことは愛なのです——義務から動く時、人は疲れます。愛から動く時、人は輝く」
ヴァルターが黙りましたわ——前を向いておりますの。
クーリエがナルバスを見ましたわ。「……ナルバスさんは、ずっとそうして人に話してるんですか?」
「ええ。それが私の使命ですから」
「疲れないですか?」
「……疲れることはありません。正しいことをしているので」
クーリエが少し考えましたわ——前を向きましたの。
わたくしはナルバスを見ましたの。
「ナルバス殿」
「はい」
「あなたの話を聞いた方は、その後どうなりましたか?」
「……より良い生き方に変わっています」とナルバスが言いましたわ。「私の言葉で変わった方を、何人も見てきました」
「ご自身で確認されましたか?」
ナルバスの顔が少し止まりましたわ——歩きながらでございますの。
「……導いた後は、その方の選択ですから」
「そうでございますの」
ナルバスがまた語り始めましたの。
宿でございましたわ。
夕食が終わりましたの——夜でございますわ。
宿の前に出ましたわ——涼しうございますの。石畳に月の光でございましたわ。
人影でございましたわ。
信徒でございますの——3人でございますわ。宿の前に立っておりましたの。善意の顔でございますわ——穏やかな表情でございますの。
「お守りいたします」と一人が言いましたわ。「夜は危険ですから」
「必要ない」とセバスチャンが言いましたわ。
「でも——ナルバス様のお導きで、皆さんをお守りするのが——」
別の影でございましたわ——また3人でございますの。通りの向こうからでございますわ。善意の顔でございましたの。
また来ましたわ。また来ましたの。
十人でございますわ。二十人でございますの——じわじわと周囲に集まってまいりましたわ。声が穏やかでございますの。殺意がございませんでしたわ。ただ、囲んでおりますの。
「……」
セバスチャンが動きましたわ——一人の腕を掴みましたの。ゆっくりと脇へ寄せましたわ。また一人でございますの。また一人でございますわ。手加減しておりましたの——退かせるだけでございますわ。
退かせた隙から、また来ましたの。
「……切りがない」とセバスチャンが小声で言いましたわ。
5人退かせましたわ。10人来ましたの。15人退かせましたわ。また囲まれましたの。20人退かせましたわ。止まりませんでしたの。
全員を退かせた頃でございましたの——セバスチャンの息が少し上がっておりましたわ。
ナルバスが通りの向こうに立っておりましたの——遠くでございますわ。
「……皆さん、ありがとうございます」と言いましたわ。穏やかな声でございますの。
わたくしはナルバスを見ておりましたわ。
「焦ることではない」——小さな声でございましたの。独り言でございますわ。
信徒たちが散りましたの——それぞれ去っていきましたわ。穏やかな顔のままでございますの。
セバスチャンが壁に少し背を預けましたわ——すぐに離れましたの。「……善意というのは、厄介だな」
「ええ」とわたくしは言いましたわ。
翌朝でございましたわ。
宿の扉を開けましたの——ナルバスが立っておりましたわ。白い衣でございますの。朝の光でございますわ。
「昨夜は騒がしくして申し訳なかった」と言いましたわ——穏やかな声でございますの。
わたくしは銀のティーポットを持っておりましたの——朝の一杯でございますわ。湯気が上がっておりましたの。
「よろしければ」
ナルバスが止まりましたわ。カップを見ておりますの。
「……いただきます」
両手でカップを受け取りましたわ——一口飲みましたの。
何も言いませんでしたの。
わたくしはナルバスを見ておりましたわ——カップを持ったままのナルバスでございますの。




