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第74話 聖堂の茶葉

 立ち入り禁止区画でございましたわ。


 通路が変わりましたの——整然とした石積みが途切れ、岩が混じってまいりましたわ。壁が荒うございますの。燭台がほとんどございませんでしたわ——セバスチャンが小さな灯りを持っておりますの。炎が揺れましたわ。


「……空気が変わりましたね」とクーリエが言いましたわ。


「ええ」


「さっきより冷たいです」


「深うなっておりますわ」


 ヴァルターが壁に手を触れましたわ——岩でございますの。「……自然の岩ですね。ここから先は人が作った部分ではない」


「ええ。聖堂が岩の裂け目を利用しておりますの」


 セバスチャンが無言で歩いておりましたわ——灯りを前に向けておりますの。影が揺れましたの。




 水の音でございましたわ。


 小さい音でございますの——遠くからでございますわ。静かな音でございましたの。


「……聞こえます」とクーリエが言いましたわ。


「ええ」


 歩きましたの。音が近くなりましたわ——通路が開けましたの。


 泉でございましたわ。


 岩に囲まれた窪みでございますの——水が湧いておりますわ。澄んでおりましたの——底が見えましたわ。石の色が見えますの。水が動いておりますわ——でも音が静かでございましたの。波紋が広がりましたわ——また広がりましたの。


「……きれいですね」とクーリエが言いましたわ。小声でございますの。


 セバスチャンが泉の周囲を見ましたわ——灯りを巡らせましたの。


 泉の縁でございましたわ。


 茶葉でございますの——岩の隙間から育っておりますわ。丈が低うございましたの。葉が細うございますわ。色が薄うございましたの——白みがかった緑でございますわ。水に近い場所だけに生えておりますの。


 わたくしは茶葉に近づきましたわ——しゃがみましたの。葉に触れましたわ。


「……これは」


「どんな茶葉ですか?」とクーリエが聞きましたわ。


「清澄な水を吸って育っておりますわ。香りが静かですわ——主張いたしませんの。でも、確かにございますわ」


 一枚、指で触れましたわ——葉が薄うございますの。繊細でございますわ。


「採れますか?」


「ええ」


 道具を出しましたの——小さな鋏でございますわ。丁寧に採りましたの。根元から切りませんでしたわ——葉を選んで、少しずつでございますの。


 クーリエが隣にしゃがみましたわ。「……手伝えますか」


「ええ。こちらの葉でございますわ——薄いものを選んでくださいませ」


 クーリエが慎重に手を伸ばしましたわ。「こちらですか」「ええ。上手でございますわ」


 ヴァルターが周囲を見ておりましたわ——通路の方でございますの。セバスチャンが泉から少し離れた位置に立っておりましたわ——灯りを持ったままでございますの。




「……ここに来たのですか」


 声でございましたわ。


 奥の通路でございますの——暗うございましたわ。人影でございますの——白い衣でございますわ。ゆっくりと歩いてまいりましたの。


 ナルバスでございましたわ。


 穏やかな顔でございますの——謁見の時と同じ表情でございますわ。わたくしたちを見ましたの——セバスチャンを見ましたわ。


 表情が変わりましたわ——穏やかなままでございますの。でも目が変わりましたわ。


「……魔王」


 セバスチャンが灯りをクーリエに渡しましたわ——前に出ましたの。


 光でございましたわ——ナルバスの両手から集まりましたの。祈りの形でございますわ——手を合わせた形でございますの。静かでございましたわ。音がございませんでしたの。でも光が濃うなりましたわ——放たれましたの。


「あなたを討伐することが、世界への愛です」


 セバスチャンが剣を抜きましたわ——光を受けましたの。光が散りましたわ。また光が来ましたの——また受けましたわ。散りましたの。


「……力がある」とセバスチャンが言いましたわ——静かな声でございますの。「だが足りない」


 ナルバスが止まりましたわ。


「……そうですか」


 声が穏やかに戻りましたわ——謁見の時と同じ声でございますの。目を閉じましたわ。少し考えておりますの——頷きましたわ。


「今は、ということですね。焦ることではない——あなたを討伐するには、まず周囲を整える必要がある」


 独り言のようでございましたわ。


 わたくしの方を向きましたわ——穏やかな顔でございますの。


「神聖な場所です。でも——あなたは茶葉のために来たのですか」


「ええ」


「それだけのために」


「それだけでございますわ」


 ナルバスが少し間を置きましたわ——泉を見ましたの。わたくしを見ましたわ。


「……不思議な方ですね」


「通路を通って出ていただいて構いません」


「ありがとうございますわ」


 わたくしは茶葉の採取を続けましたの——あと少しでございますわ。ナルバスが泉の傍らに立っておりましたの——祈りの姿勢でございますわ。目を閉じておりますの。


 セバスチャンがわたくしを見ましたわ——小声で言いましたの。「……早くしろ」


「もう少しでございますわ」


 セバスチャンが小さくため息をつきましたわ。




 採取が終わりましたの。


 わたくしは立ち上がりましたわ——茶葉が手の中にございますの。


 ナルバスがまだ祈っておりましたわ——目を閉じたままでございますの。


「失礼いたしますわ」とわたくしは言いましたの。


 ナルバスが目を閉じたまま小さく頷きましたわ。


 4人で通路を戻りましたの。泉の水の音が遠くなりましたわ——聞こえなくなりましたの。

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