第73話 魔王と不法侵入
翌朝でございましたわ。
宿の扉を開けましたの——朝の空気でございますわ。乾いた風でございますの。
黒い鎧でございましたわ。
宿の前でございますの——壁に背を預けておりますわ。長身でございましたの。赤い瞳でございますわ——腕を組んでおりましたの。空を見上げておりますわ。
「……なぜ私は南にいるんだ」
独り言でございましたの。
「よく会いますわね、セバス」
黒い鎧がわたくしを見ましたわ。
「セバスチャンだ」
後ろからクーリエが顔を出しましたわ。「セバスチャンさん、また会いましたね」
「……また会ったな」とセバスチャンが言いましたの——それから空を見ましたわ。「南が揺れている。ナルバスが動き始めている。均衡が崩れる前に来た」
「存じておりますわ。ちょうどよかったですわ」
セバスチャンがわたくしを見ましたわ。
「……何をするつもりだ」
「地下聖堂に入りますわ。立ち入り禁止区画に」
「今夜か」
「ええ」
セバスチャンが少し黙りましたわ——腕を組んだままでございますの。
「……案内は」
「頭に入っておりますわ」
セバスチャンが一度頷きましたわ。
ヴァルターが扉から出てまいりましたの——セバスチャンを見ましたわ。「お久しぶりです」
「久しぶりだな」とセバスチャンが言いましたわ。「ヴァルター、動けるか」
「はい」
「そうか」
クーリエがセバスチャンを見ておりましたわ——わたくしを見ましたの。「……今夜、入るんですか」
「ええ」
「番人がいましたよね」
「ええ」
「大丈夫ですか」
「セバスチャンがいらっしゃいますわ」
セバスチャンが少し間を置きましたわ——空を見ましたの。「……買いかぶるな」
クーリエが小声で笑いましたわ。
夜でございましたわ。
街が静かになりましたの——明かりが少のうございますわ。石畳の音だけでございましたの。4人でございますわ——セバスチャンが先を歩いておりますの。
「……黒い鎧は目立ちませんか」とクーリエが言いましたわ。
「夜は目立たん」とセバスチャンが言いましたの——前を向いたままでございますわ。
「そういうものですか」
「そういうものだ」
地下聖堂の扉でございましたわ——昼間は案内の信徒が立っておりますの。夜は人がおりませんでしたわ。
「返事を待たずに参りますわ」とわたくしは言いましたの——小声でございますわ。
セバスチャンが扉に手をかけましたの。重い音がしましたわ——開きましたの。
石段でございますわ。
暗うございましたわ。
昼間は燭台に火が入っておりましたの——夜は半分しか灯っておりませんでしたわ。暗い部分が増えましたの。
「こちらですわ」とわたくしは言いましたの——左の通路でございますわ。
「……本当に覚えているのか」とセバスチャンが言いましたわ。
「ええ」
歩きましたの。分岐でございますわ——右でございますの。また分岐でございますわ——真ん中でございますの。
「昨日の四十七歩です」とクーリエが小声で言いましたわ——数えながら歩いておりますの。「四十七歩でここに来るはずです」
「ええ」
「……四十六、四十七」
分岐でございましたわ——左でございますの。クーリエが小声で「合いました」と言いましたわ。
セバスチャンが無言でございましたの——ただ歩いておりますわ。
人影でございましたわ。
通路の先でございますの——燭台の光の届く端でございますわ。2人でございますの。武装しておりましたわ——槍を持っておりますの。番人でございますわ。
こちらを見ましたの。
「——止まれ」
セバスチャンが前に出ましたわ。
番人の1人が槍を構えましたの——もう1人が後ろへ動きましたわ。声を上げる前に——
ヴァルターが動きましたわ。大盾でございますの——通路の幅いっぱいに構えましたわ。後ろの1人への道を塞ぎましたの。
「……申し訳ない」とヴァルターが言いましたわ——盾を前に押し出しましたの。番人が壁に押しつけられましたわ——槍が使えませんでしたの。
「謝りながら戦うな」とセバスチャンが言いましたわ。
「……癖でして」
前の番人がセバスチャンへ槍を突きましたわ——セバスチャンが体を半身にしましたの。槍が脇を抜けた瞬間でございますわ——柄を掴みましたの。一度引いて、剣の腹でございますわ——番人が膝をつきましたの。
「……くっ」
「怪我はさせていない」とセバスチャンが言いましたわ——前を向いたままでございますの。
クーリエが動きましたわ——後ろの番人でございますの。ヴァルターの盾と壁の間でございますわ——狭うございますの。ハンマーを振れる幅がございませんでしたわ。クーリエが柄を縦に持ちましたの——壁を使いましたわ。肘を壁に当てて体重をかけましたの——番人の腹でございますわ。番人がくずおれましたの。
「……壁、使えるんですね」とクーリエが言いましたわ。
「通路では有効だ」とセバスチャンが言いましたわ。「覚えておけ」
2人の番人が通路に座っておりましたわ——動いておりませんでしたの。
「行くぞ」とセバスチャンが言いましたわ。
立ち入り禁止区画の入口でございましたわ。
昼間、案内の信徒が示した分岐でございますの——右の通路でございますわ。燭台が少のうございます——暗うございましたの。
「ここでございますわ」
セバスチャンが通路を見ましたわ——わたくしを見ましたの。
「……茶葉のためにここまでするのか」
「ええ」
セバスチャンが右の通路へ歩き始めましたの。
「……理解はできんが」と言いましたわ。「行くぞ」
4人で立ち入り禁止区画へ入りましたの。




