第72話 迷宮を測量す
翌日でございましたわ。
案内の信徒が同じ方でございましたの——昨日と同じ顔でございますわ。「ナルバス様のお導きで」と言いましたの。昨日と同じ言葉でございますわ。
石段を降りましたの。昨日より慣れておりましたわ——空気の変わり方がわかりましたの。ひんやりとした石の匂いでございますわ。燭台の間隔も覚えておりましたの。
昨日の分岐を過ぎましたわ。
さらに奥へでございますの——昨日は来なかった区間でございますわ。天井が低くなりましたの。また高くなりましたわ。壁の彫刻が変わりましたの——光の形が増えておりますわ。
「クーリエ」
「はい。数えてます」
「四十七歩です。昨日の分岐から」
「ありがとうございますわ」
案内の信徒が振り返りましたわ——また不思議そうでございますの。何も言いませんでしたわ。
「ヴァルター、今の通路の幅は?」
「……一間半ほどかと」とヴァルターが言いましたわ——壁を見ながらでございますの。「昨日の通路より狭いです」
「ええ」
案内の信徒が足を止めましたわ。「……お祈りは——」
「後ほどいたしますわ」
案内の信徒が少し間を置きましたわ——それから歩き始めましたの。クーリエが小声で笑いましたわ——すぐに止めましたの。
分岐がございましたわ——3方向でございますの。
案内の信徒が真ん中の通路を示しましたわ。「こちらでございます」
「他の2つは?」
「……左は第三の道でございます。右は第五の道でございます。どちらも最深部へ続きますが——遠回りでございます」
「七つの道のうち、今日は第何の道でございますか?」
「第二の道でございます」
わたくしは3方向を見ましたわ——左、正面、右でございますの。通路の幅、燭台の配置、天井の高さでございますわ。頭の中に入れましたの。
「ありがとうございます。参りましょう」
別の巡礼者と遭遇しましたわ——4人でございますの。白い衣でございましたわ。こちらへ歩いてまいりますの。案内の信徒が「ナルバス様のお導きで」と言いましたわ。巡礼者たちが同じ言葉を返しましたの。
すれ違いましたわ——一人がわたくしを見ましたの。足が少し止まりましたわ。
「信徒でない方ですか」
「ええ。茶葉を見に参りましたわ」
「……ナルバス様のお言葉を、信じてはいないのですか?」
燭台の炎が揺れましたわ。
「お茶が好きでございますわ」
男性が止まりましたの——わたくしを見ておりますわ。
後ろの3人も立っておりましたわ。
案内の信徒が小さく「ナルバス様がお許しになった方々でございます」と言いましたの。
男性がわたくしを見たままでございましたわ——それから前を向きましたの。「……ナルバス様のお導きで」と言いましたわ。
「ナルバス様のご加護で」
4人が通り過ぎましたわ。足音が遠くなりましたの。
クーリエが小声で言いましたわ。「……昨日と同じ返し方ですね」
「ええ」
「毎回それで大丈夫ですか」
「今のところでございますわ」
ヴァルターが通り過ぎた4人の方を一度見ましたわ——それから前を向きましたの。
最深部の手前でございましたわ。
昨日より少し先へ来ておりますの——燭台の光の届く範囲が変わりましたわ。先の通路が見えましたの。暗うございますわ——でも昨日よりは近うございますの。
案内の信徒が立ち止まりましたわ。「今日はここまででございます」
「わかりましたわ。ありがとうございます」
案内の信徒が頷きましたの。「ナルバス様のお導きで、ご案内いたします」
地上に出ましたの。
夕方でございましたわ——昨日より少し遅うございますの。
「明日も来るんですか」とクーリエが言いましたわ。
「いいえ」
「……え?」
「今日で十分でございますわ」
クーリエが少し考えましたわ。「……地図、できたんですか」
「おおよそでございますわ」
宿でございましたわ。
夕食が終わりましたの——食堂に3人だけになりましたわ。クーリエが湯を持ってきましたの。わたくしが茶を淹れましたわ。
テーブルの上に紙を出しましたの。
「ここでございますわ」とわたくしは言いましたの——通路を描きましたわ。「入口から第二の道を進みますと——分岐がここでございますの。第三の道との合流はここでございます」
クーリエが覗き込みましたわ。「……細かいですね」
「昨日と今日でおおよそわかりましたわ。立ち入り禁止区画はこの辺りでございます」
ヴァルターが地図を見ましたわ——少し間がございましたの。
「……力ずくで入ることも、できますね」
「できますわね。でも——」
通路が静かでございましたわ。
「信徒の方々が動きますわ。案内の信徒だけではございませんの——聖堂には番人がおりますわ。今日、通路の奥に見えましたの」
「……番人、ですか」とクーリエが言いましたわ。
「武装しておりましたの。数はまだわかりませんわ」
ヴァルターが地図を見ておりましたわ——指で分岐の位置を辿りましたの。
「……どうするんですか」とクーリエが聞きましたわ。
「少し考えますわ」とわたくしは言いましたの——茶を一口飲みましたわ。
クーリエが茶を飲みましたわ——それからまた地図を見ましたの。「……この道って、全部一人で覚えたんですか」
「3人で覚えましたわ」
クーリエが少し間を置きましたわ——それからヴァルターを見ましたの。ヴァルターが地図を見たままでございましたわ。
「……そうですね」とクーリエが言いましたの。




