第71話 地下聖堂
地下聖堂でございましたわ。
街の中央にございましたの——広場の奥に石造りの建物でございますわ。扉が大きうございましたの。彫刻が施されておりますわ——門と同じ、手を合わせた人の形でございましたの。
案内の信徒が待っておりましたわ——若い女性でございますの。「ナルバス様のご加護で、ご案内いたします」と言いましたわ。静かな声でございますの。
扉が開きましたわ。
石段でございましたの。
下へ続いておりますわ——暗うございましたの。燭台が壁に並んでおりますわ。炎が揺れておりましたの。案内の信徒が先を歩きましたわ——迷いなく降りておりますの。
空気が変わりましたわ。一段降りるごとに、ひんやりとしてまいりますの。石の匂いでございますわ——湿った石ではございませんでしたの。乾いた冷たさでございますわ。
「……深いですね」とクーリエが言いましたわ。
「ええ」
降り続けましたの。天井が高うございますわ——上を見ましたの。燭台の光が届かない高さでございますわ。
石段が終わりましたの。通路でございますわ。
「巡礼路は全部でいくつありますか?」
案内の信徒が振り返りましたわ。「七つの道が、最深部で一つになります」
「七つ、でございますの」
「はい。それぞれの道に意味がございます——信徒は己の道を選んで参ります」
わたくしは通路を見ましたわ——左右に伸びておりますの。奥へも続いておりますわ。燭台の光だけでございますの。
歩きましたわ。
案内の信徒が先を行きましたの——時折立ち止まりますわ。壁の前でございますの。両手を合わせて、目を閉じておりましたわ。少し間がございましたの——それから歩き始めましたわ。
一度ではございませんでしたの——3度、4度と繰り返しましたわ。
クーリエが小声で言いましたわ。「……よく祈りますね」
わたくしは案内の信徒を見ておりましたの——背中でございますわ。揺れがございませんでしたの。急いでもおりませんわ。義務でしているのでもなさそうでございますの。
「ええ」とわたくしは言いましたわ。
ヴァルターが黙って歩いておりましたの。
分岐でございましたわ。
通路が二手に分かれておりますの——左は燭台が続いておりますわ。右は燭台が少のうございましたわ。暗うございますの。
「こちらが正規の巡礼路です」と案内の信徒が左を示しましたわ。「こちらは——立ち入り禁止区画でございます」
右の通路でございますの。
わたくしは右を見ましたわ。
「……茶葉の香りがいたしますわ」
案内の信徒が少し止まりましたわ——右の通路を見ましたの。それからわたくしを見ましたわ。
「……ナルバス様のご許可がないと、こちらは」
「そうでございますわね。わかりましたわ」
左の通路へ歩き始めましたの。
案内の信徒が少し間を置きましたわ——また先を歩き始めましたの。
クーリエがわたくしの隣に並びましたわ——小声でございますの。「香りがしたんですか、本当に」
「ええ」
「すごいですね」
「茶葉でございますから」
ヴァルターが右の通路を一度見ましたわ——それから前を向きましたの。
巡礼路を進みましたわ。
天井が高うございますの——場所によって変わりましたわ。低くなりましたの——また高くなりましたわ。壁の彫刻が続いておりますわ。人の形、手を合わせた形、光の形でございますの。
「クーリエ」
「はい」
「さっきの分岐から、何歩でしたか?」
クーリエが少し考えましたわ。「……数えてました。四十二歩です」
「ありがとうございますわ」
案内の信徒が振り返りましたわ——少し不思議そうでございますの。「何か?」
「いいえ。続けてくださいませ」
歩き続けましたの。
「ヴァルター、天井の高さは?」
「……三間ほどかと」とヴァルターが言いましたわ——通路を見上げながらでございますの。
案内の信徒がまた振り返りましたわ。「……お祈りは」
「後ほどいたしますわ」
案内の信徒が少し間を置きましたわ——それから前を向きましたの。
クーリエが小声で笑いましたわ——すぐに止めましたの。
しばらく歩きましたわ。
別の通路と合流しましたの——別の巡礼者がおりましたわ。3人でございますの——信徒でございますわ。白い衣でございましたの。
わたくしたちを見ましたわ——足が止まりましたの。
「ナルバス様のお導きで」と一人が言いましたわ。
「ナルバス様のお導きで」と案内の信徒が答えましたの。
信徒の一人がわたくしを見ておりましたわ——少し間がございましたの。
「信徒でない方が、なぜここに?」
「茶葉がございますでしょう。見に参りましたわ」
「……茶葉のために?」
「ええ」
信徒が少し困った顔をしましたわ。
「ナルバス様のお言葉を——信じてはいないのですか?」
燭台の炎が揺れましたわ。
「お茶が好きでございますわ」
信徒が止まりましたの——わたくしを見ておりますわ。否定ではございませんでしたの。肯定でもございませんでしたわ。
また少し間がございましたの。信徒が案内の信徒を見ましたわ——案内の信徒が小さく頷きましたの。「ナルバス様がお許しになった方々でございます」
「……そうですか」と信徒が言いましたわ。「ナルバス様のお導きで」
「ナルバス様のご加護で」とわたくしは言いましたわ。
信徒たちが通り過ぎましたの。足音が遠くなりましたわ。
クーリエが小声で言いましたわ。「今、ちゃんと言いましたね」
「ええ。この街の言葉でございますわ」
「使い分けてるんですか」
「ええ」
ヴァルターが前を向いたままでございましたわ。
最深部の手前で、案内の信徒が立ち止まりましたわ。
「今日はここまででございます。日が暮れますので」
通路の先でございますの——燭台の光の届く範囲でございますわ。その先は暗うございましたの。
わたくしは先を見ましたわ。
「わかりましたわ。ありがとうございます」
「明日、また参りますか?」と案内の信徒が聞きましたわ。
「ええ」
案内の信徒が頷きましたわ。「ナルバス様のお導きで、ご案内いたします」
来た道を戻りましたの——石段を上がりましたわ。外の光が見えてまいりましたの——夕方でございますわ。地上の空気が温かうございましたの。
宿への道でございましたわ。
「明日も行くんですよね」とクーリエが言いましたわ。
「ええ」
「最深部まで行けますか」
「明日わかりますわ」
クーリエが少し考えましたわ——それから歩きながら下を見ましたの。足元の石畳でございますわ。歩数を数えているようでございましたの。
ヴァルターが空を見上げましたわ——夕空でございますの。「……明日も、同じ案内の方ですか」
「そうでございますわ」
「……了解しました」
3人で宿への道を歩きましたの。石畳の音でございましたわ。




