第70話 5人目の勇者
使いを出しましたの。
宿の主に頼みましたわ——ナルバス様への謁見を申し込みたい、と。宿主が少し目を丸くしましたの。「ナルバス様への謁見、でございますか」「ええ」「……少しお待ちを」と言いましたわ。しばらくして戻ってまいりましたの。「明日の午後、お時間をいただけるとのことです。ナルバス様のお導きで」
謁見の間でございましたわ。
広い部屋でございますの——石造りでございますわ。天井が高うございましたの。窓があリましたわ——外の光が入っておりますの。装飾が少のうございますわ。柱に彫刻がございましたの——手を合わせた人の形でございますわ。
待ちましたの。
扉が開きましたわ。
ナルバスでございましたの。
穏やかな顔でございますわ——柔らかい目でございますの。白い衣をまとっておりましたわ。背が高うございますの。ゆっくりと歩いてまいりましたわ——足音がほとんどございませんでしたの。
3人に目を向けましたわ——わたくしを見ましたの。少し間がございましたわ。
「ようこそいらっしゃいました」
「お時間をいただきありがとうございますわ、ナルバス様」
ナルバスが椅子を勧めましたわ——自分も座りましたの。テーブルをはさんでございますわ。
「ご用件を伺いましょう」
「地下聖堂の最深部に育つ茶葉を、採取させていただきたいのでございますわ」
ナルバスが少し間を置きましたわ——わたくしを見ておりますの。
「茶葉を」
「ええ」
「……それだけのために、いらっしゃったのですか」
「ええ」
ナルバスが静かに笑いましたわ——穏やかな笑いでございますの。
「……面白いことをおっしゃいますね。せっかくいらっしゃったのですから、少しお話を聞いていただけますか——その後で、お答えいたします」
「伺いますわ」
ナルバスが少し前に乗り出しましたわ——手を組みましたの。
話が始まりましたわ。
正しい生き方、でございますの——人はいかに生きるべきか。善意とは何か。人を導くことの意味。
声が柔らかうございましたわ——押しつけがましくはございませんでしたの。言葉が丁寧でございますわ。でも止まりませんでしたの——一つの言葉が次の言葉を呼んでおりますわ。
わたくしは聞いておりましたの。紅茶はございませんでしたわ。
「……人は、正しい道を示されることで、初めて本当の自由を得られるのです」
クーリエが少し座り直しましたわ——表情が動いておりませんでしたの。
「誰かのために生きること——それは義務ではありません。愛です。愛から動く時、人は最も輝く」
ヴァルターが前を向いておりましたわ——身動きがございませんでしたの。
「人は時に、自分が消えることで誰かを守れると思う。しかしそれは——本当の愛ではありません。愛とは、自分が在り続けることで誰かの傍にいることです」
わたくしはヴァルターを見ましたわ——少し間がございましたの。ヴァルターの手が膝の上にございましたわ。指が少し白うなっておりましたの。
ナルバスが語り続けましたわ。
しばらくしましたの。
「……いかがでしたか?」
少し間がございましたわ。
「お話はわかりましたわ」
「心に届きましたか?」
わたくしは少し間を置きましたわ。
「……紅茶が飲みたくなりましたわ」
部屋が静かでございましたの。
ナルバスがわたくしを見ておりましたわ——笑顔がございましたの。
「……少し、考えさせてください」
「ありがとうございますわ」
3人で部屋を出ましたの。
宿でございましたわ。
夕食が終わりましたの。クーリエが窓から外を見ておりましたわ——それから振り返りましたの。
「……あの方の話、長かったですね」
「ええ」
「クラリッサさんは、どう思いましたか」
「紅茶が飲みたくなりましたわ」
「さっきも言ってました」
「ええ」
クーリエが少し考えましたわ——また窓の外を見ましたの。
ヴァルターが椅子に座っておりましたわ——無言でございますの。少し間がございましたわ。
「……少し、考えます」とヴァルターが言いましたわ。
クーリエがヴァルターを見ましたの——それからわたくしを見ましたわ。
わたくしは銀のティーポットを取り出しましたの。
「……淹れますわ」
クーリエが少し間を置きましたわ——それから立ち上がりましたの。「湯、もらってきます」と言いましたわ。
ヴァルターが動きませんでしたわ——窓の外を見ておりましたの。
翌朝でございましたわ。
宿の扉を叩く音がございましたの——使者でございますわ。若い信徒でございましたの。
「ナルバス様より、お言葉をお預かりしました」
「ありがとうございますわ」
「地下聖堂への立ち入りを許可いたします。巡礼路の案内を付けましょう——ただし、立ち入り禁止区画につきましては、また改めて——と」
「承りましたわ」
使者が頭を下げましたわ。「ナルバス様のお導きで」と言いましたの——それから去りましたわ。
クーリエが後ろから顔を出しましたわ。「……許可、出たんですね」
「ええ」
「よかったです。いつ行きますか」
「今日でございますわ」




