第62話 夜の出来事
夜でございましたわ。
焚き火でございますの——霧の中の炎でございますわ。光が霧に散りましたの。遠くまで届きませんでしたわ——5人の輪だけが明るうございましたの。
ソフィアがセバスチャンの横に座っておりましたわ——自然にでございますの。いつの間にそこに移ったのか、わかりませんでしたわ。誰も何も言いませんでしたの——ただそこにいましたわ。
炎の音でございましたわ。
「ねえ?」とソフィアが言いましたわ——セバスチャンに向けておりましたの。
「……何だ?」
「最近疲れてませんか。均衡を一人で支えてるんでしょう?」
「疲れてない」
「でも消耗はしてますよね。少しずつ」
セバスチャンが炎を見ておりましたわ——何も言いませんでしたの。
「焦らなくていいですよ」とソフィアが言いましたわ。笑顔でございますの——炎の光の中でございますわ。「わたし、時間はあるので」
炎の音がしましたわ——薪が少し落ちましたの。
誰も何も言いませんでしたわ。
セバスチャンが炎を見ておりましたの——動きませんでしたわ。ソフィアが炎を見ておりましたの——横に座ったままでございますわ。クーリエがわたくしを見ましたの。わたくしは紅茶を一口飲みましたわ。冷めておりましたの。まだ飲めましたわ。
炎が音を立てましたわ——また薪が落ちましたの。
セバスチャンが何も言いませんでしたわ——炎を見ておりましたの。
わたくしは横からカップを一つ差し出しましたわ。
「セバス」
「セバスチャンだ」
受け取りましたわ——両手でございますの。一口飲みましたわ。
ソフィアが炎を見ておりましたわ——セバスチャンを見ておりませんでしたの。横に座ったまま、ただ炎を見ておりますわ。笑顔でございますの——炎を見ている笑顔でございましたわ。
ヴァルターが大盾を膝に置いておりましたわ——炭を見ておりましたの。クーリエがカップを両手で持ったままでございますわ——飲んでいませんでしたの。
炎が少しずつ小さくなっておりましたわ。
夜が深うなりましたわ。
炎が落ちておりましたの——赤い炭でございますわ。一人ずつ、横になりましたの。クーリエが外套を被りましたわ。ヴァルターが大盾を傍らに立てかけましたの。セバスチャンが岩に背を預けたままでございましたわ——目を閉じておりましたの。
ソフィアが横になりましたわ——目を閉じましたの。
わたくしは最後に横になりましたわ。
夜半でございましたわ。
炭の赤い光だけでございますの——炎はもうございませんでしたわ。
気配がございましたわ。
霧の外からでございますの——複数でございますわ。足音がございませんでしたの。霧の中を動いておりましたわ——慣れた者の動き方でございますの。ばらけておりますわ——一方向からではございませんでしたの。囲む動き方でございますわ。
セバスチャンが目を開けましたわ。
立ち上がりましたの——音がございませんでしたわ。鎧が鳴りませんでしたの。赤い炭の光の中で黒い鎧でございますわ——霧の中へ一歩入りましたの。
それから消えましたわ。
炭の音がしましたわ——薪が崩れましたの。
しばらく間がございましたの——霧の中でございますわ。風がございませんでしたの。静かでございましたわ——ただ静かでございますの。何の音もございませんでしたわ。
霧が少し動きましたの——奥の方でございますわ。
また静かになりましたわ。
霧が動きましたの——別の方角でございますわ。それからまた静かでございましたの。
それから少し間がございましたわ。
セバスチャンが戻ってまいりましたの——霧の中から出てきましたわ。鎧に霧の水滴がついておりましたの。剣を鞘に収めましたわ——納まる音がしましたの。
「……」
クーリエが目を覚ましましたわ。
「何ですか?」
「寝ろ」
クーリエが少し間を置きましたわ——炭の光の中でセバスチャンを見ておりましたの。それから横になりましたわ。外套を頭まで被りましたの。
ヴァルターが目を開けておりましたわ——大盾に手をかけたままでございましたの。今は手を離しましたわ。目を閉じましたの。
ソフィアが目を開けておりましたわ。
眠っていませんでしたの——最初から眠っていませんでしたわ。外套を被ったままでございますの——横になったまま、炭を見ておりましたわ。
「大変でしたね」
笑顔でございますの。
セバスチャンがソフィアを見ましたわ——少し間がございましたの。それから岩に背を預けましたわ。何も言いませんでしたの。
わたくしは紅茶を一口飲みましたわ——冷えておりましたの。まだ飲めましたわ。わたくしも眠っておりませんでしたの。
「ソフィアさんが手配なさいましたか?」
ソフィアがわたくしを見ましたわ——炭の光の中でございますの。
「まさか」とソフィアが言いましたわ。「わたし、そんなことしないですよ」
笑顔でございましたわ。
「……また来るだろう」とセバスチャンが言いましたの——炭を見ておりましたわ。
「そうでございますわね」
炭の赤い光でございましたわ——霧の中でございますの。
ソフィアがまた横になりましたわ。外套を被りましたの——目を閉じましたわ。
眠るのか眠らないのか、わかりませんでしたわ——炭の光では見えませんでしたの。
霧の中で静かでございましたわ。




