第60話 自称仲裁者
街に到着して2日目でございましたわ。
ソフィアが朝から動いておりましたの。宿を出るとすぐに、顔見知りらしい人物に声をかけておりましたわ——老人でございますの。荷車を引いておりましたわ。ソフィアが荷車の前に立って何か話しましたの。老人が笑いましたわ。短い話でございましたの——ただ老人の足取りが行く前より少し軽うなりましたわ。
クーリエがそれを見ておりましたの。
「あの人、さっきまで重そうな顔でしたよね」
「ええ」
「何を言ったんでしょう」
「さあ」とわたくしは言いましたわ。「聞こえませんでしたの」
クーリエが少し考えましたわ——それから前を向きましたの。
昼前でございましたわ。
市場の外れに人だかりがございましたの——10人ほどでございますわ。声が高うございましたの。何かが割れる音がしましたわ——陶器でございますの。
ソフィアが足を速めましたわ。わたくしたちより先でございますの。
人だかりの中に入りましたわ——笑顔でございますの。
「あー、大変。どうしたんですか?」
中の二人が振り返りましたわ——若い男性でございますの。二人とも息が上がっておりましたわ。足元に陶器の欠片が散っておりましたの。
「関係ないだろ」と一方が言いましたわ。
「そうですよね」とソフィアが言いましたの。「でも、ちょっと聞いていいですか。荷物の賠償の話ですか?」
男性が少し止まりましたわ。「……そうだよ」
「じゃあ、額の話ですね。お互いが納得できる額って、どのくらいだと思いますか?」
男性が額を言いましたの。もう一方が額を言いましたわ。二つの数字でございますの——思ったより近うございましたわ。
「じゃあ、間を取ったら?」とソフィアが言いましたの。
二人が少し黙りましたわ。
「……まあ、それでもいいか」
「それでいいか」
ソフィアが笑顔のまま一歩引きましたわ。二人が向き直りましたの——少し気まずそうでございましたわ。それでも話し合いを始めておりましたの。
人だかりが散りましたわ。
わたくしはその後を見ておりましたの。
二人が話し終えて別れましたわ——握手ではございませんでしたの。ただ別れましたわ。一方が路地に入りましたの——角を曲がるところで、少し肩が落ちておりましたわ。もう一方が市場の方へ歩きましたの——歩きながら一度だけ振り返りましたわ。路地の方でございますの。それからまた前を向きましたわ。
解決でございますの。
ソフィアが戻ってきましたわ。
「きれいに終わりましたね」とクーリエが言いましたの。
「そうですかね」とソフィアが言いましたわ。「でも、あの二人はまた揉めますよ。来月くらいに」
「なぜわかるのでございますか?」とわたくしは聞きましたわ。
「何度も見てるので」とソフィアが言いましたの。笑顔でございましたわ——口元は笑っておりましたの。目が少し先を見ておりましたわ——わたくしでもクーリエでもなく、さっき二人が別れた方角でございますの。「解決したように見えて、解決してないことの方が多くて。でも、続けるしかないので」
ヴァルターが路地の方を見ておりましたわ——男性の姿はもうございませんでしたの。
午後でございましたわ。
もう一度、ソフィアの仲裁がございましたわ——今度は宿の主人と泊まり客でございますの。部屋の汚れを巡る話でございましたわ。ソフィアが入って、二言三言で収めましたわ。
泊まり客が宿を出たところで、わたくしはその顔を見ましたの。
疲れた顔でございましたわ——揉めている時より疲れた顔でございますの。怒りが収まった後の顔とも少し違いましたわ——何かを置いてきた顔でございますの。
ヴァルターが静かに言いましたの。
「……あの方、大丈夫でしょうか」
「大丈夫ですよ」とソフィアが明るく言いましたわ。「怒ってるより楽になったはずです」
ヴァルターが泊まり客の背中を見ておりましたわ——宿を出てもう少し歩いたところでございますの。角を曲がりましたわ。見えなくなりましたの。
それからヴァルターが視線を戻しましたわ——ただ、どこを見るでもなく、少し下を向いておりましたの。大盾の縁に手が触れておりましたわ。
ソフィアがヴァルターを一度見ましたわ——それから別の方を向きましたの。何も言いませんでしたわ。
わたくしは茶葉の缶を荷物に仕舞いましたの——この街で一缶、補充しておりましたわ。
夜でございましたわ。
宿の食堂でございますの——4人でございますわ。クーリエが銀のティーポットで淹れた紅茶でございますの。ヴァルターが窓の外を見ておりましたわ。ソフィアが両手でカップを持っておりましたの。
少し間がございましたわ。
「クラリッサさんって——何を考えてるかわかんないですよね」とソフィアが言いましたの。
「観察しておりますわ」
「観察」とソフィアが繰り返しましたわ。「何を?」
「今は、ソフィアさんを」
ソフィアが少し笑いましたわ——昼間とは少し違いましたの。力が抜けた笑い方でございましたわ。
「それって孤独じゃないですか?」
「何故でございますか?」
「ずっと見てる側って——見られることがないじゃないですか」
わたくしは一口飲みましたわ。カップを置きましたの。
「ソフィアさんは、ヴァルターも、クーリエも疲弊させておりますわ」
ソフィアが少し止まりましたわ。
「疲弊させてないですよ」
「疲弊させておりますわ」とわたくしは言いましたの。「笑顔で触れますの——相手の重いところに。触れると、少し軽くなって、少し抜けて戻りますの」
ソフィアがカップを持ったままでございましたわ。
「……悪いことをしてるつもりはないですよ」
「存じておりますわ」
「仲裁も、本物ですよ」
「存じておりますわ」
ソフィアが少し黙りましたわ。クーリエが何も言いませんでしたの——カップを両手で持ったままでございますわ。ヴァルターが窓の外を向いたままでございましたの。
「……続きは後で、しましょうか」とソフィアが言いましたわ。
立ち上がりましたの——カップを置きましたわ。丁寧に置きましたの。
「おやすみなさい」
足音が階段を上がりましたわ。
食堂が静かになりましたの。
「……クラリッサさま」とクーリエが言いましたわ。
「何でございますか?」
「怒ってましたか、ソフィアさん」
わたくしは一口飲みましたわ。
「さあ」
クーリエが少し考えましたわ——それからカップを置きましたの。ヴァルターが窓から目を離しましたわ——それからわたくしを見ましたの。何も言いませんでしたわ。
紅茶が冷めてまいりましたの——まだ飲めましたわ。




