第45話 洞窟へ
洞窟の入口が見えてまいりましたわ。
大きな口でございますの——馬車が2台並んで通れるくらいの開口部でございますわ。岩肌が灰色でございますの。中から空気が流れておりましたわ——ひんやりとした空気でございますの。湿っておりますわ。
入口の前に、魔獣が3体おりましたわ。
狼に似た体格でございますの——ただし通常の個体より一回り大きうございましたわ。毛並みが不自然に均一でございますの。目が、揺れておりませんでしたわ。感情のない目でございますの。
3体が入口を行ったり来たりしておりましたわ。交差しませんでしたの——一定の間隔で動いておりますわ。決められた範囲を、決められた動きで動いておりますの。
「……規則正しいですね」とヴァルターが言いましたわ。
「ええ。感情で動いていないからでございますわ」
セバスチャンが腕を組みましたの。
「また、厄介な場所だ」
「また、でございますか」
「何年も均衡を保っていれば、厄介な場所には慣れる。慣れたくはなかったが」
クーリエが洞窟の中を覗こうとしておりましたわ。
「中、暗いですね」
「入れば見えてまいりますわ」
「入るんですか」
「ええ」
クーリエが少し間を置きましたわ。
「……茶葉のためですか」
「ええ」
クーリエがハンマーを構えましたの。
「わかりました」
3体が気づきましたわ。
巡回から接近へ——切り替わりが速うございましたの。通常の魔獣とは違いますわ。判断ではなく命令で動いておりますの——迷いがございませんでしたわ。
「ハンマー、使っていいですか」
「ええ、どうぞ」
光が弾けましたわ。
クーリエが横に踏み込みましたの——洞窟の入口は幅がございますわ。横方向への一掃でございますの。ハンマーが弧を描きましたわ——3体に順番ではなく、ほぼ同時に当たりましたの。
轟音でございましたわ。岩壁に叩きつけられましたの——3体が壁に当たって止まりましたわ。動きませんでしたの。
クーリエが着地しましたわ。ハンマーを確かめておりますの。
「……当たりました」
「見えておりましたわ」
ヴァルターが盾を下ろしましたの。セバスチャンが剣を収めましたわ——出す前に終わりましたの。
「閉所はやりやすいですね」とクーリエが言いましたわ。「逃げる方向が少ない」
「それはこちらも同じでございますわよ」
「あ」
「気をつけてくださいますか?」
「気をつけます」
洞窟の中に入りましたわ。
暗うございましたの——しかし完全な暗闇ではございませんでしたわ。壁でございますの。壁の所々に、小さな光が埋め込まれておりましたわ。石の中に光が閉じ込められているような——発光体でございますの。青白い光でございますわ。等間隔に並んでおりましたの。
「自然ではございませんわね」
クーリエが壁を触りましたわ。
「魔法ですか?」
「ええ。丁寧な仕事でございますわ」
ヴァルターが少し止まりましたの。
「……褒めているんですか」
「観察しておりますわ」
通路でございましたわ。真っ直ぐではございませんでしたの——少し進むと曲がり角がございますわ。その先にまた曲がり角でございますの。自然の洞窟が改造されておりましたわ——壁が削られておりますの。通路の幅が整えられておりますわ。床が均されておりましたの。
セバスチャンが壁を見ましたわ。
「何年もかけて作ったな」
「ええ。一人でやったとしたら——相当な時間でございますわ」
「何のために」
「研究でございましょう。この洞窟の魔力を使うために」
セバスチャンが少し止まりましたわ。
「魔力?」
「洞窟の中の空気を感じてみてくださいませ」
4人が少し止まりましたわ。
空気に、重さがございましたの。ポルトゥスでも、北の街道でもない重さでございますわ——外と全く違う密度でございますの。魔力でございますわ。薄いながらも、確かにございますの。
「……濃い」とクーリエが言いましたわ。
「ええ。外が薄い分、ここに集まっておりますの」
「だから茶葉が育つんですか?」
「育つものが育つ場所でございますわ」
ヴァルターが通路の先を見ましたの。
「奥はもっと濃くなりますか?」
「そう思われますわ」
セバスチャンが前を向きましたわ。
「行くか」
「ええ」
4人で通路を進みましたわ。発光体の青白い光が続いておりますの——奥へ、奥へと続いておりますわ。曲がり角の向こうに、また光でございますの。
足音が岩に反響しておりましたわ。外の音が、もう聞こえませんでしたの。




