第44話 中継の街
翌朝でございましたわ。
食堂へ降りていきますと、クーリエがすでに席についておりましたの。
テーブルの上に大皿が2枚ございましたわ。肉の煮込みでございますの——じゃがいもと根菜が入っておりますわ。厚切りのパンが籠に盛られておりましたの。もう1皿は根菜の盛り合わせでございますわ。素朴でございますが量は十分でございますの。
クーリエが皿をじっと見ておりましたわ。
動いておりませんでしたの。
目も、動いておりませんでしたわ。皿から目が離せない様子でございますの——いつからそうしているのか、というくらい静止しておりましたわ。
「座りましたわよ」
声をかけますと、ようやく顔を上げましたの。
「あ。……お腹が空いていると、目が離せなくなります」
「存じておりますわよ。そのくらい見ていれば料理も逃げませんわ」
「逃げません」
「ええ、逃げませんわ。どうぞ召し上がれ」
クーリエがようやくパンに手を伸ばしましたの。
肉の煮込みを一口食べましたわ。クーリエの目が丸くなりましたの。
「……おいしい」
「そうでございますか」
「じゃがいもが、ほろほろです」
「ほろほろでございますわね」
クーリエがもう一口食べましたわ。それからパンをちぎって煮込みに浸しましたの——なかなか良い食べ方でございますわ。
わたくしもひと口いただきましたの。素直な味でございましたわ。山の方の煮込みでございますの——根菜に甘みがございますわ。
扉が開きましたわ。
ヴァルターが降りてきましたの。食堂を見回して、わたくしたちのテーブルに来ましたわ。
「……先に頼んでおいてくれたんですか」
クーリエが顔を上げましたの。
「みなさんの分も」
「ありがとうございます」
ヴァルターが席に着きましたわ。静かに食べ始めましたの——一口目で少し間を置きましたわ。何も言いませんでしたの。ただ、次の一口が早うございましたわ。
また扉が開きましたの。
セバスチャンでございましたわ。食堂に入ってきましたの——ほかの宿泊客が2、3人おりましたわ。セバスチャンが黒い鎧のまま入ってきましたの。客が少し静かになりましたわ。
セバスチャンがわたくしたちのテーブルに来ましたわ。椅子を引いて座りましたの。
「……静かになったな」
「黒い鎧でいらっしゃいますから」
「脱ぐのも面倒だ」
「左様でございますわね」
宿の方がおそるおそる来ましたの。セバスチャンを見て、わたくしを見て——
「ご注文は」
「同じものを頼む」
「……かしこまりました」
宿の方が厨房に戻りましたわ。セバスチャンがテーブルの上のパンを見ましたの。少し間がございましたわ。
「もらっていいか」
「どうぞ」
セバスチャンがパンをひと口食べましたわ。何も言いませんでしたの。
食後でございましたわ。
クーリエが湯を持ってきましたの——宿の湯沸かしを借りてまいりましたわ。わたくしは荷物から茶葉を出しましたの。旅用の茶葉でございますわ——アルヴァニア・インペリアルは今日のためではございませんでしたの。
銀のティーポットに湯を注ぎましたわ。
少し、止まりましたの。
水でございますわ。この辺りの水は少し重うございますの——硬い水でございますわ。ポルトゥスの水とは違いますの。茶葉の開き方が変わりますわ——渋みが出やすうございますの。
蒸らし時間を短くしましたわ。
クーリエが傍で見ておりましたの。
「何か変えましたか?」
「蒸らしを少し短くしましたわ」
「なんでですか?」
「水が硬うございますわ。長く蒸らすと渋みが強く出ますの」
「……水で変わるんですか!」
「変わりますわ」
カップに注ぎましたの。4つでございますわ。
クーリエが一口飲みましたわ。
「……あ、いつもと違う」
「そうでございますわ」
「いつもの方が好きですか?」
わたくしは少し考えましたわ。
「それは——悪くはございませんわ」
クーリエが少し首を傾けましたの。
「悪くはない、って」
「ここの水でしか出ない味でございますわ。また飲めるとは限りませんの」
クーリエがもう一口飲みましたわ。今度は少しゆっくりでございますの。
ヴァルターがカップを持ったまま、窓の外を見ておりましたわ。山の方角でございますの——木々の間に、昨日見た岩肌がございますわ。
「今日、洞窟まで行けますか?」
「昼前には着きますわ」
「……わかりました」
セバスチャンがカップを置きましたわ。一口だけ飲みましたの——それ以上は飲みませんでしたわ。紅茶に慣れていない飲み方でございますの。
「行くぞ」
「もう少しございますわ」
セバスチャンが黙りましたの。
クーリエが残りを飲みましたわ。ヴァルターも飲み終えましたの。
わたくしが最後に飲み終えましたわ。
「では、参りますわ」
4人で宿を出ましたの。朝の空気でございましたわ——ひんやりとしておりますの。山の方から吹いてきておりますわ。
木々の間の岩肌が、近うございましたわ。




