第39話 図星を突く
レオガルドが来たのは、夜明け前でございましたわ。
1人でございましたの。馬もございませんわ。鎧を着ておりますの——ただし昨日と同じ鎧でございますわ。飾り気のない、実用一点張りの鎧でございますの。深紅のオーラが薄く揺れておりましたわ。
野営の焚き火が、まだ残っておりましたの。
わたくしは気配で目を覚ましましたわ。クーリエがすでに起きておりましたの。ヴァルターも立っておりますわ。セバスチャンが焚き火の向こう側で剣に手をかけておりましたの。
「夜明けを待てなかったのでございますか?」
「待てばお前たちが動く」
レオガルドが焚き火を挟んで立ちましたわ。4人を見ておりますの——順番に見ましたわ。わたくしを、クーリエを、ヴァルターを、セバスチャンを。
「魔王と騎士崩れと天界の者と——お前は何だ」
わたくしを見ておりましたわ。
「旅人でございますわ」
「旅人が俺の勢力圏を通る必要があるか」
「茶葉の産地がこちらの方角でございましたので」
レオガルドが少し黙りましたわ。
「……茶葉か」
「ええ」
「それだけのために、ここまで来たのか」
「それだけでございますわ」
レオガルドが深く息を吸いましたの。
「俺はお前たちを止める。力で」
「理由は何でございますか?」
「強さを試す。それだけだ」
レオガルドが動きましたわ。
深紅のオーラが一気に輝きましたの——昨日の比ではございませんわ。地面が微かに揺れましたの。本気でございますわ。
セバスチャンが前に出ましたの。剣を抜きましたわ。
レオガルドの剣とセバスチャンの剣がぶつかりましたの。音が夜明け前の空気に響きましたわ。セバスチャンが後ろに2歩下がりましたの——セバスチャンが下がるのは初めて見ましたわ。
「……強いぞ」
「存じておりますわ」
ヴァルターが横から盾を押し込みましたの。レオガルドが片手で受けましたわ——ヴァルターが吹き飛びましたの。受けではなく、払いでございますわ。
「盾ごと弾いた」とクーリエが言いましたの。
「そのようでございますわね」
クーリエが槍を6本展開しましたわ。レオガルドが剣で3本払いましたの。残り3本が刺さりましたわ——レオガルドが止まりませんでしたの。深紅のオーラが光の槍を包みましたわ。槍が弾けましたの。
「光の槍が弾かれた」
「ええ」
「どうするんですか?」
「考えますわ」
わたくしはフレアアローを10本展開しましたわ。レオガルドの周囲に仕込みましたの——ただしバーストしませんでしたわ。
セバスチャンが再び踏み込みましたの。レオガルドと剣を打ち合いましたわ——今度は下がりませんでしたの。押し合っておりますわ。
ヴァルターが起き上がりましたの。盾を構えましたわ。セバスチャンの横に入りましたの——セバスチャンの左でございますわ。盾でレオガルドの剣の軌道を変えましたの。セバスチャンの剣がレオガルドの鎧を掠めましたわ。
レオガルドが初めて後ろに下がりましたの。
一歩でございましたわ。ただし——下がりましたの。
レオガルドが立ち止まりましたわ。
深紅のオーラがさらに輝きましたの。逆上の一歩手前でございますわ——抑えておりますの。義理堅さが邪魔をしておりますわ。
わたくしは一歩前に出ましたの。
「レオガルド殿」
「何だ」
「昨日から観察しておりましたわ」
「何を」
「あなたが部下を見る時でございますわ。撤退の合図を出した後——部下が引くのを最後まで確認してから馬を返しておりましたわ。全員が下がったのを見てから、でございますの」
レオガルドが少し黙りましたわ。
「……それが何だ」
「義理堅い方でございますわ。本物の義理堅さでございますの」
「当然だ。部下を捨てて逃げる将はいらん」
「ええ」とわたくしは言いましたの。「ただ——」
レオガルドがわたくしを見ておりましたわ。
「あなたが本当に守りたいのは、部下ではございませんわ」
「何?」
「負けない自分でございますわ、レオガルド殿」
レオガルドの表情が変わりましたわ。
「……言いすぎだぞ」
「部下のために戦っておられますわ。それは本物でございますの。ただ——部下が無事でも、あなたが負けたら意味がない、とお思いではございませんか? 負けない自分でいることが、部下を守ることと同じになっておりますわ」
深紅のオーラが激しく揺れましたの——逆上の形でございますわ。
「黙れ」
「図星でございましたの?」
レオガルドが踏み込んできましたわ。
深紅のオーラが爆発するように輝きましたの——これが本気でございますわ。
セバスチャンが前に出ましたわ。ヴァルターが盾を構えましたの。クーリエが光の壁を張りましたわ。
わたくしがフレアアローを10本同時にバーストしましたの。
爆発でございましたわ。深紅のオーラと光の爆発がぶつかりましたの——弾けましたわ。
煙が晴れましたの。
レオガルドが立っておりましたわ。傷がございますの。ただし——立っておりますわ。深紅のオーラがまだ揺れておりましたの。
わたくしたちも立っておりましたの。
しばらく、誰も動きませんでしたわ。
レオガルドが立ち止まりましたわ。
深紅のオーラがまだ揺れておりましたの。わたくしたちも立っておりましたわ。
しばらく、誰も動きませんでしたの。
朝の光が少しずつ差してまいりましたわ。
レオガルドが、わたくしを見ておりましたの。それから4人を順番に見ましたわ。
「……まだ終わっていないぞ」
「存じておりますわ」
レオガルドが踵を返しましたの。歩き始めましたわ。深紅のオーラが遠くなりましたの——薄くなりましたわ——見えなくなりましたの。
セバスチャンが剣を収めましたわ。
「……なぜ私はこんな場所にいるんだ」
「お疲れ様でございますわ、セバス」
「セバスチャンだ」
クーリエが焚き火の残りを見ましたわ。
「まだ火、残ってます」
「お茶にしますわ」
ヴァルターが無言で薪を1本足しましたの。
4人で焚き火を囲みましたわ。
夜明けでございましたの。




