第40話 神宿
レオガルドが来たのは、翌日の昼でございましたわ。
1人でございましたの。昨日と同じ鎧でございますわ——剣を抜いた状態で来ましたの。深紅のオーラが揺れておりますわ。昨日の爆発するような揺れではございませんでしたわ——静かに、しかし昨日より濃く輝いておりますの。整えてきた、という輝き方でございますわ。
「また来ましたの?」
「考えた」
「結論は?」
「お前の言ったことは——認めない」
「左様でございますか」
「ただ」
レオガルドが剣を構えましたわ。
「間違っているとも言えない。だから——力で決める」
セバスチャンが前に出ましたわ。
レオガルドと剣がぶつかりましたの。昨日と同じ音でございますわ——ただし昨日と違いましたの。レオガルドが一歩も下がりませんでしたわ。深紅のオーラが輝いておりますの——昨日より明らかに強うございますわ。押し合いが、拮抗していないのでございますの。セバスチャンが少しずつ押されておりますわ。
ヴァルターが横から盾を押し込みましたの。
レオガルドが剣を払いながら、空いた片手でヴァルターの盾を掴みましたわ。そのまま投げましたの——ヴァルターが盾ごと宙を飛びましたわ。地面に叩きつけられましたの。
「ヴァルター」
「……まだ、動けます」
クーリエが槍を8本展開しましたわ。レオガルドに向けましたの。
レオガルドが剣を一閃しましたわ。8本が全て弾けましたの。深紅のオーラが槍を包んで消しましたわ——力の差でございますの。
「ハンマーを」
「……通じるかどうか」
「試しますわ」
クーリエのハンマーがレオガルドに向かいましたわ。レオガルドが剣で受けましたの——ハンマーが弾かれましたわ。クーリエが後ろに吹き飛びましたの。
セバスチャンがまだ踏ん張っておりましたわ。ただし——剣を押されておりますの。レオガルドが一歩踏み込みましたわ。力が増しましたの——セバスチャンの足が滑りましたわ。止まれませんでしたの。剣ごと弾かれて、横に吹き飛びましたわ。
わたくしはそれを見ておりましたの。
レオガルドは魔王を倒しに来ておりますわ。誰が見ても、正しい行動でございますの。世界の均衡のために、勇者が魔王を討伐する——本来そうあるべき話でございますわ。
ただ。
わたくしはこの数週間で、セバスチャンという人物を見ておりましたの。消耗しながらも均衡を保ち続けている。限界に近いけれど、まだ保っている。今の状態が、辛うじて世界を繋ぎ止めておりますわ。
もしここでセバスチャンが倒されたなら——勇者達の膠着はまだ続いておりますの。新たな魔王が選出されるかもししれませんわ。今度は誰が均衡を保つのでしょうか。今より悪い状況になる可能性が、わたくしには見えておりますわ。
推測でございますの。確信ではございませんわ。
ですから——退くわけにはいきませんでしたの。
レオガルドとわたくしの間に、何もなくなりましたわ。
深紅のオーラが輝きましたの——一歩、踏み込んできましたわ。
「ハンマー、使います」
クーリエの声でございましたわ。
光が弾けましたの。青い瞳が輝いていますわ。
神宿でございますわ——クーリエが光の粒を引きながらレオガルドの側面に向かっておりますの。槍が上空に10本展開されましたわ。わたくしの周囲を囲む形でございますの——同時維持でございますわ。通常ではできない展開でございますの。
ハンマーがレオガルドの側面に迫りましたわ。
レオガルドが剣で受けましたの——弾きましたわ。ただし、今度は小さく後ろに下がりましたの。
クーリエが反対側に回りましたわ。神速でございますの。槍が4本、レオガルドの後方に向かいましたわ。レオガルドが振り向いて払いましたの——その隙にハンマーが正面から来ましたわ。
当たりましたの。
レオガルドが後ろに3歩下がりましたわ。
深紅のオーラが激しく揺れておりますの。
クーリエが止まりませんでしたわ。神速で回り込みましたの。ハンマーが左から来ましたわ。払いましたの——右から槍が4本来ましたわ。うち2本が当たりましたの。
レオガルドがさらに下がりましたわ。
クーリエが正面に回りましたの。ハンマーを両手で構えましたわ。
深紅のオーラが最大に輝きましたの——
弾けましたわ。
音はございませんでしたわ。深紅の粒が爆発するように四散しましたの。光の粒が空気に散りましたわ。地面に落ちて、消えましたの。
レオガルドが立っておりましたわ。オーラがございませんでしたの。
剣を持つ手が、静かに下がりましたわ。
しばらく、そのままでございましたの。誰も何も言いませんでしたわ。
「……負けた」
静かな声でございましたわ。怒りではございませんでしたの。
「よろしゅうございますわ」
「負けを認めたのは——初めてだ」
わたくしは少し間を置きましたわ。
「存じておりますわ」
クーリエの神宿が静かに収まりましたの。光の粒が少しずつ消えていきましたわ。
「発動しました」とクーリエが言いましたの。
「ええ、見えておりましたわ。止まれましたか?」
「……今回は、止まれました」
レオガルドが踵を返しましたわ。歩き始めましたの。
3歩ほど進んだところで、止まりましたわ。振り返りませんでしたの。
「全てに決着がついたら——教えに来い」
「承知いたしましたわ」
レオガルドが歩き始めましたわ。街道の先へ消えていきましたの。
セバスチャンが剣を収めましたわ。
「……」
「お疲れ様でございますわ、セバス」
「セバスチャンだ」
ヴァルターが盾を背負いましたわ。投げられた方の腕を確かめておりますの。
「回復しますか?」とクーリエが聞きましたの。
「……お願いします」
クーリエがヴァルターの腕に手をかざしましたわ。それから少し止まりましたの。
「回復魔法、私がやっていいですか?」
「クーリエができますの?」
「少しだけ、習いました」
わたくしはヴァルターを見ましたわ。ヴァルターが小さく頷きましたの。
「どうぞ」
クーリエが両手をかざしましたわ。淡い光でございますの——ヴァルターの回復魔法とよく似た光でございますわ。傷が塞がりましたの。
「……ありがとうございます」
「習ったのはヴァルターさんからです」とクーリエがわたくしを見て言いましたわ。
ヴァルターが少し間を置きましたの。
「……そうですね」
それだけでございましたわ。
クーリエが言いましたの。
「お茶にしますか?」
「いたしますわ」
4人で荷物を下ろしましたの。クーリエが湯を沸かし始めましたわ。
街道は静かでございましたの。
深紅のオーラはもうどこにもございませんでしたわ。




