第37話 2人目の勇者
街道が開けてまいりましたわ。
木々が後ろに下がって、視界が広くなりましたの。遠くまで見渡せますわ——ただし、遠くからも見えますの。
正面から来たのは、騎士ではございませんでしたわ。
1人でございましたの。馬でございますわ。大柄な人物でございますの——馬に乗っていても、体格の大きさがわかりましたわ。赤みがかった短髪でございますの。深紅の瞳でございますわ。鎧は重厚でございますが飾り気がございませんでしたの。実用一点張りの鎧でございますわ——長く戦場にいた方の鎧でございますの。
そして——薄く、赤いものを纏っておりましたわ。遠目でもわかりましたの。深紅でございますわ。体を薄く覆うように、揺れておりましたの。
馬を止めましたわ。少し離れた場所でございますの。
低い声でございましたわ。
「お前たちが、魔王と共闘した連中か」
わたくしはクーリエを見ましたの。クーリエが小さく頷きましたわ。ヴァルターが盾の位置を確かめておりますの——ただし抜いておりませんでしたわ。
「そうでございますわ」
人物が馬から降りましたの。それだけで地面の重みが変わった気がしましたわ——そういう方でございますの。
「俺はレオガルドだ」
名乗っただけでございましたわ。説明もございませんでしたの。名乗れば十分、という方でございますわ。
「クラリッサと申しますわ。こちらはクーリエ、こちらはヴァルターでございますの」
レオガルドがヴァルターを見ましたわ。少し止まりましたの。
「……ゼルブルクの鎧だな」
「そうです」
「なぜ騎士団を捨てた」
ヴァルターが少し間を置きましたわ。
「捨てたわけではありません。自分から出ました」
「同じことだ」
「違います」
レオガルドが少し黙りましたの。それから、わずかに表情が動きましたわ。不快ではございませんでしたの——面白い、という顔でございますわ。
「……言うな」
レオガルドがわたくしを見ましたわ。
「魔王と何をしていた」
「変異種の駆除でございますわ。道中に群れがおりましたの」
「それだけか」
「茶葉の産地がございましたので」
レオガルドが少し止まりましたわ。
「……茶葉」
「北東山岳の産地でございますわ。この道を通らなければ辿り着けませんでしたの」
「茶葉のために、魔王と共闘したのか」
「共闘というより——同じ方向を向いておりましたわ。それだけでございますの」
レオガルドが、わたくしを見ておりましたわ。しばらく、そのままでございましたの。
「……理解できんな」
「そうでございますかしら」
「魔王と一緒にいて、怖くないのか」
「怖い理由がございませんわ」
「魔王だぞ」
「存じておりますわ。ただ——あの方が怖い方かどうかは、3日間見ておりましたわよ」
レオガルドが少し黙りましたわ。それから、ふん、と短く言いましたの。否定ではございませんでしたわ——何かを確認した、という声でございますの。
レオガルドが剣に手をかけましたわ。
「力を見せてもらう」
「今でなければなりませんか?」
「俺の勢力圏を通るなら、それくらいは当然だ」
わたくしはクーリエを見ましたの。クーリエが槍を展開しましたわ。上空に4本でございますの。ヴァルターが盾を外しましたわ。
レオガルドが剣を抜きましたの。片手でございますわ——大きな剣でございますの。それを片手で持っておりますわ。
「かかってこい」
「そちらからどうぞ」
レオガルドが少し止まりましたわ。それから、また面白そうな顔をしましたの。
動きましたわ。
速うございましたの。大柄な体格からは想像できない速さでございますわ。踏み込んだ瞬間、深紅のオーラが強く輝きましたの——戦闘に入った瞬間でございますわ。ヴァルターが盾を前に出しましたの——間に合いましたわ。ただし、衝撃でヴァルターが後ろに大きく下がりましたの。
「盾があるな」
「ございますわ」
「いい盾だ」
クーリエの槍が4本、レオガルドの周囲に向かいましたわ。レオガルドが剣で2本を払いましたの——残り2本が刺さりましたわ。
レオガルドが少し動きを止めましたの。槍を見ましたわ。
「……光の槍か」
「そうです」とクーリエが言いましたの。
「天界のものか」
「そうです」
レオガルドが槍を引き抜きましたわ。傷が見えましたの——ただし表情が変わりませんでしたわ。
「もういい」
剣を収めましたの。
わたくしもフレアアローを消しましたわ——展開しておりましたの、気づかれておりませんでしたわ。
「……抜いていたのか」
「ご用心でございますわ」
レオガルドがわたくしを見ましたわ。それから、短く笑いましたの。声に出る笑いでございましたわ——短かったですが、本物でございましたの。
「面白い連中だ」
「ありがとうございますわ」
「褒めていない」
「存じておりますわ」
レオガルドが馬に戻りましたわ。
「通っていい。ただし——」
振り返りましたの。
「また送る。次は多い」
「ご丁寧にありがとうございますわ」
レオガルドが少し止まりましたわ。
「……お前は何をしに来た。本当に茶葉だけか」
「今のところはそうでございますわ。道中に用事がございますの——ただし、茶葉が優先でございますわよ」
「用事、とは」
「さあ。どうなりますかしら」
レオガルドがわたくしを見ましたわ。しばらく、そのままでございましたの。
「……答えになっていないぞ」
「そうでございますわね」
レオガルドが馬を返しましたわ。去っていきましたの。
3人でその背中を見ておりましたわ。
「……大きい人ですね」とクーリエが言いましたの。
「そうでございますわね」
「また来ますよ、あの人」
「そうでございますわ」
ヴァルターが盾を背負い直しながら言いましたの。
「……手加減していましたね、あれは」
「存じておりますわ」
「本気になったら——」
「その時はその時でございますわよ」
3人で歩き始めましたわ。




