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第36話 刺客の波

翌朝でございましたわ。


 ヴァルターが早くに起きておりましたの。わたくしが目を開けた時、すでに焚き火の残りを片付けておりましたわ。


「おはようございます」


「おはようございますわ」


 少し間がございましたの。ヴァルターが荷物を整えながら言いましたわ。


「……昨日のことを、少し説明させてください」


「どうぞ」


 ヴァルターが手を見ましたの。


「回復魔法が、感情と連動しています。誰かが傷つくと思った瞬間——間に合わないと感じた時に、制御より先に魔法が動こうとします。抑えようとしても、溢れる方が速い」


 わたくしは何も言いませんでしたわ。


「以前、それで——うまくいかなかったことがあります。それで騎士団を去りました」


 ヴァルターが荷物を背負いましたわ。


「昨日止まれたのは——あなたが名前を呼んでくださったからだと思います。ただ、次も止まれるかどうかは、わかりません」


「止まれましたわ、昨日は」


「……はい」


 クーリエが寝ぼけた顔で起き上がりましたの。


「……朝ですか?」


「朝でございますわよ」


「早いですね」


「そうでございますわ」




 街道を進みましたの。


 前日より木々が少なくなりましたわ。開けた場所が増えておりますの——ただし、それだけ見通しがよくなりますわ。こちらからも見えますが、向こうからも見えますの。


 正面から来ましたわ。


 騎士が5人でございますの。馬ではございませんでしたわ——徒歩でございますの。鎧が揃っておりますわ。前回の2人より数が多うございますの。


「また来ましたよ」とクーリエが言いましたの。


「報告すると申しておりましたわ」


 騎士5人が横一列に並びましたわ。街道を塞いでおりますの。


「これ以上進むなら、実力で止める」


「前回もそうおっしゃっておりましたわ」


「前回は手加減した」


「存じておりますわ。今回はそちらも本気でございますわね」


 騎士がわずかに動きましたわ。合図でございますの。


 ヴァルターが盾を抜きましたわ。地面に深く刺しましたの——盾が防壁として立ちましたわ。わたくしとクーリエの前でございますの。


「下がってください」


 わたくしは下がりませんでしたわ。


「フレアアローを仕込みますわ。少し待てますか?」


「……わかりました」


 ヴァルターが盾の前に出ましたわ。騎士5人が動き始めましたの。


 ヴァルターが盾を地面から引き抜いて前に構えましたわ。先頭の2人を受け止めましたの——押されておりますわ。足が後ろに滑りましたの。それでも止まっておりますわ。


 クーリエが上空に槍を6本展開しましたわ。騎士5人の頭上でございますの。


「上です」


 騎士たちが一瞬見上げましたわ——その瞬間でございますの。


 わたくしが指を鳴らしましたわ。


 フレアアロー6本が同時にバーストしましたの。


 3人が吹き飛びましたわ。残り2人がまだ動いておりますの。クーリエの槍が1人に刺さりましたわ。


 最後の1人がわたくしに向かってまいりましたの。剣を構えておりますわ——速うございますの。


 間合いに入られましたわ。


 剣がわたくしの肩口をかすりましたの。大したことはございませんわ——ただ、かすりましたの。


 その瞬間でございましたわ。


 ヴァルターの手が光りましたの。白い光でございますわ——昨日と同じ光でございますの。


 ヴァルターが歯を食いしばりましたわ。


 わたくしはエアープレスで最後の騎士の足元を崩しましたの。騎士が倒れましたわ。


 ヴァルターの手の光が、少しずつ小さくなりましたわ。消えていきましたの。


 止まりましたわ。


 静かになりましたの。




 ヴァルターがわたくしのところに来ましたわ。


「肩を見せてください」


「大したことはございませんわよ」


「確認させてください」


 肩口でございましたの。布が少し切れておりましたわ。皮膚に浅い傷でございますの。


 ヴァルターが両手をかざしましたわ。今度は淡い光でございますの——整っておりましたわ。傷が塞がりましたの。


「……止まれました」とヴァルターが言いましたわ。自分に言い聞かせるような声でございましたの。


「止まれましたわ」


 クーリエがヴァルターの手を見ておりましたわ。


「……あの光、私にもできますか?」


 ヴァルターが少し驚いた顔をしましたの。


「天界の者が、回復魔法を?」


「少しだけでいいです。教えてもらえますか?」


 ヴァルターが少し考えましたわ。


「……やってみます」


 クーリエが騎士たちの様子を確認しながら言いましたの。


「また報告されますね」


「そうでございますわ」


「何人来ますかね、次は」


「さあ。ただ——」


 わたくしは街道の先を見ましたわ。


「諦める理由がございませんわ」


 クーリエが少し考えましたの。


「私たちがですか? それとも向こうがですか?」


「どちらもでございますわ」


 ヴァルターが街道の先を見ましたわ。それから前を向きましたの。


「……次も、止まります」


 3人で歩き始めましたわ。

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