第24話 核心を突く
街道を東に進んで半日ほどでございましたの。
次の宿場に入ろうとした時でございましたわ。
宿場の入口に、アレンが立っておりましたの。
穏やかな服装は変わっておりませんでしたわ。ただ、今日は手に小さな魔道具を持っておりましたの。石造りの筐体に魔力を流す溝が刻んである。起動前の状態でございましたが、持ち方が慣れた持ち方でございましたわ。
体を、白銀の光が薄く覆っておりましたの。
「お待ちしていました」
「ご丁寧にありがとうございますわ。わざわざ先回りでございますか?」
「街道にはまだ観測の仕組みがあります。続きが聞きたくなりました」
続き、でございましたの。
昨日の広場での会話でございますわ。「それは——」で止めたところでございますの。
「続きは、戦いながらでも聞けますか?」
アレンが魔道具を起動しましたの。
白銀の光が強くなりましたわ。
宿場の石畳が、一斉に光りましたの。白い光が継ぎ目に沿って走って、宿場全体に網が張られましたわ。街灯が昼間に点灯しましたの——照明ではなく、動きを感知する光でございますわ。
「クーリエ」
「わかってます」
クーリエが上空に光の槍を展開しましたの。
アレンが二つ目の魔道具を取り出しましたわ。宿場の入口の両脇の柱から、鉄格子が溝に沿って滑り落ちてきましたの。退路が塞がれましたわ。
「クーリエ、格子でございますわ」
クーリエが槍を2本、格子に向けて落としましたの。溝から外れて格子が傾きましたわ。通り抜けられる隙間ができましたの。
アレンが動き始めましたわ。
建物の間を移動しておりますの。角を利用して、わたくしたちから見え続けながら、かつ槍の直撃を建物で遮る位置を保っておりますわ。動くたびに白銀の光が建物の影に滲みましたの。
地面から風が吹き上がりましたの。石畳の隙間に仕込んだ魔道具でございますわ。局所的な上昇気流が足元を不安定にしましたの。
わたくしはフロアウォールで足元の石畳を固定しましたの。クーリエが隣に着地しましたわ。
クーリエが槍を展開し続けましたの。アレンの移動先を塞ぐように落としていきましたわ。アレンが変えて、変えて、変えて——止まる時間が短い。複数のルートを事前に計算してあるのでしょうわ。
わたくしは観察しておりましたの。
建物の角。石畳の網の配置。アレンの視線。
アレンが魔道具を確認するたびに、ほんの一瞬、動きが遅れますの。手元を見る、その間だけでございますわ。
それから——もう一つ。
アレンは建物の角を必ず左回りに使っておりますの。右からの槍に対して左へ回る。左からの槍に対しても、一度右へ動いてから左回りで建物を回る。癖でございますわ。あるいは、この宿場の建物配置で左回りの方が想定ルートが多いのかもしれませんの。どちらでもよろしいですわ。
わたくしは建物の影を使って動き始めましたの。
クーリエへは何も言いませんでしたわ。
「クーリエ、右の建物の壁際へ」
それだけ言いましたの。
クーリエが槍を右の建物の壁際に落としましたわ。アレンが左に動きましたの。建物を左回りで回ろうとしましたわ——その角に、わたくしがおりましたの。
アレンが止まりましたわ。
間合いが近い。魔道具を起動する時間がない。アレンが一歩後退りましたの。
その瞬間でございましたわ。後退りながらアレンの手が動きましたの。四つ目の魔道具でございますわ。建物の壁から、鉄の腕が飛び出してきましたの——わたくしを建物ごと挟み込もうとする仕組みでございますわ。
壁に仕込んでおいた、でございますの。
わたくしはエアープレスで後方に跳びましたの。鉄の腕がわずかに届きませんでしたわ。アレンとの間合いが開きましたの。
アレンが次の魔道具に手をかけましたわ。白銀の光が、また強くなりましたの。
わたくしはその動きを見ながら、前日の広場を思っておりましたの。
噴水の水量を一定に保つ機構。季節が変わっても、気温が変わっても、同じ流量で水が出る。それが正しい設計だと思いませんか——アレンがそう言った時の声でございますわ。正しい、という言葉の置き方でございますの。問いではなく、確かめる形でございましたわ。
この方は、正しさを疑ったことがないのでしょうわ。
自分の設計の外側に、何があるかを。
アレンが魔道具を起動しましたの。
石畳の網が強く光りましたわ。感知の光が、わたくしの足元を照らしておりますの。位置が把握されましたわ。
次が来ますわ。
わたくしは動きませんでしたの。
アレンが少し止まりましたわ。動かない相手を前に、次の一手を選んでいるのでございますの。計算しているのでございますわ。この状況でわたくしが取りうる行動を、順番に潰していっているのでしょうわ。
その計算の時間が、わたくしには十分でございましたの。
フレアアローを1本、アレンの足元の石畳に放ちましたの。刺さりましたわ。
アレンが足元を見ましたの。その一瞬。
エアープレスを背後から自分に当てましたの。風の衝撃が背中を押して、距離を一気に詰めましたわ。アレンが顔を上げましたの——間合いの内側でございましたわ。
アレンの手の魔道具が、起動しかけましたの。白銀の光が、これまでで一番強く輝きましたわ。
わたくしは核心を突くことにしました。
「あなたが作り直した世界も、同じ欠陥を持ちますわ。設計者が同じでございますもの」
アレンが、止まりましたの。
白銀の光が、最大に輝いたまま——揺れましたわ。
起動しかけた魔道具が、止まりましたの。
穏やかな顔でございましたわ。変わっておりませんでしたの。ただ、穏やかさの質が変わっておりましたわ。表面は同じでも、その下で何かが動いておりましたの。
わたくしはアレンを見ておりましたわ。アレンもわたくしを見ておりましたの。
「……根拠は」
アレンが言いましたの。声が穏やかでございましたわ。ただ、穏やかさを保つために、何かを使っているような声でございましたの。
「設計した者の想定が、設計の外側を決めますわ。あなたが世界を作り直しても、あなたの想定の外は残りますの。それが欠陥でございますわ」
アレンが黙りましたの。
石畳の白い網が、ゆっくりと光を失っておりましたわ。白銀のオーラも、輝きが落ちていきましたの。
クーリエが上空に槍を展開したまま、静止しておりましたわ。
宿場が静かでございますの。
アレンの手の中で、起動しかけた魔道具が光を失いましたわ。
そのまま、握り締められておりましたの。
穏やかな顔の下で、何かが押さえられておりましたわ。押さえられながら、ゆっくりと、形を変えようとしておりましたの。




