リメイク第二章 STAND BY ME
テープから音声が流れ始めた。
『やぁ、聞こえる?これを聞いてるのは多分桜蘭君たちだよね。まずはおめでとう・・・そして、ごめんなさい。その日記に書いてある事、それが真実だ。ニヒルさんの言う通り、この世界は彼らによって支配されてる。その彼らを見つけ出す為に僕は君たちを利用した。
全ては、僕が僕であり続けたいわがままだ。謝って済む話しじゃない、取り返しのつかない事をしてしまった。けど、僕は彼らと戦う。誰がどうなろうと、どれだけ犠牲にさせようと、例えこの命が果てる事になったのだとしても、世界の全てから憎まれても、僕は彼らを許さない。僕の平和を奪った事を、僕を生み出してしまった事を後悔させてやる・・・
・・・けどそのせいで、僕は僕でいられなくなった。
グレイシア・・・本当にごめん、そしてありがとう。僕の為にずっと・・・
グレイシア、僕・・・ずっと謝りたかったんだ。けど、出来なかった。そして今日も、こんな形で君に謝る事になってごめん。ずっと、ずっとこうやって僕は君を騙してきた・・・ははは、変だな。また笑いが勝手に・・・やめよう、謝ったところで何も変わらないんだ。
話、戻そっか・・・僕は全て準備した、彼らを引きずり出す為に、あらゆる所にこの2年、種を撒き続けた。彼らの最終目的は不老不死だけなんかじゃない。その技術が僕たちの世界にもたらされればどうなるか、魔法の技術は軍事転用され、核以上の脅威になるだろう。その結果、この世界の平和どころか、全ての世界が滅亡のバッドエンドへと向かう。それを止められるのは君たちしかいない・・・
けど、僕の言った事のほとんどは僕の憶測でしかない。彼らも本当に存在するか、証拠は一切ない。僕は全てを捨てて準備したけど、それを使うのは桜蘭君、君たちだ・・・だからこの先戦うのか、選ぶ権利はある。
彼らの今の目的は経過観察、それが脅かされない限り彼らが動く事はない。つまり、君たちはこの世界で平和に暮らす選択も出来る。20年は・・・だけどね。その間に元の世界に帰る方法が見つかるのならそれでも良い。君たちに無理強いは出来ない。
けど、願わくば、差し出がましい申し出になるけど、どうか、僕の遺志を継いではくれないだろうか・・・最期までわがまま言って、申し訳ない・・・』
「これが・・・三上の意志?」
俺が理解出来た事は奴の原動力となった力だ。どうりで戦う度、ニコニコ笑ってるのにめちゃくちゃな怒りを感じた訳だ。そして、その怒りがずっとあったって事は、三上の言葉は真実で、この本の言ってる事も本当だって事だ。
「三上さん、どうりで時折優しさを感じる時があると思ったら・・・あの時の感覚は間違いではなかったのですね。全ては、わたくしたちを思っていたから・・・」
零羅は手を胸に当てて少し考えていた。
「けど、やっぱり勝手よ。ここまで真実を打ち明けておいて、決めるのは私たちだ?あいつ何でこんな時に謙虚なのよ、私を脅した時みたいにガツンとやりなさいよね」
エルメスは頬を膨らませて怒ってる。
「エルメスちゃんよ、三上 礼って男の本当の姿があれだ。あいつぁ、無理矢理自分を押し殺してあの悪の王を演じてた。本来のあいつは昔と何ら変わってねぇ、少しナヨナヨしてて、お人よしで、家事が得意なお母さんみたいな性格だ。ま、それ言うとキレるけどな」
スチュワートは鼻で笑ってみせた。
「知らない罪と知り過ぎる罠ってやつでござるな・・・拙者たちはどうやら知り過ぎてしまったでござる・・・うむ、こんなのどう考えても拙者たち、引き継ぐしかないではないか!!知ったからにはもう、ね?」
麗沢も大概お人好しなんだよな、もう覚悟決めたのか。俺はまだだ・・・この音声、確かにあいつの遺志なんだろう。そして壊して燃やしたのも、このテープはまるで自分の言い訳に感じたからなんだろう。
そして、このテープで最も重要なのはグレイシアだ。彼女はどう思ったんだ?これで、何かが変わるのか?
「・・・・・・・・・・」
グレイシアはまだじっとテープに耳を傾けていた。もう終わってるのに・・・あれ?待て、テープ・・・まだ回り続けてるのか?
俺カセットテープってよく分からないけど、録音ボタン止めたら止まるとかじゃないの?グレイシアは、何を聞いてるんだ?
「グレイシア、何ずっと・・・」
「音がまだ、聞こえるから・・・レイ、何かやってる」
「お、本当でござるな。ガサガサ聞こえるでござる」
これ、録音がまだ続いてるのか。停止ボタン押し忘れたのか?
『・・・っ、して』
ん?何か言った?その直後、再び三上の声がラジカセから聞こえてきた。
「レイの奴がこいつを壊したのは、これを録音しちまってた。この先が九割だろうぜ」
三上がこれを消した原因・・・俺ももう一度耳を傾けた。
『はは、僕は何をしてるんだ・・・なんでなんだろ。何で僕はこんな事をしてる・・・僕がやるべき事は、元の世界に帰る方法を探す。それに特化すれば別に良かったのに。出来なくても、生き残れる可能性は少なからずあった。なのに、何で僕はこんな選択をしたんだろ。
こんな選択をしなければ・・・僕は失わずに済んだのに・・・なのに、どうして僕は・・・
時折、僕が分からなくなる。あの覚醒の時から、いや、この世界に来た時からずっとだ。僕は僕らしくなくなる・・・僕が望んでたのはこんなのじゃない。なのに、僕の中にあるうざったい正義が、僕を殺しに来る・・・
僕は・・・ただ、みんなと、フォックスと・・・グレイシアと、ただ平和に暮らしたかった。
ずっと一緒に居たかった・・・普通に仕事をして、帰って一緒にご飯食べて、休みには一緒に買い物行って、そうやって生きたかった・・・僕は、グレイシアとずっと一緒にいたかったんだ!!
あはっ!!あはははっ!!!けどさ!!それはもう叶えられないよ!!ははっ!!もう!!僕の!ちっぽけな願いすらっ!!あっはっははは!!!消えろ!消えてしまえっ!!あはっ!!!叶わないならっ!!僕はこの世界をっ!!ぶっ壊す!!!あはは!!!
はぁぁ・・・だから僕は、彼らの求めた全てを、この世界の遺産を、全て零にする・・・ははは・・・あれ?録音、切り忘れてた・・・あーあ、まぁいっか、やっぱりやめよう。残すのはニヒルさんの日記で十分だ・・・僕は、許される必要なんかないんだから・・・ブツッ・・・』
テープはここで切れた。
「これがレイの意志だ。もう分かるな?あいつがここまでしてここまで進んでこれたのか・・・あいつが精神をぶっ壊した理由が」
「・・・違う、レイは彼らを欺く為に、その為に自分を殺した、愛する事を捨てて、戦いの愉楽に身を任せた・・・その結果、レイは壊れた・・・」
「グレイシアちゃん、あんさんも頑固だねぇ。その壊れるまでにあいつが自分を追い込んだのは、紛れもない。グレイシア、あんたがいたからだ・・・
あいつぁ、確かに愛を捨てたのかもな。だからあんさんを愛す事が出来なかった。けどな、あいつが動き続けたのも愛情が原動力だ。あいつが本当に愛していたのは、グレイシア、お前と共に生きる事を愛してたんだよ」
「っ・・・」
「けど、あいつはそれだけじゃ満足出来なかった。かつてあったあいつの平和、その全てが揃ってこその平和だ。あいつぁ、この世界で生きる日常を愛してたのさ・・・その全てを取り戻す為にあいつぁ、自分を殺した・・・
グレイシア、あいつはな、本当はそんなに強い奴じゃねぇよ。好きな事の為に命懸けた馬鹿ってだけだ。あいつは化け物でもなんでもねぇ、ただの人間だ」
俺はもう何も言えない、これが真実。三上が何でいつも変な風に笑ってたのかも、ようやく納得が出来た。もしこれが手の込んだ嘘なのだとしたら、それはもう笑うしかない。けど、グレイシアの震えた手を見ればここに来て知った全てが真実だってよく分かる。
「なんで・・・私に教えた?レイは、絶対にこんな事を人前で言わない・・・絶対に隠すから」
「あぁ、勿論隠してあったぜ?さっきも言ったが、めちゃくちゃにぶち壊されて、燃やしてあった。けど、それだけだ。本来のあいつなら灰のかけらも残さないはずだ。なのに、俺は修復出来た・・・何故か分かるか?」
・・・ぶんぶん
グレイシアは小さく首を横に振る。
「これこそがあいつの弱さだからだ。誰だって嫌われ者になんかなりたく無いだろ。だからあいつぁ、これを残した。もしかしたら、俺が直す事が分かってたのかもしれないな。それに俺ぁあいつのダチだ、俺もあいつが好きだった。忠誠もクソもねぇ、ただダチが悪く思われるのが俺ぁ納得出来なかったってだけだ。ま、俺がただのイタズラ好きってのもあるけどな・・・
グレイシア・・・レイは、お前に示したかったんだよ・・・悪の王じゃない、一人の男としてな。レイの奴、お前の告白に、曖昧な回答しか言わなかっただろ。そいつの答えがこいつだ」
「もういい、言わなくて良いから・・・スチュワート」
グレイシアはスチュワートに止めるように言うが、スチュワートは止まらない。
「いや聞け、グレイシア・・・言っただろ。ダチが悪く思われるのが嫌だ。こんな形じゃなくて、本当はあいつの口から言わせたかったが・・・仕方ねぇな。三上 礼は、グレイシア ダストを愛していた。他の誰よりもな・・・それだけは覚えててくれ、俺からのお願いだ。グレイシアちゃん・・・」
スチュワートはグレイシアに頭を下げた。
ポタ・・・ポタ、
グレイシアさんの方から音がした、さっきの握り拳から滲んだ血じゃない。これは、紛れもない彼女の涙だ・・・
スチュワート、あんたも大概な奴だな。三上がグレイシアを愛していた。この真実は、自分が愛されていないからこそと言うその力を原動力としていた彼女にとって、心の支えを根本的に崩しかねない事だ。
「・・・れ、また・・・スチュ・・・ワート、わたし・・・また、しゃべれ・・・ない」
「それが泣きたい時の感情だ、思考よりも先に思いが噴き出す。そん時はもう考えなくて良い・・・これまでずっと泣かずに生きてきたんだろ?生まれてからずっと・・・泣くなら今しかねぇんだ。だから、今のうちに泣いておけ・・・」
グレイシアは膝から崩れた。まるでずっと溜め込んでいたものが全部抜け出したかのようだ。
それを見ていた零羅がグレイシアの元に向かい、彼女を抱きしめた。
「あの時と・・・逆だ・・・」
「そうですね・・・真逆です。けど、グレイシアさんは大きいですね・・・」
「今は・・・レイラの方が、大きいから・・・」
今のグレイシアさんの顔は母の元で泣きつく子どもみたいだ、零羅はグレイシアの頭を撫でた。
「三上殿、ある意味究極のツンデレでござるな、エルメス殿とはまた別路線でござるな」
麗沢も真面目に話してるんだろうが、ツンデレの話しはしなくても良いだろ。
「なに?私がどうかした?つんでれ?」
「む、ツンデレとは・・・」
「やめろ麗沢。それよりスチュワートさん、俺、シャルロットから一つの紙を貰ったんですこのふざけた文章の後、薄っすらとある文字・・・『この世界では、誰も信用してはいけない』これの意味、最初は睡蓮の事を疑ってたからだと思ってたんスけど、これの意味は・・・この世界に存在する全ての存在を疑えって事なんスよね?」
俺はシャルロットから貰った紙を出した。この話をするのは今だ、その為に俺にこの紙を渡した。そう感じたからだ。
「そいつぁ・・・なるほど、レイの奴があんさんを一番重要視してた理由はそれか・・・」
「どう言う事ッスか?」
「異世界の勇者の中でも、最も信用に値するのがあんさんだったって事だ。レイの奴ぁニヒルの日記の解読を進めているうちにある事に気がついた。彼らってのは異世界転移者の近くに必ずいるって事をな。当たり前のように、そして自然にいる、それが彼らだ」
「む?それは拙者たちの中にもスパイがいると?」
「この中の連中はみんなシロだ、俺はそう思ってる。けど、レイの奴ぁその中すらも疑って、疑って・・・信用を勝ち取ったのが桜蘭、あんさんって訳だ。あんさんの行動がレイの信用を勝ち得た。だからシャルロットを介してあんさんにそいつを渡したんだろうぜ」
そんな重要な事だったのかよ・・・結局俺、ここまで何も知らなかった。
ん?待て・・・ここまで紙のことを話さなかった事が正解なのか?ここに彼らはいない。けど、ずっと近くにいた人はいる・・・
「ねぇ・・・みんな、シィズってどうしたっけ」
俺がこの考えに至った時、エルメスもある一人の女性を疑った。
「た、確か一人で1000の兵士を相手にして・・・」
「だよね、けど・・・おかしいよね?あそこの中央王国軍は世界中の選りすぐりのエリートよ?それを一人で相手になんか、出来る訳・・・」
「し、しかし何か秘策があると申していたが・・・」
「だとしても、さっきグレイシアの運転で外に出た時・・・外に誰かいた?」
「誰も・・・いなかった・・・」
外には誰もいなかったんだ、シィズさんも、相手にしていた筈のあの1000の兵士も・・・
「ふっ・・・シィズちゃんか、確証はねぇがあり得なくもねぇな。疑るとすれば・・・そうだな、あんさんらの監視が終わったか、もしくは・・・向こうさんも行動に出たって所か」
「け、けど確証はないのよねっ!?シィズがまさか!!」
エルメスは疑ったけど、すぐに訂正を始めた。俺だって信じたくはないさ。
「あぁ、確証はねぇよ。シロの可能性だってある。レイの時も誰かいるかと思ってヒットしたのはビーンだ、俺も昔からよく知るな。けどあいつは死んだ。死んだやつがクロってのは考えにくい・・・
ただ、あの時と今、二つの時代に関わる奴が一人だけいる。自然な程当たり前に奴はいた。けど、奇妙なんだよ。あの日、ゼロを倒してあんさんらが入った定食屋、あの店はあの日オープンだ」
「っ!?」
グレイシアが顔を一気に上げた。
「変だろ?まるであんさんらが来るのを分かってたかのように店舗は営業していた。昔からそこにある店のような顔してな・・・そして今も、このゲームが始まる前、桜蘭、あんさんはその店に入ってる。奇妙な繋がりを感じねーか?」
俺も今理解した、変だ・・・
「スチュワートさん・・・その店の店長の名前は・・・」
『ジョシュ カンナ』




