リメイク第二章 決着を付けるは互いの父親
夜、
桜蘭たちの寝ている村から少し離れた崖の下。
「はぁ・・・はぁ・・・くっ、必ず俺が、殺してやる・・・」
そこの廃墟の中で青薔薇は応急手当てをしていた。
「ん?・・・足音・・・?」
その中、誰もいない筈の崖の下の道に足音が響いた。そしてその足音は青薔薇のいる廃墟の前で止まる。
(誰だ・・・まさか奴らが追ってきたと言うのか?)
ここに来た男を、青薔薇はまだ知らない。
「残念でしたね、殺せなくて・・・」
(この声は・・・ミカミッ!!)
「俺を笑いにでも来たか?それとも殺しに来たか?」
この地にやって来たのは三上 礼、ミカイルに扮していた三上は、桜蘭たちの寝ている間に村を抜け、この崖の下に降りて来ていた。
「嘲笑いに来たのは間違いないかもしれませんけど、僕は君を殺すつもりはありませんよ」
青薔薇は三上の前に姿を現した。
「ようやく会えたな・・・邪悪の化身よ・・・」
「こちらこそ、やっと会えましたね。復讐の化身さん」
「ミカミ、お前が俺を殺しに来たのでないのであれば、それは有り難いな。何故なら、ようやくお前を殺せるのだから・・・」
青薔薇は強烈な冷気を三上にぶつける。けど、三上の目の前でその冷気はかき消される。
「流石、グレイシアの父だ。凄い魔法だよ・・・」
「その名を口にするな!貴様がレイチェルを奪っておきながら!!」
青薔薇はグレイシアと言う名にひどく憤った。彼にとってその名は自身の怒りを増幅させる言葉でしかない。
「そうですか、僕はその彼女の事で来たんですよ。ルーアンさん」
「っ、貴様・・・俺の名を」
「何を驚いてるんです?あなたの名前なんてアレックスさんに聞けば一発じゃないですか。それよりも、一つの提案があります」
「提案だと?」
三上は少し息を整えて話し始めた。
「あなたは桜蘭君たちには勝てなかった、それは違う事ない事実。その理由はあなたもよく分かってる筈、持っていた覚悟の差ですよ。打ち砕かれたあなたはもう誰にも勝てる事は無い。だから一つ提案したいんです、あなたのこれまでの暗殺の罪、その全てを許す代わりに、あなたはグレイシアの父として、生きてくれませんか?」
「なに?」
三上から提案されたのは青薔薇が予測できなかった事だった。グレイシアの父となれ、それが三上からの提案だ。
「あなたが人を殺しを続けるのは、あなたへの罰。そうは思いませんか?かつてこの世界は不安定だった。その時に必要だったのは、立場も誰からにも制御の効かない、悪き事をすれば全て殺す、そんな存在です。あなたの恐怖、それがこの世界の安定へと導いた。
けど、その役割はもう僕が引き継いでる。もう殺す必要はない。もう、この罪を被る必要はない・・・全ては僕が終わらせる・・・」
三上は普段見せることのない真剣な表情で青薔薇に語りかけた。
「何を言っている・・・貴様の目的はこの世界を終わらせる事の筈だ。なのに何故父になれと言う?貴様の終わらせる意味はなんだ?」
「無論この世界全てだよ。もし桜蘭君たちが僕を倒さなきゃ僕はこの世界の全てを吹っ飛ばす。けど、僕は確信してるんだ。あの子らは絶対に僕を超えるってね」
「答えになってないぞ!!」
「まぁどの道、僕は予言の先にある終わりを始める。そしてそれを完遂し僕は消える。その時に必要なのは彼女を支えられる人だ。例え彼女がグレイシアとして生きる選択をしてるのだとしても、それでも父親はあなただ。唯一血の繋がった親子。その役目はルーアン、あなたにしか出来ないんだ」
青薔薇はしばらく考えた。三上の考え、それを読み取ろうと。しかし、その事よりも自身が思ったのは自身の生き方を考えてしまっていた。自分に三上の言う生き方が出来るのかと。
そして、彼は答えを出した。
「・・・出来ないな。俺は青薔薇、そしてレイチェルの父、全てを奪った全てに復讐を果たすまで、俺の青薔薇としての生き方を終えられない・・・」
「そう、それがあなたの覚悟と言うわけですね。だとすれば、僕から何も言える事は無い。だからと言ってあなたをこのままにしておくのも邪魔だ。ケリは彼女に着けさせたいけど、仕方がないですね・・・青薔薇、僕があなたを殺してあげよう」
三上はまたニコッと笑ってみせた。
「願っても無い機会だ、これでようやく・・・目的を果たせる・・・」
青薔薇は冷気の剣を作り出した。
「剣と剣での戦いですか・・・シンプルで良いですね!」
三上も流血光刃を抜刀し、一気に刀身に炎を纏わせた。
「忌々しいその炎・・・この青薔薇が凍り尽くしてやろう!!」
「僕の方こそ、あなたの氷を全部溶かし尽くす!!」
レイチェルの父と、グレイシアの父との対決が始まった。様子見なんてない。互いに最初から全力でぶつかりあう。
「ぬうおおおおっ!!!」
「せぃやぁぁっ!!」
二人の攻撃は青薔薇のいた廃墟を粉々にし、大岩が砕け、この強烈な青薔薇の冷気と、三上の炎の熱はこの渓谷の大気をも乱し、雨が降り出した。
それても二人はその周囲の変化を気にも止めず攻撃をぶつけ合った。
「ちっ・・・簡単にやられても拍子抜けだと思っていたが、そろそろいい加減にくたばったらどうだ?」
「逆に言うよ、桜蘭君にコテンパンにやられた割には強いじゃないですか・・・そろそろ倒れてくれません?こんな雨に濡れてたんじゃ明日、風邪ひいちゃいますから」
真正面の斬り合いでは二人の実力は拮抗していた。
「褒めてもらっても嬉しく無いな!!」
青薔薇は剣を振るい、三上は捌いて対処する。その応酬が続いている。けど、互いに決定打となる攻撃を当てられない。
気がつけば二人とも傷だらけになっていた。
「あなたは本当はこんなに強いのに・・・残念だよ、この力を殺さなきゃいけないのは・・・出来る事なら、君には生きていて欲しかった」
「お褒めの言葉など、お前に貰ったところで何の役にも立たない。むしろお前の言葉一つ一つが俺の怒りに火をつける・・・俺は止まらない、お前を殺すまで!!」
「そうですか・・・なら、その覚悟の一撃を僕に下さいよ、僕は真正面から受けて立つ。次の一撃で勝負を付けよう。僕も、チートレベルの本気出しますから」
三上は距離を取り剣を鞘に収めた。
「なに?チート?」
「要するに僕の覚悟ですよ・・・この力を使って殺した奴はまだいない。この力を、あなたを殺す為に使います!!」
そして三上は剣を腰に携え、抜刀の体勢を取った。
「抜刀術・・・貴様の得意技だと聞いた事がある。だがそれで良いのか?俺の全力は俺の前にあるもの全てを絶対零度で凍らせる、防御不可能だ」
「それを受けて立つと言ってるんですよ・・・」
「ならば、受けてみろ・・・そして死ね、ミカミ!!!」
青薔薇最大威力の攻撃、これまでの冷気とは訳が違う。大気の水分を全て凍りつくさんばかりの冷気はこの渓谷の景色を更に一新させた、渓谷全てが一瞬にして青い氷の大氷河へと変貌を遂げた。
しかもこの氷河はただの氷河ではない、青薔薇の冷気は絶対零度にすら匹敵する現実には不可能な魔法だ。青薔薇の前にある全てはまるで時が止まったかのように固まっていた。
「これで終わり・・・この青い氷の中には光すら届く事はない・・・死ね・・・」
『ピキンッ!!!!!!』
それも一瞬の出来事だった。青薔薇の作り上げた氷河が一気にひび割れ、巨大クレバスとなった。そしてそのクレバスが出来た時、青薔薇の動きは止まった。
『・・・パチン・・・』
青薔薇が振り向いて見たのは剣を収める三上の姿。
「終わりです・・・青薔薇」
そして青薔薇自身が気が付いたのは、自身の身体の袈裟懸けに黒く焦げたような跡が付いていた事。そしてその跡は背中に到達し、輪のように繋がった。
「ガハッ!!」
それに気が付いた時、青薔薇は急に血を吐き、そしてそのまま倒れた。
「何だ・・・これは・・・それが、おまえの・・・」
「第八の魔法・・・僕はこの力をこう呼んでます。全ての魔法を同時にこの剣に流し込み発動する。刀身のみに超超高熱を発生させる魔法。攻撃力最大、防御無視。天石以外なら全てを切り裂く、例え相手が絶対零度でもこの力はそれすらをも上回り切り裂く。そしてこの技は一瞬で振り抜く事で相手を焼き切った後、即座にその熱で身体はくっ付く。使うのは二十年振りかな・・・」
「・・・お前にそれを使わせた、なるほど。どうやら俺はお前に一矢報いる事が出来たらしいな」
「そうですね・・・この力は強すぎるから、これを使ってしまった時点で僕はあなたに負けた。それくらい、あなたは強かったですよ」
三上は青薔薇の元に向かい、ゆっくりと隣に正座した。
「・・・お前、俺を憐れむのか?反逆者は全て殺して来たお前が、その表情をするのか?」
青薔薇が観た三上の顔は笑顔に違いは無かった。しかし、その笑顔にこれまでの狂気は無かった。純粋に優しく微笑みかけている顔だった。
「言ったじゃないですか、出来る事なら殺したくは無かった。あなたには、グレイシアの父として生きていて欲しかったって、だから憐れみを向けるんですよ」
「・・・お前は、全ての罪を背負うのか?」
三上の顔を観た青薔薇は質問した。三上が青薔薇へ向けた憐れみ、その表情の意味はそのまま三上へと返る。
「背負いますよ、僕は全てを殺すまで止まらない。あなたと同じです・・・」
「ははは・・・それは、何とも無様だな・・・ミカミ・・・ざまぁみろ」
「笑って良いですよ。そう、そうやって笑っていてください。僕を嘲笑ってくれれば、それで良い」
「ふっ・・・笑うか・・・こんな風に純粋に笑ったのは何年振りだろうか・・・何だか、気分が良い・・・」
青薔薇もまた三上と同じように笑った。優しく憐れむような笑みを三上に向けた。
「そうですか・・・なら、そのままお休みなさい」
「・・・ミカミ、お前は不思議だ。恐怖の暴君、それがお前の筈。なのに、何故リーダーがお前の元に集まったのか。今ようやく理解出来た・・・けど、そうだとしても・・・お前はレイチェルの・・・グレイシアの父親は失格だな」
「お互いさまですよ・・・僕でも、あなたでも、彼女の父親代わりをする事は出来なかった・・・」
「心配か?グレイシアが・・・俺が言うのも何だが、あの子は大丈夫だ・・・お前は少し、過保護過ぎやしないか?グレイシア ダスト・・・あの子は強い子だ。それに、もう独り立ちする歳だ・・・いつまでも子供扱いをするな・・・あの子を信じてやれ・・・それが俺がお前に言える唯一の事だ・・・」
ルーアンは三上の手を掴むと、そのままゆっくりと滑らせるように地面に倒れた。
三上はルーアンの瞼を閉じる。そして三上は立ち上がった。
「じゃぁ、信じるよルーアンさん。次は、僕の番だから・・・」
青薔薇との戦いは終わった。
そして、桜蘭たちはこれから最大の試練に立ち向かう。




