リメイク第二章 青き薔薇が憎むは奇跡の光
「さて、出発しましょう」
ミカイルさんが車を発進させた、この先はどんどん勾配を上がっていく、そしてケーブ地区へと入った。
「わお、雪山だ!」
遠くの山々に雪化粧が見える、ずっと荒野と砂漠だったから意外だなぁ。
そして俺たちのいる場所もぐんぐんと気温が下がる。
「寒いわね、運転手、ちょっと暖房付けなさいよ」
エルメスは相変わらずなんか上から目線と言うか、もうちょい言葉選べよって思う。にしても寒いな・・・
「お?ミカイル殿?今標高何メートル程でござろうか?」
なんか麗沢が聞いてる。
「んー、あ、あそこ山の向こうに見えるのが貫通大橋だ。最高高度二千三百八十メートル。だから今は千メートル程かな?」
向こうの山の中腹あたりに横にまっすぐ伸びる線見たいのが見えた。あれが貫通大橋か・・・でっか!この距離であの大きさだ!?
「で、なんで標高なんか聞いたんだ?麗沢?」
「見間違いだったのかもしれぬのでござるが、外の気温計の温度がマイナス15℃下回ってたのでござる。けどそんな気温にも関わらずここには雪解け後に芽吹く高山植物が多数あるのでござるよ」
「お前、なんか今日知的だな。ミカイルさん、ここってなんかそう言う感じなんスか?」
「いや・・・ここら辺はこの時期なら氷点下になることなんてほぼないのに、どうしたんだろ。故障?けど、今暖房を最大にしてるんですよ。だから外がかなり寒いのは間違いないのかと・・・」
ミカイルさんも困惑してる・・・異常気象に当たったか?確かに暖房マックスだ。けど、まだ寒いって感じる・・・
「え、ちょっ!!何よこれ!?手が窓にくっついちゃった!!」
エルメス、窓に手を置いて何してんだよ。てか、凍ってくっついてんのか?
「エルメスさん!!動かないで下さい!!前に漫画で見ました!!氷でくっついた皮膚は無理矢理剥がしたら皮膚ごと取れてしまうのです!!漫画では指が取れてるのにも気がついてなかったんですよ!?だからここは、あっためて取ります!!」
零羅がくっついた窓に炎の魔法をうまく駆使して窓から手を剥がしていた。
「あ、ありがと・・・てかレイラちゃんあんた、しれって言ってたけど、すごいえげつない漫画読んでない?」
「いえ?普通に少年漫画ですよ?」
なんか今はギャグなノリになってるけど・・・これ異常過ぎないか?寒くてなんか凍りそう・・・って、凍る?まさかっ!?
「うわっ!!」
車が急にスリップした。けど、運転が上手いんだろうな。ぶつからずに道の真ん中で停車した。
「み、みなさん大丈夫でしたか!?」
「なんとかッス。けど何が?」
「路面凍結です・・・冬用タイヤは履いているのですが、まさかこんな所で・・・なんでここだけこんなに凍って」
「これって、グレイシアさんやっぱり!!」
こくり・・・グレイシアさんは真剣な顔で頷いた。やっぱりだ、なんでこんな時に来るんだ、空気読めや。
「運転手さん、ちょっと俺たち急用が出来たんで、ここで一旦下ろしてもらって良いッスか?で、ちょっと危険なんで下がってて下さいッス」
「・・・まさか、ニュースで聞いていたけど、青薔薇なのか?あの殺し屋。済まないけど、僕は少し下がらせてもらって良いですか?」
ミカイルさんは俺たちを降ろしてゆっくりと後ろへ下がった。
「奴は何処に・・・」
「・・・来るっ!!」
グレイシアさんが声を上げた瞬間、上から何かが降ってきた、それを察知してみんな一気に後ろへ飛んだ。
目の前が一気に凍りつき氷の山が築かれた。この規模の氷の魔法、やはりあいつか。
周囲に放たれた冷気の嵐が止んだ。氷の山の中から一人の人影が出て来た。
「成る程、少しは成長しているらしいな・・・」
「青薔薇・・・」
俺は目の前に立った男の名を呼んだ。
「遅くなって済まないな、仕事が立て込んでいてね」
「お前の仕事のことなんか知るかよ、俺には関係ないッスから」
「関係ないか、確かに俺はお前となんの関係もない。だが、お前は異世界の存在だ。それがこの世界にいる時点でお前たちは俺の抹殺対象だ」
この異様な殺気・・・睡蓮とも零羅ともまた違うこの殺気は何なんだ?これは、憎しみ・・・まるで俺に親でも殺されたかの様な顔だ。
全く、理不尽なやつだな。そして空気読めよ・・・俺、お前のせいでやっと落ち着いた精神がまた振れだしちゃったじゃないか!!
「その目・・・ふっ、少しはらしくなったか。お前、あの男を殺したな?さしずめ、本性がバレたか?そしてお前が倒したと」
「っ・・・」
こいつも気がついていたのかよ。
「この俺が奴の正体に気が付かないと思ったか?俺の鼻は死に関する事なら奴より効くぞ?」
「あっそ、俺はそんなタイミングであんたが来るもんだから腹が立っててな、できる事ならさっさと消えてくれ」
「そうか、傷心中に来て済まなかったな。だが俺としてはそうも行かない。俺は今日この日、殺し屋青薔薇として最後の使命を果たしに来たのだからな」
青薔薇は被っていたフードを取った。まず目立つのは顔の半分近くに付いた火傷のような痕、そして真っ青な髪色、だけどこの髪・・・少し赤い、真っ赤な髪がある。
この髪の特徴って・・・俺はいつのまにかグレイシアさんに目線が行っていた。
「まさか・・・」
あのグレイシアさんが目を開いて固まっていた。それが青薔薇の正体を物語っている。
青薔薇は・・・グレイシアさんの父親だ。
「違う・・・そんな筈ないから、あの日私は・・・」
「いや、そんな筈はあるさ、だからこうして生きている」
「違うっ!!」
グレイシアさんが動揺してる・・・一気にグレイシアさんは青薔薇に攻撃を放つがこれは、魔法を相殺したのか?グレイシアさんの冷気を指一本で止めた。
「何故否定する?何故殺したがる・・・俺はお前を思わない日はなかったのにな。それとも母親に似たせいか?嫌な事があると人の話を聞かずに突っ走る。そんな性格だったよ」
「だったらなに?」
「そんな顔をするな、悪い意味で言ったんじゃない。お前の母は素晴らしい行動力と覚悟を持った人だったと言う事だ・・・そうだ。お前は彼女マリリンの娘、グレイシア ダストなんてそんな名ではない。お前の本名はレイチェル イツ。お前があの日、授けられる筈だった本当の名だ・・・そしてレイチェル、俺の目的はただ一つ。お前を、ここから救い出す事だ」
青薔薇の殺意が一気に俺に向いた。いや、俺たちだ。この男、異世界の存在そのものを嫌悪してる。その理由はただ一つ、異世界の存在がグレイシアさんを苦しめたからだ。
「私は・・・」
「何も言わなくて良い、ここで全てを終わらせる。全てをゼロに戻し、異世界からこの世界を救ってみせる。ゼロが、ミカミが、そしてお前たちがこの世界に現れなければ、こんな事にはならなかった」
こいつ・・・俺は思わず口を開いていた。
「・・・だろうな。グレイシアさんの人生を狂わせたのは俺たちかもしれない。この世界をこんなにしたのも、俺たちじゃないなんて言い切れはしないッスよ。だって俺たちは異世界の存在、その時点で三上とかと繋がっちまってんだ。だから、俺はお前に命を狙われても仕方ないのかもな。
けど、俺はその償いをしたい、この間違いを正したい。あいつをぶっ倒して俺たちは元の世界に帰りたい。俺たちの力は異常だ、本来この世界にあっちゃいけない力ッス。だから俺たちは戦う。全てはこの世界の、そして俺たちの平和の為に!!」
俺は剣を抜いて青薔薇に向けた。今の俺が戦う理由があるとすればこれだ、あの異常な存在を終わらせる。そしてこの力は封印するんだ。
「そうですよ、使い方はあなた次第・・・チュニアさんが仰っていた言葉です。わたくしたちは今、力を持っています。ですがその力はこの世界を支配する為にあるのではありません。みんなを守りたいから使うんです。
青薔薇さん、わたくしたちはあなたと戦いたい訳ではありません。恨む気持ちも分かります、ですがここは引いてはくれないでしょうか。わたくしたちが必ず三上さんを倒しますから!」
「ヒーローとは人知れず世界を救う存在でござる。そして無闇に力は使わぬ、信じて欲しいでござる青薔薇殿」
そして零羅と麗沢も同じように武器を向ける。けど、敵意を向けるわけじゃない。この人は被害者だ、俺たちのせいで傷付いた。だからその傷は俺たちでなんとかしたいんだ。
「ふっ・・・流石は異世界の勇者達と呼ばれるだけはある、良い正義感だ。だがな、憎しみに囚われた存在は止められはしないのだ。お前たちがこの旅をやめないと同じ、俺はお前たちを殺し、レイチェルを取り戻すまで、元に戻せないあの日が来るまで、俺は止まらない」
この男・・・完全に復讐心に乗っ取られてる。そうか、やっと分かった。この異様な殺気の原因・・・殺気以外の感情が無いんだ。
グレイシアさんを、いや、レイチェルさんを取り戻すって言う言葉にはなんの重みもなかった。ただ俺たちが憎いから殺す、それがこの青薔薇の行動力となってる。
「青薔薇、一つだけ聞いて良いッスか?」
「なんだ?」
「どうしてあんたは俺たちを暗殺しなかった?グレイシアさんを取り戻す。それだけの理由なら暗殺の方が楽だろ?なのになんで直接攻撃した?」
「お前たちに合わせたんだ、このゲームとやらのルールに乗っ取ってな。さぁ、来るなら来るが良い。そして、その全てを捻り潰す・・・」
・・・・・弱い、この人は全然強く無い。俺たちの前に立った、この時点でこの男は負けてる。本当ならもっと強かった筈だ、怖かった筈だ。
けど、今のこの男を見ても何にも怖く無い・・・正直言うと拍子抜けだ。
ぽろ・・・
「サクラ、泣いてる?」
勝手に涙が出ていた。グレイシアさんの最も大切な人が生きていたのに、なんだよこの仕打ち・・・ゾンビ映画のそれよりも精神がしんどい。
そして俺たちがこんなのを生み出した、その罪悪感のせいなのかな、涙が止まらない理由は。
「あぁ・・・ごめん、つい・・・なぁみんな、一瞬で終わらせよう、見てられない・・・」
「分かったから・・・けどサクラ、そんなに気負わないで、もう覚悟は決めた・・・」
グレイシアさんが優しく俺の肩に手を触れた。
「分かったッス。麗沢、零羅。行くッスよ!!」
「御意!」
「はい!」
俺たちはみんなして炎の魔法を最大出力で放った。
「ふんっ!!この程度の炎のなど!!俺の敵では無い!!」
対する青薔薇は冷気をぶつけて相殺する。
「ぐっ!!うおおおおおおおっ!!!」
やっぱり攻撃力は申し分ないな、ちくしょう。最大の力を3人でやってるのに足りない。
「サクラ・・・私もやるわ、これなら乗り越えられるでしょ?」
エルメスが俺の手に手を添えた。力がみなぎる・・・これ、エルメスの魔法か?これならまだ出力を上げられる!!
「これは・・・アダムスの娘か、王家の血の力・・・忌々しい力だ!!」
「くっ!!何処が忌々しいんだ!!確かに、俺たちがもたらしちまった魔法で人生めちゃくちゃになっちゃった奴がいる!!けど、魔法があったから救われた人たちもいる筈だろうが!!全員が全員、お前みたいな被害者ヅラしてるダメ人間だけじゃねーんだよ!!」
「全てはお前たちが魔法を見つけたせいだ!!余計な力がこの世界に溢れた!!この力がもたらした全てが平和の敵だ!!」
「くそったれが!!!」
「全て消え去れ!!!」
俺たちはみんな一気に全力を出し尽くした。そして周囲に冷たい霧が立ち込めた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・くっ」
俺は膝から崩れ落ちた、青薔薇はどうなった?
「はぁ・・・はぁ・・・多少はやるようになったらしいな・・・だが俺は立ち、お前たちは下に這いつくばっている、これが力の差だ。お前たちが束でも俺には勝てないんだ。あぁ、レイチェルよ・・・これで終わりだよ、ここで全てを・・・」
「っ・・・行かせねーよ、青薔薇。いや、ルーアン」
俺はよろよろとグレイシアさんの前に立ち塞がった。
「どけ、まだ辛うじて生きているんだ。そんなに死にたいのか?なら、先に殺すとするか」
青薔薇め、まだ氷の剣を作り出すくらい余力残してるのかよ。
「これでお前の心臓を刺し、そして青き薔薇を咲かせて死ね・・・」
「やれるものならやってみろ・・・さぁ、来いよ!」
青薔薇は一気に俺に近づいた。
『グサッ!!!』
何かを貫く音がこの山々に響いた。
「・・・・・がはっ!!」
「ぐふっ!!」
この一撃、血を吐いたのは俺も青薔薇もだ。
「計画・・・通りッス・・・」
「な、何故・・・レイチェル?」
俺の真後ろにはグレイシアさんが立っている。そしてグレイシアさんは俺を盾に、俺ごと青薔薇を氷の剣で腹部を貫いていた。
「覚悟してたから・・・青薔薇、私はあなたに謝らなきゃいけない。ルーアン、あなたの娘はあの日死んだ、レイと出会ったあの日に・・・全てを憎んだ私はもういない。ここにいるのはその私から生まれた。氷河の中で輝く奇跡の輝き、私の名は・・・グレイシア ダスト」




