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22 最高の朝食

 春の嵐のように現れ、春の嵐のようにいろんなことを巻き起こし、去っていったネイチャン。

 でも、これでしばらくは来ることもないだろうと思っていたのだが、


「朝ですよ、ミカちゃん、ピアちゃん。うふふ、ふたりともお寝坊さんねぇ」


 次の日の朝、何者かに揺り起こされて目覚めると……。

 そこには、三角巾にエプロン姿の大聖女サマが、おたまを片手に立っていた。


 ピアは「ハッ!?」と飛び起きると、


「も、申し訳ありませんです! ご主人様、お姉ちゃん様っ!

 メイドたるもの、いちばん早く起きなくてはいけないのに……ピアったら、また寝坊をしてしまいましたです!」


「いいのよ、ピアちゃん。

 それよりも起きて顔を洗ってらっしゃい。朝ごはん、できてるわ」


「なっ……なにからなにまで、すみませんですぅぅ~!」


 俺はピアといっしょに起きると、洗面台で顔を洗って歯を磨く。

 着替えはピアがやるといって聞かなかったので、ピアにやってもらった。


 食堂に行くと、これぞ朝ごはんというメニューが揃っていた。


 パンにベーコンエッグ、スープにサラダ、フルーツにヨーグルト。

 飲み物はコーヒーとオレンジジュース。


 パンは焼きたてなのか、ふっくらしてて香ばしくて、口の中に入れるととろけて、メチャクチャ旨い。

 この寮に来た当初は、パンの耳を食べていたってのに、えらい違いだな。


 「うん! こりゃ旨い!」とパンを頬張る俺を、テーブルの対面側からふたつの笑顔が見つめている。


「ご主人様、とっても幸せそうなのです! 幸せそうなご主人様を見ていると、ピアまで幸せな気持ちになるのです!」


「そうね、ピアちゃん。ミカちゃんが幸せでいることが、私たちにとってのいちばんの幸せよね」


 ふたりは「うふふ」と微笑みあったあと、頬杖をついて、さらに俺をじーっと凝視する。


「そう見られてると、なんだか食べづらいな」


 俺は気まずくなって、窓のほうに視線をそらす。

 すると、別の視線とぶつかった。


 食堂の窓からは庭が見えるのだが、そこにはなぜかリンカーベルが立っていて、ハッ!? とした表情をしている。

 俺と目が合うなり、リンカーベルはわたわたと取り乱した。


 そして逃げだそうとしていたが、俺が「入ってこいよ!」と声をかけると、ピアに案内されて食堂に入ってくる。

 彼女は開口一番、


「べっ、別に、あなたが昨日遅刻したからって、心配になって起こしにきてあげたわけじゃないのよ?」


 と、よくわからないことを言った。


「あなたはミカちゃんのクラスメイトさんね。せっかくだからいっしょに朝ごはんどお?」


 ネイチャンが声をかけると、リンカーベルは全身の毛が逆立つくらいにビックリしていた。

 いまのネイチャンは三角巾にエプロン姿だったので、どうやらリンカーベル気付かなかったようだ。


「ひっ、ひゃああっ!? ねねっ、ネイチャン様っ!? なぜあなた様のようなお方が、このような場所に!?」


 リンカーベルはさっとヒザを折る。


「あら、だってお姉ちゃんはミカちゃんのお姉ちゃんなのよ?

 お姉ちゃんが弟といっしょに朝ごはんを食べるのは、普通のことでしょう?」


「そ、それはそうですけど……。

 もしかして本当に、ネイチャン様はミカくんのお姉様なんですか?」


 ネイチャンと俺が同時に「そうよ」「違うよ」と答えたので、リンカーベルはさらに困惑する。


「あ、あの、ネイチャン様はミカくんのお姉様だとおっしゃられていましたけど……。

 大変失礼ながら、クラスでも誰も信じておりませんでした。

 ミカくんが本当にネイチャン様のご家族であらせられるなら、ミカくんはもっと高ランクのはずですから」


 そういえばこの学院は、実力よりも家柄によってランクが決定するんだったな。

 たしかにSSSランクの姉を持つ弟ならば、どんなボンクラでもSランクにはなってそうだ。


 この指摘に対して、自称『お姉ちゃん』はなんと返すのかと思ったら、彼女はしゃがみこんで、跪いたリンカーベルに目線を合わせると、


「姉弟というのは、なにも血の繋がりだけを言うのではないわ。

 アストラル体……つまり心と心が繋がっていることが大切なの。

 私はミカちゃんを見たとき、ビビっときたわ。

 『私は、この子のお姉ちゃんになるために、生まれてきたのね』って。

 それにお姉ちゃんはみんなのお姉ちゃんでもあるの。

 だからあなたも、私のことは『お姉ちゃん』って呼んで、ねっ?」


 この時、ネイチャンは俺に背を向けていたので、彼女の顔は見えなかった。

 しかし、彼女の顔を見たリンカーベルの表情は、まるで陽光を浴びた花がひらくように明るくなっていく。


「ち……血の繋がりよりも、心の繋がり……!

 なんという、素晴らしいお言葉なのでしょうか!

 なんだか目が覚めたような気分です!

 さすがは大聖女、ネイチャン様! い、いいえ! お姉ちゃん様っ!」



嗚呼(ああ)……!

 ピアとヘルドランに続き、さらなる信者が誕生っ……!


 『お姉ちゃん教』の……!



「うふふ、いい子ね。あなた、お名前は?」


「は、はいっ! リンカーベルです! どうかリンとお呼びください!」


「じゃあリンちゃん、いっしょに朝ごはんどう?

 お姉ちゃんが腕によりをかけて、パンを焼いたのよ。

 ミカちゃんはおいしいおいしいって食べてくれているから、ぜひリンちゃんも召し上がれ」


「よ、よろしいのですか!? ありがとうございますっ!」


 食卓にはすでにピアの手によって、もうひとり分のメニューがセッティングされていた。

 リンカーベルは緊張しているのか、下手な術式で動くゴーレムみたいにギクシャクしながらテーブルにつく。


 パンをひと口食べた瞬間、目玉が飛び出んばかりに見開いていた。


「な……なにこれなにこれなにこれっ!? 

 ここっ、こんなに美味しいパン、初めて食べましたっ!?」


「うふふ、よかった。たくさんあるからいっぱい食べてね」


「ありがとうございます!

 私は料理が趣味で、たまにパンも焼くことがあるんですけど、こんなに美味しくはできなくって……。

 いったいどうやったら、こんなに美味しいパンができるんですか?」


「どんな料理でもいちばんのコツは、『おいしくなあれ、おいしくなれ』って、愛情を込めてつくることよ。

 もしよかったら今度、お料理を教えてあげましょうか?」


「い……いんですかっ!?

 お姉ちゃん様にお料理を教えてもらえるだなんて、夢みたいです!」


「おいリン、お前さっきから興奮しすぎだって」


「う……うるさいわねっ!

 だってSSSランクといえば、神様も同然のお方なのよ!

 神様を前にして、興奮しないミカくんがおかしいのよ!」


「はい、ご主人様、あーんしてくださいです!」


「ってミカくん、ピアちゃんになにやらせてんのよ!?」


「しょうがないだろ、コイツがやりたいっていうんだから」


「ああん、お姉ちゃんも食べさせてあげたいなぁ!

 はいミカちゃん、あーんして」


「お姉ちゃん様まで!?」


「うふふ、リンちゃんもミカちゃんに食べさせてあげて」


「お姉ちゃん様が、そこまでおっしゃるなら……。ほらミカくん、あーんして」



†実はこの時、窓の外には学院の男子生徒たちがいた……!

 Fランクの生徒がいるという、オンボロ寮を訪ね、からかってやろうとしていたのだが……!


 彼らはまず、ピカピカになった寮を見て、仰天……!

 そして窓を覗き込んで見えた光景に、また仰天……!


 そう……! 彼らは見てしまったのだ……!

 三人の美少女とイチャイチャする、少年の姿を……!



「う……うそ、だろ……? な、なんだ、あれ……?」


「学院のアイドルのリンカーベルさんと、女神様のネイチャン様、それに、あんなかわいいメイドゴーレムが……!」


「Fランクの野郎と、恋人同士みたいに食べさせっこしてるだなんて……!」


「あ、あれじゃ完全に、ハーレムじゃないか……!」


「なんだ、あの夢みたいな朝メシはっ!? ありえないっ!」


「う、羨ましいっ! 羨ましいぃぃぃぃーーーっ!」


「い、いや、これは夢だっ! 夢に決まってる! だってFランクはこの学院じゃ、いちばん不幸でなくちゃならないんだぞ!」


「そ、そうか! ということは俺たちは、頭がおかしくなっちまったんだっ!」


「うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!!」


 窓の外から絶叫がしたので見てみると、知らない男子生徒たちが、狂ったように庭石に頭をぶつけていた。

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