23 神竜の力
朝食を終えた俺は、ネイチャンとピアに見送られ、リンカーベルとともに寮を出る。
ピアに手渡された風呂敷包みの弁当は、ずっしりと重かった。
そしてリンカーベルは不思議そうだった。
「ミカくん、荷物それだけ? ミカくんはゴーレム課を専攻してないの?
専攻してるなら、今日はゴーレム課の授業があるから、ゴーレムを持っていかないと」
そうなのか、と俺は引き返し、ピアの頭の上にいたヘルドランを手に取る。
「えっ、それがミカくんのゴーレムなの?
てっきり、ピアちゃんがミカくんのゴーレムかと思ってた」
「ピアはメイドゴーレム専用で、戦闘力はゼロなんだよ。
だから授業のときはコイツが相棒だ」
相棒と呼ばれ「フフフ……」と嬉しそうなヘルドラン。
なぜかぷくっとむくれているピア。
リンカーベルは指先で、ヘルドランのアゴをちょいちょいと撫でていた。
「この子、ヘルちゃんっていうのよね。
見た目は完全に子供のオモチャだけど……」
「そういうお前のゴーレムはどんなのなんだ?」
俺がそう問うと、リンカーベルは肩から提げていたバッグを開く。
すると中から、羽根の生えた小さなゴーレムが飛び出した。
「あっ、妖精さんなのです!」とピアが見間違うほどに、妖精によく似た美しい姿をしている。
妖精ゴーレムは周囲をしばらく飛び回ったあと、リンカーベルの肩にちょこんと乗った。
「この子は小さい頃からの私の友達なの」
「ふぅん、流石は妖精騎士の聖剣を持っているだけあって、相棒も妖精なんだな。
でもそれなら、本物の妖精のほうがいいんじゃないか?」
「ムチャいわないで。妖精はアストラル体なんだから、そもそも姿を見るだけでも難しいのよ。
本物の妖精をお供にしている妖精騎士なんて、おとぎ話の中にしかいないわ」
「そんなに難しいことでもないだろ。
俺が田舎にいた頃は、妖精なんてしょっちゅう……」
「はいはい、無駄話はそれくらいにして、学院に行くわよ。
でないと遅刻しちゃうわ」
俺はリンカーベルに背中を押されて寮をあとにする。
森を出てからは並んで歩いていると、登校途中の他の生徒たちは、ヒソヒソと噂をしていた。
「見て、あれ……!」
「ええっ、リンカーベルさんが、男子生徒と歩いてる!?」
「Aランクの男子がいくら誘っても、『噂になると恥ずかしいから』って断ってた彼女が!?」
「相手は誰なんだよ!? 見たこともないヤツだぞ!?」
「あなた知らないの!? つい最近転入してきたFランクよ!」
「ええっ!? アイツがあの噂の!?」
「なんでFランクなんかが、Aランクのリンカーベルさんと一緒に歩いてるんだろう!?
本来なら、目を合わせるのもダメなのに!」
「そんなのわかるかよ! 特にどんな男子も寄せ付けなかったリンカーベルさんが、なぜっ!?」
俺の通学路は、昨日に続いて今朝も大賑わいだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
今日の最初の授業は、校庭で行なわれた。
ゴーレム課の授業らしいのだが、いつもは教室でやるという。
今日は上位ランクと下位ランクが別々になって、上位ランクは教室、下位ランクは校庭に分かれていた。
なぜ下位ランクだけが、広々とした校庭でやったのかというと……。
それは、担任であるヤイミの思惑であった。
「それでは今日は、ゴーレムを使って実践的な組手をするざんす。
ふたりひと組でペアを作って、ゴーレムバトルをするざんす。
勝ったほうには、次のテストで50点プラスしてあげるざんす」
そのご褒美がどれだけ良いものか俺にはわからなかったが、クラスメイトたちは「50点!?」と色めきたつ。
そしてこの学院ではなにかと不人気な俺だったが、この時はやたらと声をかけられた。
「おい、ミカ! 俺とやろうぜ!」
「いや、俺とだ! そんなオモチャだったら、俺のゴーレムならひと捻りだ!」
「ミカくん、私とやりましょう! どうしても50点ほしいの!」
大人気の俺に、ヤイミの言葉が突き刺さる。
「Fランクは評価外ざんす。勝って当たり前ざんすから、1点もあげないざんす」
するとクラスメイトたちは、潮が引くように離れていく。
「それじゃあFランクは特別に、このマイが相手をしてあげるざんす」
すると、林のなかを激しい風が通り過ぎたかのように、ざわっ! とあたりがざわめいた。
「また始まったよ、ヤイミ先生の悪いクセが……」
「きっと、新しいゴーレムを買ったのね……」
「しかも教室には入らないような、大型タイプのヤツなんだろうな……」
「どうりで、下位ランクだけ校庭で授業なんて言い出すわけだぜ……」
「ヤイミ先生は新しいゴーレムを買うと、そのゴーレムで低ランクの生徒をボコボコにしたがるんだよな……」
「でも今回はミカがいてくれたおかげで、俺たちは助かったぜ……」
「でもよぉ、ミカのゴーレムってトカゲのオモチャだろ?
あんなんじゃ足りなくて、俺たちにもお鉢が回ってくるんじゃ……」
生徒たちの不安をよそに、ヤイミは颯爽と手をかざす。
「それじゃあカモンざんす、マイドラゴンちゃんっ!」
ヤイミが校庭の隅にあった倉庫に呼びかけると、大きな木の扉が、
……ズバァァァァァァーーーーーーンッ!!
と粉々になって弾け飛んだ。
その奥には、ダンプトラックくらいはありそうな、巨大なドラゴン型のゴーレムが……!
「ひえええええっ!?」と悲鳴がおこり、誰かが叫んだ。
「あ、あれは……!? もしかして神竜!?」
「そうざんす! 発売されたばかりの、10分の1『炎神竜ヘルドラン』ざんす!
1体1億クレジットで、限定100体! 見た目も強さも、ステイタスも最強のゴーレムざんす!」
ズシンズシンと四肢を踏みならし、俺たちの前へとやってくるヘルドラン。
どうやらアレは神竜をモデルにしたゴーレムらしい。
俺の肩にいたブリキのヘルドランは、悔しそうにギギギと歯噛みをしていた。
「我が肉体を封印した人間どもめ……! 偉大なる我はあんなに矮小ではないわ……!」
「10分の1みたいだからな。ところでどうする? あんなデカブツ相手にやれるか?」
「無論……! あのようなトカゲ程度の竜など、片脚で踏み潰してごらんにいれましょうぞ……!」
「スケール的にはお前のほうが踏み潰されそうだが、ホンモノの意地ってやつだな。まあやってみるか」
俺はクラスメイトたちの間をぬって、レプリカのヘルドランの前に出る。
ヤイミはいつもの引き笑いで迎えてくれた。
「シェシェシェ! 逃げ出さなかったところだけは褒めてあげるざんす!
特別に、10点あげるざんす!」
「先生、もし俺のゴーレムが勝ったら何点くれるんだ?」
「勝つ? シェシェシェ! この前の『解錠』の授業で偶然うまくいったからって調子に乗ってるざんす!
ゴーレムバトルは運やインチキが通用しない、実力勝負の世界ざんす!
マイのヘルドランが負けることなど万に……いや、億にひとつもないざんす!
もし勝ったら、1万点……いや、1億点あげるざんす!」
テストやらの点数が最大何点あるかは知らないが、1億点なんて存在しない点数だろう。
ヤイミは完全に俺をバカにしているようだった。
まぁ、俺は何点だろうが興味はないけどな。
「まぁいいや、その言葉を忘れないでくれよ先生。
それじゃあ、さっそくやろうか」
「シェシェシェ! せっかくだからFランクごと燃やして、しばらくその顔を見ないですむようにするざんす!
いくざんす、ヘルドランっ!」
聖職者とは思えない暴言とととに、目の前の巨竜が鎌首をもたげる。
ヤイミはまるで爆弾でも仕掛けたかのように離れていく。
それを見て、俺の後ろにいたクラスメイトたちも、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
俺は、2体のヘルドランの間近から離れない。
ただ、「やれ」とだけ囁く。
すると、俺の肩にいたヘルドランが、くわっと大口を開いてかわいく威嚇、
瞬転、
……ゴォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!
口からシャレにならないほどの爆炎が吹き出し、目の前にいた巨竜をあっという間に飲み込んでしまう。
その炎の勢いすさまじく、ここまでくれば大丈夫だろうと思い込んでいたヤイミの髪もチリチリに焦がすほどであった。
炎が止んだあと、そこにあったのは、見る陰もないほどにドロドロに溶けた巨竜。
ヤイミは、自分の豪邸から焼け出された人みたいに、フラフラと近づいていく。
「うっ……! ウソざんす!? ウソざんすぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーっ!?
1億クレジットもした、マイのヘルドランがこんな姿になっちゃうだなんて……!?
これは悪い夢ざんすっ!? 夢ざんすぅーーーーーーーーーーーーーーーっ!?
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーんっ!!」
泣き崩れるヤイミを見て、俺はちょっと悪いことしたかな、と思う。
しかし肩にいるブリキのドラゴンはとても満足げ。
ススで汚れた口元を、舌でペロペロと舐めとっていた。




