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狂笑

今回はかなり難産でした…まだまだ書きたいネタはあるんですが、それを文章に起こそうとするのは難しくて…大筋は決められたので次回は早めにできると思います。

 アグニス王国の首都「アントン」を根城にしていたある男が居た。

ランクとしてもBランクにあがることができたおかげでそれなりに遊べる程度の金が手元にはあり、更にBランクといえば冒険者としての壁を超えた者として周りにも人目置かれる為に女も自然と寄って来る。そんな何不自由ないはずの暮らしだが、その男は致命的な問題を抱えていた。それは、魔獣の命を、生き物の命を、そして人の命を奪うことがたまらなく好きな事だった。


 最初に生き物の命を奪ったのは森林によくいるフォレストウルフだった。

 雑魚中の雑魚ではあるが、基本的に群れで動く為に初心者冒険者にとっては中々に脅威度の高い魔獣だ。

 男は同じくパーティーを組んでいたので、多少の手傷を負いながらも魔獣の命を絶っていった。

 しかし、ふとそんな命のやり取りの中、自らのやいばによって目の前で消えていく命の美しさと儚さに気づいてしまった彼は次第にその感覚に呑まれて行く。

 強い魔獣であればあるほどその命の散り際は何事にも変えがたいの快楽で次々に難易度の高いクエストやダンジョンをこなしていった彼だが、そんな狂いっぷりに最初に組んでいた冒険者は着いて行く事ができず、ソロとして活動することになる。

 そしてそんな彼はいつしか気が付けば一人前の冒険者として認められるDランクになっていた。

 更に強い魔獣の命の散り際を見たいと思った彼ではあったが、Cランクにあがる必要があった。

 Cランクから先は試験を受ける必要があったのですぐさま試験を受けたが、その試験内容というのがとある盗賊団の根城を根絶やしにすることだった

 男は今までずっと魔獣のみをひたすら狩っていて、人を殺したことがなかったので、ギルド側はCランクになる以上、人を殺さねばならぬ事態も多い為に出した試験であった。

 

 本来であればいくらならず者の集まりといえど数的不利である為に何人かで組んで行くものではあったが、男の実力的にはDランクを超えているだろうと判断したギルドは一人で10人程の小規模盗賊団の殲滅をする事になった。

 

 すぐさまそのアジトへと向かい、盗賊達を一挙に殲滅していった。

 魔獣とは違う確実に知性を持った自分と同じ人間を殺す感覚…死んでいく間際の苦痛、恨み、恐怖に塗れた顔…その全てが男にとってこれまでにない以上の快楽を生んでいく。

 あっというまにその盗賊団を殲滅をした男はそれ以降盗賊団の殲滅クエストをどんどんと積極的に受けて行き、そしてその全てを獲物が減ることを嫌った彼は一人で狩りつくしていった。

 命乞いをしても、犯罪奴隷として捕まえることもせずにひたすらに凶悪な笑顔を浮かべながら殺戮していく男にマヤミル近辺全て盗賊団からはいつしか狂笑きょうしょうと呼ばれるようになっていた。

 

 盗賊狩りや強力な魔獣狩りをしていたおかげでBランクとなったそんなある日、いつものように盗賊団を殲滅していたが、次第に渇きを覚えるようになっていった。男はいつしか殺戮をすることに慣れを感じはじめていたのだ。

 そんな時ふと視線を横に逸らすと幼い男女二人が恐怖に塗れた表情で彼を見つめていた。

 盗賊団に捕まり、奴隷として売られる直前にやってきた冒険者を見た時は「助かった」そう感じていた。

 しかし全身が血まみれになり、必死に命乞いをしている盗賊に笑みを浮かべながら切り殺す男に恐怖を覚えたのだ。

 

 今まで捕まっていた人は解放していたので一般人や子供を殺した事がなかった男は最近の物足りなさを満たしてくれるだろうと考え、二人に近づいていく。涙を浮かべ必死に助けを求める2人に剣を振り下ろし、その命を奪うが、やはりなんとも言えぬ物足りなさを満たすことはなかった。

 

 流石にギルドから追われたくない男は盗賊団によって殺されたと擬装し、達成報告をギルドに報告して捕まっていた子供達は盗賊団によって殺されていたと報告をするが、その報告を聞いたとある男女二人が男に詰め寄ってくる。

 話を聞くにあの男女の両親のようだが、どうしてもっと早く助けてくれなかったのか?どうして娘と息子は殺されなければならなかったのか?そう男に問いかけ、強く非難をする。

 

 勿論、男に怒りをぶつけても仕方のない事ではあり、むしろ仇とってくれた男には感謝をすべきであった。

 しかし、だからといってその怒りを収めることのできない彼らは、男にぶつけるしかなかったのだ。

 

 そんな彼らに対して男は笑みを浮かべそうになる表情を必死に押さえ込んでいた。

 そう、男は新たな快楽を覚えていたのだ。それは、目の前で大切な者達を奪われ暴れまわる二人の男女。

 大切な物を突然奪われ、狂う者に惹かれてしまったのだ。

 

 あの感覚をもう一度味わいたい…目の前で大切な物を奪われ狂う者を見たい…そう考えた男の顔はすでに悪魔そのものの表情をしていた…

 その日からというもの、アントン内では無残に切り刻まれた死体が発見されるのだが、決まってその最初の発見者が近親者だった。

 当然街の衛兵はその犯人を探すが、全くといっていいほど手がかりがつかめず捜査は難航していた。

 

 アントン内が混乱に包まれる中、男は今日も獲物を探しに辺りを探索していると、たくさんの子供を釣れた女性が目に付く。

 修道服を着ているので肌の露出は少ないが、綺麗な金色の髪を短く切りそろえた美しい女性だ。

 その女性の事をヴェラ姉と呼ぶ子供達の笑顔はとても素晴らしく、そして同時にその男はこの子供達はあの女性の死体を見たらいったいどういう表情をするのだろう。どういう反応をするのだろう…そんな思いが男の脳内を支配していき、ポツリと一言呟く…


「ヒヒヒ…次の獲物…きーめたァ…」

「…ッ!?」

「…?どうしたのヴェラ姉」

「う、ううん。なんでもないわ、ごめんね?買い物の続きをしましょう」

「うん!」

「(今の背筋の悪寒はいったいなんだったのかしら…)」


男はその女性を横目に裏道へと消えていく…

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