追跡
宿屋にて、髪をヴィヴィアンに梳いてもらいながら、話を聞く。
「殺人事件…ですか?」
「はい、最近アントンで起きている連続殺人です。犯人は不明、手がかりも現場には残されておらず、捜査は難航している模様です」
「それは恐ろしいですね…」
「この事件は愉快犯の可能性が極めて高いようです」
「どうしてですか?」
「第一発見者が必ず被害者の近親者で、それも発見される死体は無残に切り刻まれているからです。」
「…なるほど」
「被害者は今まで全員が下町出身だったので、最初はほとんど捜査が行われていませんでした、上街住人からの犠牲者が出てからは本格的に行われるようになったようです。」
「下町の住人ならいくら死んでも構わないという事ですか…この国は本当に……とにかく私達も気をつけましょう。あそこの孤児院の子達が心配ですね、すこし様子を見に行きましょう」
「畏まりました。」
宿屋にて待機している彼女達に今日も依頼が来るまで自由に過ごしていいが、念のため出かける際は絶対に集団で動く事を言い残して、足早に孤児院へと向かっていく
「こんにちは、少し心配だったので様子を見に来ました。」
「イーリス様!わざわざありがとうございます」
「「「イーリスお姉ちゃんだー!こんにちはー!」」」
子供達は無邪気に挨拶しているが、院長は慌てた様子でイーリスに礼をする
「様付けはやめてください。私はただの冒険者なんですから、せめてさん付けでお願いします」
「わかりました、イーリスさん。」
「最近物騒な話題を聞いたので様子を見に来ました。特に変わりはありませんか?」
「はい、彼女達にも必ず2人で行動するように言っています。今日もヴェラともう一人の2人で買い物に行かせています」
「それはよかったです。少しヴェラさんに聞きたい事があるので、ついでにヴェラさん達を迎えにいってきますね。ヴィヴィアンはここで待機していてください」
「畏まりました」
場所を院長から聞き、そこへと向かう途中に何かが道端に落ちてるのを発見する
「…?なんでこんな物が?」
食材が入った袋が2つ転がっているが、周りに人が一人も見当たらないのを見るに持ち主は慌ててこの場から離れたのだろうか?よく見てみると、ペンダントも一緒に落ちているがどこかで見たことのある形だ。
「このペンダントどこかで見た事があるような……どこだろう。」
スペックの高い体ゆえに高速で脳内の記憶を掘り起こし、探っていくとある人物の装飾品であることに辿りつく
「そうだ、これはヴェラさんの……まさか!?」
買い物袋が2つ、更にヴェラのペンダントが何故道端に落ちているのか…その答えはすぐにある一つの結論を出すと同時にすぐさまそれらを拾い、孤児院に向かっていく。
「院長さん!この食材は今日の買出し品ですか!?」
「え、えぇ。でもなんでイーリスさんがそれを…まさか!」
「はい、そのまさかだと思います…これは路地の道端にペンダントと一緒に落ちていました」
「…そのペンダントはヴェラのです。まさか昼間に…今まで夜間にしか被害が出ていなかったのにどうして!」
「…ッ!すぐに街の衛兵に通報してきます!」
「お願いします!あなた!子供達には絶対に内緒です。今日は孤児院から出さないでください」
「は、はい!」
青ざめた表情で修道女性が頷き、慌てて子供達の方へと向かっていく
「私も一緒に手分けして探します!」
「一人では危険です。ヴィヴィアン、院長の護衛を頼みますよ」
「畏まりました」
すぐさま孤児院を出た後は街の衛兵の詰め所に駆け込む。
「すいません!少しいいですか!」
「あぁ?なんだ?」
「私の知り合いが二人行方不明なんです!恐らく最近この辺りで問題になってる殺人事件の犯人だと思います!」
必死の形相で衛兵に詰め寄るイーリス。その騒ぎを聞きつけて近寄ってきた衛兵達だがなんだか反応が薄く態度も悪い
「そうか、その知り合いってのはどこ出身だ?」
「孤児院です。」
「ハァ?下町の奴らかよ。つーことはあんたも下町出身者なんだろ?下町の奴らがいくら居なくなろうが誰も困らねえってのに何で俺らが動かないといけねえんだよ」
「全くだぜ。おら、とっとと帰れ!」
「ッ…!わかりました、もう貴方達には頼りません。」
「あぁ?なんだその口の聞き方は…っておい!」
「いいだろあんな奴の事なんて、早くポーカーの続きすんぞ」
「チッ、まぁいいだろう。今行くぜ」。
イーリスの言い方に腹を立てた衛兵が肩を掴もうとするが、その手は空を切り、すぐさまその姿は見えなくなる。
追いかけようとするが、同僚に止められた男はそのまま忘れることとなるが、もしイーリスがフードをとっていたら事態はもう少し変わっていたかもしれない。
しかし、焦りで少し冷静さを失っていたイーリスはその事に気が付かず次に冒険者ギルドへと向かう。
「すいません!緊急の依頼を頼めませんか?」
「どのようなご用件とランクはいくつでしょうか?」
「私の知り合いが二人、行方不明なんです!捜索依頼を出したいのでお願いします!ランクはDです」
「申し訳ありませんが、Dランクでは緊急の依頼を出すことはできません。」
「そ、そんな…ッ」
どうにかできないのか?と詰め寄ろうとした時だった。
「どうしました?」
「は、はい。私の知り合いが二人行方不明で…今巷で話題の事件に巻き込まれた可能性が非常に高いんです」
「それは心配ですね。わかりました。私も一緒に探しましょう!」
「本当ですか!?イーリスと言います。よろしくお願いします!」
「Bランク冒険者のカールです。それでは行きましょう。」
「はい!」
カールと自己紹介してきた人物は意外と高ランクなようだ。
薄い青色の髪を短く切りまとめた20後半といったところの男性だが、歩く振る舞いからも高ランクらしさを感じさせる人物だ。
その人物と共に周りの住人に聞き込みをして回るが、聞く人物全員からは見覚えがないといわれてしまう。
「どうしたら…ッ!」
途方にくれていた時に何やら背後から妙な視線を感じ、振り返るがそこにはカールと街の住人しか居ない。
「イーリスさん?何かありましたか?」
「い、いえ…何でもありません(なんだ今の視線は…とにかく今は早く探さないとッ!)」
再び辺りを探すために駆け回るが、全く情報が集まらず焦りばかりが募っていく。
索敵スキルも辺りを探るだけのスキルなので輪郭や動きなどは感覚で把握できても、特定の人物を探すには向いていないので自身の目で探し出すしか方法がないのだ。
「一度私の仲間と合流します!ついてきてください!」
カールを連れて孤児院へと戻ると、同じくヴィヴィアン達も戻ってきていたので合流して情報を整理する。
「見つかりましたか?」
「いえ、それどころか目撃情報すら見つかりません…」
「そんな…」
お互い顔を伏せ、どうするべきか?どうすれば見つけ出すことができるか?そんな事を考えていると、再びあの視線を先ほどよりも強く背後から感じる。
すぐに振り返りたい気持ちを抑えてそれとなく横目で見るが、やはりそこはついてきていたカール以外に誰も見当たらない。
(なんなんだ…?この視線は……まさか…)
一つの考えに至ったイーリスはあることを決めて行動する
「カールさん、ありがとうございました。これ以上はカールさんの迷惑になってしまうので、これで大丈夫です。少ないですが、心ばかりの報酬です。」
「そうか…、わかった、その知り合い見つかるといいな。俺はこれで失礼するよ」
「はい、また機会があったらよろしくお願いします」
カールが角を曲がり、離れていくのを索敵スキルで探り、感知ができなくなるギリギリのところで隠密スキルを発動させる。
「イーリス様?どうされましたか?」
「え、あ、あれ?イーリスさん?いったいどこに?」
突然気配が薄くなったイーリスに驚いたヴィヴィアンとさっきまでいたはずのイーリスが突然見えなくなった事に戸惑う院長。
「シッ、少し気になることができました。院長さんは危険なのでそのままここで待機していてください。ヴィヴィアン、行きますよ」
「畏まりました」
「は、はい…?あれ…?」
声がする方向を見ると、一瞬イーリスが見えるが瞬きをした瞬間にはまたもやイーリスが居なくなってしまうことに戸惑っている院長だが、言われたとおりに孤児院の中へと入っていく。
「ヴィヴィアンも隠密スキルはありますね?」
「イーリス様ほどではありませんが、素早く近づき、撹乱する為に認識しづらいようにあげております」
「先ほどのカールという男がかなり怪しいです。気づかれないように追跡しましょう。」
(あの時は焦っていたから気が付かなかったが、よく考えてBランクにもなる冒険者がDランク冒険者の知り合いを一緒に探すなんておかしい…しかも2回ほど感じたあの視線…全部カールが方向だ。恐らくあれが今回の…)
考えながら細心の注意を払って追跡していると、カールがある空き家へと入っていく。
日も落ちてきて辺りが暗くなるというのに宿屋には戻らずに空き家に入っていく高ランクの冒険者にますます警戒心を高めるイーリス。
「(あの建物内に恐らくヴェラさんは居ます。行きますよ!)」
2階建ての空き家に近づき、スキルで内部を探ると3つの反応が確認できる。
間違いなくヴェラともう一人の女性だろう。彼女達は2階部分にいるようだ。
「(居ました!人質にとられるとマズいです。ヴィヴィアンはカールの気を引いてください、その隙に彼女達を保護します。)」
「(わかりました)」
ヴィヴィアンが入り口付近でわざと音を立てるとヴェラから離れていく様子を感じ取ったイーリスは軽くジャンプをして窓枠に手をかけてから静かに侵入をして、ヴェラの元に辿りつくが、それと同時にその頃になってヴィヴィアンがカールと対峙したのか喋り声が聞こえてくる。
「(助けにきました、少し静かにしていください)」
無言で頷き、縛られている手足と口にされている手ぬぐいを取る。
「(ヴィヴィアンが気をひきつけている間に早く!)」
「(は、はい)」
窓枠に手をかけて外を出ようとした瞬間…凄まじい勢いでこちらに駆け上ってくる音と共にヴィヴィアンの鋭い声が響き渡る
「イーリス様!お気をつけください!」
「ッ!」
「てめぇ!俺の獲物に…手を出すなァッッ!!」
凄まじい勢いで駆け上ってきたカールが逃がそうとしていたイーリスに向かって一気に切りかかる
――ギャリィィィィンッ!!!
金属と金属がぶつかり合う凄まじい音と火花が飛び散る。イーリスがカールの剣を受け止めたからだ。
「チッ!Dランクのくせして中々やるじゃねえか!」
「やはりカールさん。あなたでしたか…どうしてこんな事をしているんですか!」
「どうして…?クククッ…愚問だなぁ。そんなの楽しいからに決まってんだろ!」
「楽しい…?」
「あぁ!なぁ、イーリス…あんたは人を殺した事ってあるか?」
「……」
「ねえのか?そりゃ勿体ねえぜ!人の死ぬ瞬間の恐怖、絶望、恨み、後悔…そんな思いに支配されたあの表情…あんな表情を見てハマらねえ奴はいねえよ!ハハハハッ!!」
「狂ってますね…あなたみたいな人とはもう喋る価値すらありません、黙りなさい。」
「ハァ?Dランク風情が何を言ってやがる?たった1回俺の攻撃を受け止めただけで調子にのってんじゃ…ッ!」
男が叫ぼうとしたその瞬間、背後からの気配を感じたカールはサッとしゃがみ込むと先ほどまであった自身の首付近に短刀が突きつけられるが、すぐさまその場で回転をして切りつけようとするが、その剣は空を切る。
「申し訳ありませんイーリス様。失敗しました…」
「ヒューッ!あぶねえあぶねえ…あんた何者だ?」
「あなたに応える義理はないわ」
「クククッ、まぁいい。最近歯ごたえのある人間ってのが居なくてなぁ…強い人間を殺す瞬間ってのもたまらなく最高なんだ…オラアアアアッッ!」
狭い室内ゆえに機動兵ストライダーの特徴である素早い動きを制限されてしまい、若干押されるヴィヴィアンだが、すぐさまイーリスが援護に入る。
「ッ!ゴミが邪魔を…っ!!チィッ!!」
イーリスとヴィヴィアンの二人に挟み撃ちされるの恐れてバックステップで距離を取るカール
「てめぇ…Dランクの強さじゃねえな?まぁ、今はいいか。一つだけいいこと教えてやるよ」
「喋るなと言いましたよ?」
「クククッ、いいじゃねえか。俺がなんですぐにそこの女を殺さずに拘束していたかわかるか?それはな…人を殺す以上の快楽を得るためだよ!人ってのは誰しも何かしら大切な物ってのがある。自分の命だってその一つだ。そしてそれを壊される瞬間の反応ってのはァ…ヒヒヒヒッ!!想像するだけで笑いがこみ上げてきて止まら…ッとォ!!!理由を聞いてきたのはお前らの方なのに話してる途中で攻撃ってのはねぇんじゃねえのかァ?」
「…貴方はもう人として終わっている。簡単には殺しませんよ?」
「イイネェ!!その表情…最初はフードに隠れてよく見えなかったが中々の美人だと思ったもんだ。そしてその整った顔が焦りで歪んでいた時の表情ってのは最高だったよ…これだから大切な物を壊すってのはやめられねえなァ!」
そう叫び今度はイーリスに向かって切りかかってくるが、その瞬間を狙ってマヤミルでの決闘時にも使用したカウンター系スキルを発動させ、男の攻撃を弾き返す。
「うおおおおっ!?」
見た目はどうみても華奢な女性に力を込めた一撃を跳ね返されたカールはよろけてしまう。
その隙を狙わない訳もなく、ヴィヴィアンがすかさずカールの利き腕を短剣で切りつけて腕を落とす
「ぐあああああッッ!!」
「これで、終わりです!」
怯んでいる隙に背後に回った後は男の頭に一撃を加えて意識を落とすのだった。




