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アジト襲撃1

なるべく進展するように書いていたら長くなりすぎたので前後で話を分けました。


 山岳地帯なせいで周りの視界は岩場だらけで視界も悪く、更に高低差を利用した上からの大量の矢はまず先頭の馬車に向かって大量に降り注いだ。


「うわあああああ!!!」

「い、いてええええ!!」


 咄嗟の事に硬直していた彼らはそのまま幌を軽々と突き破ってきた矢によっていくつも被弾し、中には運悪く喉に突き刺さってそのまま絶命する者など様々だ。


 特に御者は酷くまるでハリネズミのようになっている。先頭の馬車をやられればこの狭い道では3台もの馬車が回頭するスペースはないので、退路はすでに防がれてしまっている。明らかに襲いなれた手口だ。


「ッ…!これで!アースウォール!」


 上から丸見えであり、更に身を隠す場所がないのでこのままでは狙われ放題だと悟ったイーリスは咄嗟に土系魔法で壁を作り上げる。

この魔法は本来ゲーム時代にはない魔法だったが、生活魔法を覚えた際についでに習った魔法の一つだ。


 いつものように魔法ウィンドウを選択することができないので、呪文名を詠唱することで安定して放てるようにしている。


「私達が処理してくるのでこのままここに隠れててください!」

「あ、相手は30人ですよ!?荷物だけ渡せばもしかしたら…!」

「大丈夫ですよ!任せてください。ヴィヴィアン、いけますね?」

「勿論です。」


 アイコンタクトを送りながら作り出した壁からヴィヴィアンが飛び出す。しかし何故か矢は降り注いでこないのを不信に思いながら索敵スキルを頼りに一気に壁をかけあがり上に居る盗賊に迫っていく。


「なっ!こいつ結構やるぞ!気をつけろ!できれば無傷がいいが難しいようならアレを使え!」

「そう簡単に貴方達の思惑通りには行かないわ!はぁっ!!」

「うおっ!ッ!ぐああッッ!!」


 機動兵特有の凄まじい速度で男達の急所を突いて確実に息の根を止めながら戦線を撹乱していく。


「クソッ!!これでも食らえ!!」


 数人の男達が不気味な色をした短剣や遠方からでもわかるほどに同じく不気味な色の鏃を付けた矢を番える。


「(生け捕りといっていたから間違いなく麻痺毒…当たりはしないけど注意が必要ね)」


 そして前線で暴れているヴィヴィアンめがけて麻痺毒らしき矢を放とうとした瞬間…下方から光輝く矢が凄まじい速度で手足に突き抜けていく。イーリスの初級聖魔法【ホーリーアロウ】だ。


「う、うわああああっ!?!?お、俺の手…どうなってんだよ!?」

「クソ!なんでたった二人の女にこんな…うわああああ!!」


 全く痛みも出血もない不気味な穴が自身の手足に開いている不気味な光景に思わず叫び声をあげる盗賊達。

しかし、突然起きた背後からの衝撃に意識を奪われていく。気をとられているうちに首筋に一撃したからだ。

そのまま次々に抵抗むなしく無力化されていく盗賊達


「い、いったいなんなんだ!お前ら二人はなんなんだよ!!」


 残るとこ10人を切った辺りで見覚えのある下品な声が響き渡る。

その声を発した人物を方に視線を向ける…するとそこにはつい先ほどまで居たあの冒険者達だった。


「…貴方達、なにやってるんですか?なんで冒険者が盗賊紛いの事を?」

「うるせえ!いいから質問に答えろよ!」


 明らかに追い詰められているのは彼らなのにも関わらず何故か命令口調で怒鳴りかけてくる。


「貴方達に答える理由はありません。事情を聞くためにも気絶してもらいます!」

「チッ!おい、お前らやるぞ!!」

「「「「「おう!」」」」」


 残りの盗賊達+盗賊達全員で一気にイーリスに向かっていく。


「はぁ…残念だけどこれで終わりです!」


 魔法を発動すると、男達の足場が急激に悪くなり、思わず地面に転ぶ男達。慌てて立ち上がろうとするが何故か足が地面に深く潜り込み、身動きが取れなくなってしまう。

 魔道士の中位職『魔術師ソーサラー』で使えるようになる【スワンプフィーバー】だ。地面を泥沼化し、そこそこの範囲を足止めするので、ゲーム時代ではPvP戦、集団戦共に非常に重宝されている魔法だ。


「う、うわああああ!か、体が沈む!誰か助けてくれ!!」

「クソ、この装備じゃ重みで…」

「(おっと、このままじゃ窒息死しかねないな…)全部喋りますか?」

「しゃ、喋る!喋るから早く!!」


 沈みかけていたところで魔法の発動を止める。すると、泥沼化していた地面は多少でこぼこしているが元の状態に戻っていく。

 普通の地面に大の男達が半泣きになって地面に埋まっているので中々にシュールな光景だ。


「それじゃ何か拘束する道具を探してきてください。」

「わかりました。」


 隠れていた商人たちからロープを貰って男達を強引に引っ張り出し、次々にロープで縛っていく。


「さて、それでなんでDランクにもなって何でこんな盗賊紛いの事をしているんですか?」

「……」

「はぁ…「う、うわぁ!!わ、わかった話すって!!」


 再びだんまりを決め込もうとしたので再度魔法を詠唱、再び地面に沈み込み始めたので慌てて喋り始める冒険者達


「オ、オスカル王国とクレイ帝国は仲が悪いがお互いを利用しあって商業関係は結構賑わっているのは知ってるだろ?その輸送ルートを襲えば今以上に儲けが出るってこいつらの頭目に誘われてな。Dランクになったのはいいが壁にぶち当たって全然あがらねえから、その話に乗ろうと思ってな…そんでその最初の襲撃の日が今日だったって訳だ」

「なるほど…それでその頭目の居場所は?」

「し、知らねえよ!…うぉっ!ま、待ってくれ本当だ!本当に知らないんだ!今日初仕事だって言ったろ!この馬車の荷物を手土産にこいつらがアジトへと向かわせてくれるって話だったんだよ!!だから沈めるのはやめてくれ!」


 どうやら本当の事らしく、目に偽りは感じられない。目を向けた盗賊達の方へと目を向け、その盗賊達の周りだけ魔法を発動する。


「クソ!は、話すよ!お前らベラベラ喋りやがって…お、教えるから待ってくれ!」

「無駄に魔力を消費させないでください。それで?居場所は?」

「居場所は………」


 その後、盗賊達の居場所を聞きだしたイーリス達はアジトを襲撃するか、一度冒険者ギルドに説明をしてこのことを伝えるかべきかヴィヴィアンと話し合う。


「2人だけで30人の盗賊達と6人のDランク冒険者を退治、更にそのアジトを潰すってどう思います?」

「少なくともDランク冒険者の成せる事ではないのは間違いないですね。」

「ですよね…はぁ、なんでこうトラブルが毎回起きるんですか…」

「それではアントンに着いたら襲撃を受けてギリギリ切り抜けたと説明しますか?」

「うーん…でもこの人たちが戻らなかったら間違いなくアジトの場所を変えるのを考えると良い手とは言えませんね…」

「そうですね、今回の襲撃はそれなりに指揮が取れており、しかもDランク冒険者6人を囲い込める規模のアジトを構えているとなると恐らくそこそこ有名な盗賊団と思われます。」


(まじかよ…アントン王国は評判が良くないっていうから目立ちたくなかったのに何でいきなりこんな目に遭わないといけないんだよ。でもアジトを放置して他の場所で暴れられたら後味悪いしなぁぁ…うーん…)


「その盗賊団の頭目の名前って誰ですか?」

「…ダーフィルだ」

「ダ、ダーフィル盗賊団!?」

「あ、やっぱり有名な盗賊団なんですね…はぁ…どういう盗賊団なんですか?」


 驚いた商人達から話を聞くとその盗賊団全体の規模は100人近く。更にその頭目はCランク相当の冒険者崩れらしく、実力も中々にあるという。


「それは潰さない訳にはいかないですね。なるべく目立たない範囲で潰せる方法…ヴィヴィアンも考えてみて…うーーん…」

「そうですね…ノワールに襲撃させるというのはどうでしょうか?」

「それです!!その手がありました!それで行きましょう!」

「ノ、ノワール…?」

「ふふ、秘密ですよ?あ、それと勿論ですが今回の事は内緒でお願いしますよ?」

「ど、どうしてですか?このことを報告すればCランクまで上がることができますよ?」

「どうしてもです。なるべく目立ちたくないんですよ。絶対に教えないでくださいね?…もし教えたら、どうなるかは…言わなくてもわかりますね?」


 適当に魔力を放出して威圧感っぽいものを出すと効果てきめんらしく急に顔を青くさせて顔がもげかねない勢いで激しく頷く商人達


「よろしい!それじゃあ先に片付けをしましょう。私が潰してくるので先に行っててください。ヴィヴィアン、頼みましたよ?心配になるのはわかるけど、どちらにせよこの山岳地帯でこの人たちを置いてアジトへ向かう事はできません。」

「…わかりました。それではお待ちしています」

「はい、頼みます。」


 通路を確保したのちにヴィヴィアンと共に馬車を出発させ、離れていく。ちなみに冒険者達は腕を沈めた後に掘り出した岩製の錠で固定され、ロープによって簀巻き状態になっている。リーダー格らしき盗賊達も3人ほど乗せたところで馬車がいっぱいになってしまったので、残りの盗賊達はその辺に投げ捨てて後日、生きていれば犯罪奴隷として回収するという。


 そのままその盗賊達から十分に離れた頃になって騎乗スキルを発動させてノワールを召喚して、現れた後すぐに猫のように喉を鳴らしてイーリスに擦り寄る。


「グルゥ!!」

「よしよし、相変わらずお前はかっこよくて可愛いなぁ…今日は盗賊達のアジトを襲撃しにいくんだけど、ノワールに暴れてもらうよ」

「グル!グルル!!」

「お、殺る気いっぱいだな!それじゃあ教えてもらった場所まで飛んでいくよ!」


 ノワールに飛び乗り、アジトへと向かう道標を頼りに飛んでいく。イーリスの体のスペックのおかげかそこそこ上を飛んでいてもはっきりと確認することができたので、迷うことなく洞窟に作られたアジトへと辿りつくのだった。

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