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アグニス王国に向けて。

 関所を越えた先を見てみると明かりがみえてくる。そのまま馬車は進み、ようやく洞窟を抜けた先の光景もまた要塞のように大きな城壁と大砲がいくつも洞窟側へと向けられている。


(こっちも内側に向けて要塞か…こりゃ俺みたいに空から攻撃しないと魔法のあるファンタジーでも突破は無理だな。侵攻を何度も食い止めるわけだ)


「こっから目的地までは更に2週間かかるから用意しておけ。今日は関所で足止め食っちまったからここに泊まってくぞ。」

「わかりました。」


 すでに陽が落ち始めているので、要塞内部にある宿場で一泊だ。

宿代は自腹ではあるが、イーリス達は困っているわけでもないのでそのまま部屋を一つ借りる。


「2週間ですか…結構かかるんですね」

「アグニス王国は国土が非常に広く都市同士の距離がかなりあるせいですね。」

「なるほど。でも今から2週間お風呂禁止はつらいものです…」

「この宿屋にもお風呂はありますが、共有となるとやはり…」

「えぇ、これを見られるのは避けたいので…一応宿屋の人に聞いてみますか。」


 お金は多く払うからなんとか貸し切れないだろうか?と宿屋の店主に聞くと、人の少ない深夜であればいいという許可をもらえたので、内心でガッツポーズをしながらお金を払い、利用客が居なくなった頃にさっそくヴィヴィアンと一緒にお風呂へと入ろうとローブを脱ごうとしたその時だった。


「…!イーリス様、お待ちください。」

「ヴィヴィアン?どうしました?」

「イーリス様の着替えを覗こうとする不届き者が居ます。…そこッ!!」


 服の下に隠した短剣をさっと取り出すと目にも留まらぬ速さで壁の辺りを一閃。

 悲鳴のような者が聞こえたと思いきや壁が崩れた場所から姿を現したのは…


「…店主の貴方が何をやっているんでしょうか」

「な…な、なんでわかったんだ?隠密スキルには自信が…」

「それを知る理由はあなたにありません。衛兵に突き出すので気絶してもらいますよ。」


 ぐえっ。という声と共に首へ手刀を振り下ろして気絶させるヴィヴィアン。

とりあえずこの男を衛兵に突き出し、処罰してもらう為に外へと出るが、クレイ帝国とは違ってやる気のなさが滲み出ているようだ。

とはいえ、流石に見逃す程ではないようなので態度の悪さを感じつつも引き取ってもらう。


 一騒ぎあったので、このまま風呂に入るか迷ったイーリスではあるが満足にお風呂に入る機会は2週間もないかもしれないと判断した彼は改めて用意をする。


「(いきなりこんな事態に合うなんて評判通り治安のいい王国ではないようね…。念のため警戒してよかったわ、あの店主のレベルも低かったようだし)」

「今度こそ邪魔なしにお風呂に入れますね。」

「お手伝い致します。」


 たっぷりと2日分の汚れを落とした後に明日に備えて眠りにつくのだった。


 次の日、起床した後はヴィヴィアンに髪の毛を梳いてもらいながら行き先の事について尋ねてみる。


「これから向かうアグニス王国の首都『アントン』はどういう都市ですか?」

「500年前の暗黒大陸出現よりも前からあった都市なので、規模の面では大陸最大を誇る巨大な都市です。海側に面しているので貿易でも盛んな都市ですね」

「大陸最大…楽しみです!」

「ただ、『マヤミル』ほどに治安の良い都市ではありません。アグニス王国自体が他国からあまり評判の良い国ではないので、お気をつけください」

「わかりました!」


 身支度を終えた後は商人達と合流をするが、他の6人の冒険者はどうやら遅れているらしく、ヴィヴィアン達2人だけのようだ。


(はぁ…今度は遅刻か?まぁ、海外でも時間にはルーズっていうけどさ)


 しばらく待つこと30分。ようやく彼らは現れたが、全く急ぐ様子のなく暢気に歩きながらくっちゃべっている。


「ありえないですね。30分も遅刻なうえに急ぐ様子皆無ですか…」

「そうですね…冒険者は国に関わらず基本的に時間に甘いんですが、遅刻していい理由にはなりません。」


 ようやく合流した彼らだが、『スピリットファング(ジル達)』の知り合いと知ってからはこちらに何度も視線を送ってくる。それも明らかに敵意の感じられる視線だ。


(昨日より強くなってないか…?いったいなんだってんだ?)


 不信感を感じ、アグニス王国の治安が悪いという話を思い出したイーリスは警戒しながら馬車へと乗り込む。


 その後も夜に動くと魔獣に襲われる危険性がある為、道中にある農村や野営地で夜が明けるまで待機しながら進むこと1週間。ベルク山岳地帯と似たような荒野を越える為に今日は野営地にて休む事となったので、野営の準備を終えた後は火を炊く為に枯れ木などを集めているときだった。


 何か水が流れ落ちる音が聴こえてきたので、そちらへと向かうとそこは滝状になった川が流れているの発見する。


「おぉーこりゃまた見事な滝だなぁ…待てよ?ここの岩陰を利用すれば風呂に入れるか?旅に出てから一度も入れてないからイーリスを綺麗にしてあげたいんだが…」


 農村には風呂を沸かす為の魔石、魔道具という高級品はなく、あってもドラム缶風呂のような人が一人入れる程度の物がある有様だったので入れなかったのだ。


「うん…ここなら影にも隠れるし水をあっためるだけだし岩を聖剣で削ればいけるか…?」


 さっそく聖剣をインベントリ内から呼び寄せる。

この聖剣『レジル』は適性レベル200lvの最深部ダンジョンボスが落とす国宝級のレアドロップ品だ。レア等級は一番上から三番目ではあるが、十分に強力なアイテムだ。


 その分、その存在感は圧倒的で低ランク冒険者に似つかわしくない装備品だったので、カモフラージュとして適当な安物の剣を腰に下げていたのだ。


「そういえばここに来てからこいつ使ってなかったな。魔法で全部片付けれる魔獣ばっかだったもんなぁ…でも、この先レイドボスや高難度ダンジョンボスと戦う事も十分ありえるし、もってて損ってことはないだろう。とりあえず、削れるか…っと、問題ないな。」


 軽く剣を突き入れてみるとまるで豆腐を刺したかのように思える程の軽い感触と共に突き刺さる。流石に摩擦までは軽減しないらしく、3分の1ほど指すと抵抗感はあるが特に問題はないようだ。


「これをこうして…とりあえず直角に切ればいいかな。」


 こちらの住人から見れば国宝として指定されるレベルの聖剣で風呂作りという卒倒しかねない行為をしているが、実はこの剣もイーリスの見た目に合う為に揃えた武器なので、本気時の武器はこれとはまた別に存在している。



「うん、意外といいじゃないか。ヴィヴィアンも呼んで来るか!」


 上機嫌に軽くステップを踏みながらヴィヴィアンの元に向かい、風呂を作ったと伝えると驚かれたが従士とはいえヴィヴィアンも女性。商人に辺りを警戒してくると伝えた後は少し気分を上げてイーリスお手製の岩風呂に向かっていく。


 どうやって作ったか説明すると何だか少し呆れのような口調で感心されるが、風呂の事でテンションのあがっていたイーリスは気が付かなかったようだ。

さっそく、お風呂へと入浴した彼女達はその疲れを存分に癒していく。


 次の日、山賊や盗賊達がよく出現する注意ポイントである山岳地帯へと入っていく。

 ヴィヴィアン、イーリス共に最大限警戒をしながら、辺りを探るが、注意ポイントであるにも関わらずやはり彼らはあまり警戒している様子を感じられない。それ所かイーリス達をローブの上から品定めするような気持ち悪い視線を送ってくる。


 と、そんな時だった。一人のリーダー格の男が立ち上がり御者に話しかける。


「…おい、何か違和感を感じる。少し探りたいから馬車を止めてくれないか?」

「なにいってるんだ。ここは危険地帯だと有名なのは知ってるだろ?早く抜けたいからとめるわけには行かないぞ」

「その危険地帯だからこそこの先に違和感の脅威を教えたんだが?それともそのまま突っ込んで荷物ごと襲われるか?」

「…わかった、それじゃあ任せた」

「おい、お前ら見てくるぞ。俺らで探ってくるからそこの二人は警戒してろ」

「はい。(違和感…?索敵スキルには特に感じられないが…?俺が気が付かないだけか?)


 2人ほど残してもいいのでは?と思うが、あの視線を向けられたくなかったのでそのまま岩場の影に隠れていく彼らを見送る。


 そしてそれから数十分ほどたったころだろうか?ふと、イーリスの索敵スキルに反応が現れる。


(魔獣?…いや、それにしては…なっ!)


 正体を探ろうと思考していたその瞬間、突然イーリス達を囲むように一気に反応が現れる。


「囲まれてます!!数は30前後!襲撃です!!隠れてください!」


 そう叫んだその瞬間…四方八方から大量の矢や岩が飛んでくるのだった。

何故イーリスの索敵スキルが反応しなかったのかはこの先で書きます。

ちなみにヴィヴィアンも狩人アーチャー系最高位ジョブなのでイーリス程広範囲、高性能ではありませんが覚えてます。

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