護衛依頼
馬車へと向かう途中にもゲハゲハと何がそんなに面白いのかやたらとバカでかい耳に障る下品な笑い方でずっと談笑しているようだ。
それは馬車に乗り込んで移動中になって上下に分かれてからもあまり変わらなかった。
主に話の中心であったリーダー格らしき男と同じパーティの男、そしてイーリス達の4人だけなのにも関わらず周囲を警戒するなど全くせずに談笑に夢中だ。
(ギャハギャハとうっせえな…男からみても下品なのがよくわかるぜ。インドア系の俺でもちゃんと髭は剃るし、洗顔してニキビ予防、歯を磨くあたりの身だしなみは当たり前だってのに…きったねえ面してんな。)
この世界では風呂が深く浸透していないので1週間入らない事は別段珍しくも無いが、お湯で体の汚れを拭き取るくらいの手入れは毎日するのが一般的な常識だ。
しかし、見たとこの彼らは半月近くは入ってないだろう臭い、荒れた髪、笑った時に見える黄ばんだ歯などお湯で拭き取るということでさえ毎日やってない事が人目でわかるほどに汚らしい格好をしていた。
装備の状態は命に直結する為に痛んではいるものの手入れはしっかりされているが、身だしなみは完全に放置状態のようだ。
「……」
「ギャハハハ!!あ?なんだ?何か用か?」
顔はフードで隠しているが視線を向けている気配は感じたのだろう、何事かと話しかけてくる。
「…いえ、なんでもありません」
「ケッ、愛想のねえ奴だな。おい、澄んだ声から察するにお前中々の上玉だろ?ちょっと顔みせろよ」
「…そんないいものじゃないのでお断りします。がっかりすると思いますよ」
「あぁ?女が何指図してんだ?いいから見せろよ。」
(な~~~んで顔も見せて無いし何もしてないのにこいつは絡んでくるんだよったく…顔見せたらぜっったい面倒な事になるのは目に見えてるからなんとか誤魔化すしか…)
「おい、聞いてんのか?」
こちらに近づいてくるので適当に誤魔化そうとした時だった…
「魔獣が出たぞ!!」
「…チッ、森の中だから少し視界悪いな。おい、御者相手はなんだ?」
「フォレストウルフだ。Fランクの雑魚魔獣だが、無駄に数が多いのがめんどうだな」
「まぁいい。さっさと片付けるぞ」
馬車の御者から報告を受けた男達はやる気なく馬車へと出て行き、次々に森の奥へと入っていく。
「私達も行きましょう」
「わかりました。」
イーリスは適当にごにょごにょ呪文もどきを言いながら初級魔法で、ヴィヴィアンはわざと遅めに動きながら短刀で特に問題なく次々に処理をする。
その際ついでに周りにヴィヴィアン以外誰も居ない事を確認しながら死体をインベントリ内に回収していく。後で毛皮などの素材を売るためだ。
片付けが完了した後彼らも同じく毛皮を剥ぎ取りながら移動していく。
これらの素材は質が良ければついでに買い取るということで処理をしているようだ。
その際、そこらに転がる内臓や、バラバラにされたフォレストウルフを死体を見るが…
(うーん、中々にグロいがそういうゲームもやってたおかげかそこまでクるものでもないな。…今回は魔獣だったけど盗賊なんかも居るんだろうなぁ。そん時は…そん時で考えるか。)
「うむ、まぁいいだろう。全部で4000ユノだ。」
「ケッ、フォレストウルフの毛皮はやっぱ安いな。まぁいい早くよこせ。」
買取を済ませて馬車は再び出発していく、
そのまま馬車に揺られる事数時間。どうやら喋り疲れたのか、男達は無言で馬車の外を眺めている。幸いな事に先ほどの魔獣騒ぎでイーリスの顔の事は忘れてしまったようだ。
更に馬車に揺られていると、陽が暮れたので野営の準備をする。
街道には野営用に少し辺りを広く作られている場所が点在しているので、今回はそこで野営をすることになる。
冒険者や商人に見られないように出る時にインベントリ内にいれていたサンドイッチを取り出して食事を摂っていく。都合のいいことにイーリスのインベントリ内は時間がとまっているらしく、出てくる料理はどれも出来たてだ。
とはいっても、今は移動中なので目立たぬ用に地味めなサンドイッチを選んでいる。他の冒険者たちや商人も干し肉や薄いスープなどが今日の食事のようだ。
その後は、見張りのローテーションを二人で組んで夜を過ごしていく。
イーリス達の番が来た時に一人すこし森の奥へと行き、王城で習った土系生活魔法で壁を作った後は、流石に土製の風呂に入る事はできなかったので作り出したお湯で体を拭いていく等をして夜を過ごすのだった。
次の日も時々現れる魔獣を問題なく処理しながら無事にハイヤル洞窟へと到着した一行は、門で手続きをした後、さっそくハイヤル洞窟へと入っていく。
(そういえばあの騒ぎはなんとかなったのかな…)
自分の実験で大騒ぎにしてしまった事を不安に思い、周りを見渡すがこないだのような慌しさは感じられない。どうやら無事に連絡が届き事態はすでに収束していたようだ。
と、ハイヤル洞窟の分岐点に差し掛かる時になって見覚えのある人影を発見する。
「ん…あれは、ジルさん?」
「お?その声とローブはイーリスか?また偶然だな、商人の馬車に乗ってるって事は護衛依頼か?」
「えぇ、そんな所です。」
「おいジル?この人達は?」
帝都のギルド長に迫るような大きな男とこちらをチラっと見た後興味なさげに視線を逸らす女性の姿が目に入る。
「おぉ、こないだミラが言ってたDランク冒険者だよ。」
「へえ、あんたらが噂の?俺はアンデルだ。こっちの無愛想なのがカルラだ。」
「……(ペコリ)」
どうやら前に言っていた残りの二人の冒険者達のようだ。
「こら、ジル、イーリスちゃん達は今護衛依頼してんだから話しかけんじゃないよ。」
「なんだよミラ…イーリスが先に話しかけ「言い訳すんじゃないよ!イーリスちゃんごめんね?それじゃあまた今度機会があったら会いましょう!」
「は、はい…」
気圧されながらも頷き、馬車は再び出発していく。
そのままアグニス王国行きの分岐点へと入った辺りで商人が話しかけてくる。
「イーリスさん達はもしかしてスピリットファングの知り合いなんですか?」
「え?えぇ、冒険者登録をしていた時に少し…(なんでいきなり敬語?)」
「へぇ…よろしかったら今度ご紹介願いませんか?」
「…えぇ、機会があったら。」
「よろしくお願いします」
抜け目のない商人だと思いつつふと馬車内の冒険者に顔を向けるとなんだかいかにも面白くない。といった表情でにらみつけてくる
(お~怖い怖い、嫉妬か?でも絡んでこないあたりあの4人はやっぱ相当な有名人なんだな。)
そのまま更に揺られる事数十分。国家間の仲はあまりよくないので、無駄に厳重な関所に長々と並ぶ馬車に辟易しながらも、ようやく通行の許可が降りた一行はそのままハイヤル洞窟を抜け、アグニス王国へ領内へと入国するのだった。




