第八話 2人で1つ
三冬との戦いを終えた直後、春馬の「一」の印が黒く染まった。病院へ運びたいものの、車は動かず、携帯電話もつながらない。刻一刻と命が削られる中、りかは自分の内側にいる紫乃へ助けを求める。二ノ火が示す代償とは――。
第八話「二人で一つ」
一月一日、午前五時四十五分。
春馬は雪の上へ倒れていた。
りかが上半身を抱き起こし、何度も頬をたたく。
りか「春馬! 目を開けて!」
返事はない。
顔から血の気が失われている。
呼吸は浅く、途切れそうになっていた。
りか「ひろし君、救急車!」
ひろし「やってる!」
ひろしはスマートフォンを耳へ当てていた。
ひろし「駄目だ。つながらない!」
りか「どうして?」
ひろし「圏外になってる。さっきまでは使えたのに!」
周囲には民家も街灯もない。
朝靄に包まれた県道が、どこまでも続いている。
ひろしは車へ駆け戻り、エンジンをかけようとした。
キュルルルル。
弱々しい音だけが響く。
ひろし「嘘だろ……」
もう一度キーを回す。
エンジンは動かない。
三冬が開けた三つの穴だけではなかった。
ボンネットの隙間から、紫色の煙が漏れ出している。
塚原は春馬の右手を見つめていた。
「一」の印から伸びた黒い筋が、肘へ到達している。
塚原「急がねばならぬ」
りか「春馬に何が起きているんですか?」
塚原「憑依によって、ワシの魂が春馬の体を侵食しておる」
りか「侵食……?」
塚原「本来、憑依者と器は、同時に表へ出ることはできぬ」
りか「でも、さっきは二人で戦っていた」
塚原「あれは春馬が、己の意識を保ったままワシの力を受け入れたからじゃ」
りか「それが駄目だったんですか?」
塚原「器が未熟だった」
りか「春馬のせいじゃありません!」
塚原「わかっておる!」
塚原の声が県道へ響く。
りかの肩が震えた。
塚原は両手を強く握り締める。
塚原「わかっておる……」
低い声だった。
塚原「ワシが、あやつの覚悟に甘えた」
塚原の姿が、わずかに透ける。
春馬へ近づこうとしても、黒く染まった「一」の印が塚原を拒絶していた。
塚原「ワシが無理にでも止めるべきだった」
りか「今は後悔している場合じゃないです」
塚原「何?」
りかの目には涙が浮かんでいた。
それでも塚原を真っすぐ見つめる。
りか「春馬を助ける方法を考えてください」
塚原「……そうじゃな」
りか「春馬なら、そう言います」
塚原「お主も、ずいぶん春馬に似てきたのう」
りかは春馬の手を握った。
冷たい。
いつも自分を引っ張ってくれる手から、急速に温度が失われている。
りか「紫乃さん」
胸の奥へ呼びかける。
返事はない。
りか「聞こえているんでしょう?」
静寂。
りかは目を閉じた。
りか「お願いします。春馬を助けて」
暗闇の奥で、炎が揺れた。
紫乃「妾は医者ではない」
りか「でも、何か知っているんですよね」
紫乃「知らぬ」
りか「嘘」
紫乃「なぜ、そう思う」
りか「さっきから、悲しい気持ちが流れてくるから」
炎の向こうに、二階堂紫乃が立っていた。
長い黒髪。
血に染まった白い装束。
荒々しい瞳の奥に、深い悲しみがある。
りか「紫乃さんは、同じことを経験したことがある」
紫乃「黙れ」
りか「大切な人が、憑依のせいで死んだんですか?」
紫乃「黙れ!」
炎が激しく燃え上がる。
りかは逃げなかった。
りか「だったら、助け方も知っているはずです」
紫乃「知っていたなら、あの者は死んでおらぬ!」
紫乃の声が震えていた。
燃える村の光景が、りかの意識へ流れ込む。
四百年前。
紫乃は一人の青年を抱いていた。
青年の手には、黒く染まった「二」の印がある。
紫乃「目を開けよ」
青年は答えない。
紫乃「妾を置いていくな……」
紫色の火に包まれた村で、紫乃は何度も青年の名を呼んでいた。
しかし、その名前だけが聞き取れない。
記憶が途中で引き裂かれ、闇へ消える。
りかが目を開ける。
紫乃は背を向けていた。
りか「ごめんなさい」
紫乃「謝るな」
りか「でも……」
紫乃「哀れまれる方が不愉快じゃ」
りか「哀れんでないです」
紫乃「ならば何じゃ」
りか「紫乃さんも、ずっと一人だったんだと思って」
紫乃の肩が、わずかに動く。
りか「助けられなかったことを、四百年間ずっと自分のせいにしてきた」
紫乃「お主に何がわかる」
りか「わからないです」
りかは素直に答えた。
りか「でも、私も春馬を失ったら、きっと一生自分を責めます」
紫乃が振り返る。
りか「だから、同じ後悔をしない方法を一緒に考えてください」
紫乃「妾を頼るのか」
りか「はい」
紫乃「お主の体を奪った妾を?」
りか「まだ怖いです」
紫乃「ならば――」
りか「怖いから、ちゃんと話したいんです」
紫乃は何も言えなかった。
りか「勝手に体を使わないでください。春馬も、ひろし君も傷つけないでください」
紫乃「注文が多い娘じゃ」
りか「その代わり、必要な時は私から力を貸してほしいと頼みます」
紫乃「妾を道具にするつもりか」
りか「違います」
りかは手を差し出した。
りか「一緒に戦ってください」
紫乃は差し出された手を見つめる。
かつて自分が守れなかった青年の手と重なる。
紫乃「一つ、条件がある」
りか「何ですか?」
紫乃「妾を『さん』付けで呼ぶな」
りか「そこですか?」
紫乃「気が散る」
りか「じゃあ、紫乃」
紫乃「何じゃ、りか」
りか「春馬を助けて」
紫乃は、りかの手を握った。
紫乃「承知した」
◇
現実へ戻ったりかが目を開ける。
左手の「二」の印が紫色に輝いた。
塚原「紫乃か」
りか・紫乃「二人じゃ」
塚原「何?」
りかの左目は青。
右目は紫。
第七話の戦いと同じ状態だった。
りか・紫乃「妾が勝手に体を使っているのではない。りかが妾を受け入れておる」
塚原「それができるのか」
りか「春馬が、先に見せてくれたから」
りかは春馬の右手へ自分の左手を重ねた。
「一」と「二」の印が触れ合う。
紫乃「塚原。お主の魂を春馬から引き離せ」
塚原「できぬ。印がワシを拒んでおる」
紫乃「力ずくで行え」
塚原「それでは春馬の魂まで傷つける」
紫乃「妾が間へ入る」
塚原「何じゃと?」
紫乃「二ノ火は、二つの魂を分ける火じゃ」
りか「そんな力があるの?」
紫乃は春馬の胸元へ右手を置いた。
りか「何をすればいい?」
紫乃「春馬を呼べ」
りか「呼ぶ?」
紫乃「奴の魂は、今、塚原の記憶にのみ込まれておる」
塚原の表情が変わる。
塚原「ワシの記憶に?」
紫乃「このままでは、春馬はお主と自分の境目を失う」
りか「そうなったら?」
紫乃「春馬という人間が消える」
りかの手が震えた。
紫乃「恐れるな。妾の声に合わせよ」
りか「うん」
紫色の光が、春馬とりかを包み込む。
りかの意識が、深い闇へ沈んでいった。
◇
一月一日、午前五時五十二分。
春馬は、見知らぬ場所に立っていた。
空は赤い。
周囲には、焼け落ちた家々が広がっている。
地面には無数の刀。
遠くから人々の悲鳴が聞こえる。
春馬「どこだ、ここ……」
自分の手を見る。
金髪ではない。
節くれ立った大きな手。
白い羽織。
灰色の袴。
腰には二本の刀。
水たまりに映った顔は、塚原だった。
春馬「俺が……塚原?」
目の前に、血まみれの男が現れる。
男「人殺し」
春馬「違う」
別の方向から、女の声がする。
女「千人を斬った化け物」
春馬「違う。塚原は殺してない」
子供たちが現れる。
子供「返して」
春馬「何を?」
子供「父ちゃんを返して」
春馬「俺じゃない!」
声が増えていく。
人殺し。
剣鬼。
化け物。
千人斬り。
春馬は両耳を塞いだ。
春馬「俺は春馬だ……」
足元から黒い手が伸び、春馬の体へ絡みつく。
春馬「離せ!」
黒い手に引かれ、地面へ沈んでいく。
遠くに塚原が立っていた。
背を向けたまま、一人で炎の中へ歩いている。
春馬「塚原!」
返事はない。
春馬「どこに行くんだよ!」
塚原「来るでない」
春馬「何で?」
塚原「ここは、ワシの罪じゃ」
春馬「お前は殺してないんだろ!」
塚原「守れなかった」
塚原の足元に、門下生たちの遺体が現れる。
一人。
十人。
百人。
数え切れないほどの死者。
塚原「ワシが生き残った」
春馬「それの何が悪いんだよ」
塚原「ワシだけが、生き残ってしもうた!」
塚原が振り返る。
いつもの厳しい顔ではない。
泣いていた。
四百年間、誰にも見せなかった涙が頬を伝っている。
塚原「皆、ワシを信じておった」
春馬「だったら、生きなきゃ駄目だろ」
塚原「何?」
春馬「死んだ人の分まで生きろとか、そんな重いことは言わない」
春馬は黒い手を振り払い、塚原へ近づく。
春馬「でも、お前が死んだら、守れなかった人まで無駄になる」
塚原「黙れ」
春馬「生き残ったことを罪にしたら、助けられた命まで否定することになるだろ」
塚原「十九年しか生きておらぬ若造に、何がわかる!」
春馬「わかんねえよ!」
春馬の声が、燃える村へ響く。
春馬「四百年分の後悔なんて、俺にわかるわけないだろ!」
塚原の胸ぐらをつかむ。
春馬「だから一人で抱えるなよ!」
塚原「春馬……」
春馬「半分貸せ!」
塚原「何?」
春馬「体は貸してるんだから、後悔も半分くらい俺によこせ!」
塚原は目を見開いた。
春馬「一心同体なんだろ」
塚原「お主……」
春馬「都合が悪い時だけ、別々になるなよ」
塚原は顔を伏せた。
その時。
燃える村の向こうから、りかの声が聞こえた。
りか「春馬!」
春馬が振り返る。
炎の中に、りかが立っていた。
春馬「りか?」
りか「帰ろう」
春馬「どこに?」
りか「私たちの世界に」
りかが手を伸ばす。
春馬も手を伸ばした。
しかし、指先が届かない。
二人の間を炎の壁が遮る。
紫乃「塚原! 春馬を押し出せ!」
塚原「承知した!」
塚原が春馬の背中を押す。
春馬「ちょっと待て!」
塚原「行け!」
春馬「お前は?」
塚原「ワシも後から行く!」
春馬「本当だろうな!」
塚原「武士に二言はない!」
春馬の体が炎の壁へ投げ出される。
春馬「もっと優しくできないのかよ!」
炎を抜けた先で、りかが春馬の手をつかんだ。
りかの瞳から涙がこぼれる。
りか「死んじゃうかと思った」
春馬「ごめん」
りか「もう勝手にいなくならないで」
りか「約束して」
春馬「約束する」
りかは春馬の手を両手で握る。
りか「絶対だからね」
春馬「あぁ」
春馬は照れたように目をそらした。
その向こうで、紫乃が塚原の腕をつかむ。
紫乃「お主も来い」
塚原「触るでない」
紫乃「四百年ぶりに会った女へ、最初の言葉がそれか?」
春馬とりかが、同時に振り返る。
春馬「二人、知り合いなの?」
塚原「知らぬ」
紫乃「知っておる」
塚原「知らぬ!」
紫乃「昔、妾に求婚した」
塚原「しておらぬ!」
春馬「したんだ」
りか「したんだね」
塚原「しておらぬと言っておろう!」
紫乃「刀を一生預けると申した」
塚原「あれは共闘の申し出じゃ!」
紫乃「妾は夫婦の契りかと思った」
塚原「なぜじゃ!」
春馬「昔から言葉足りなかったんだな」
りか「春馬と同じだね」
春馬「俺は違うだろ」
りか「同じだよ」
四人の声が重なる。
燃えていた村が、紫色の光へ包まれていった。
◇
春馬が目を開ける。
最初に見えたのは、泣き腫らしたりかの顔だった。
春馬「おはよう」
りか「馬鹿!」
りかが春馬の胸をたたく。
りかは春馬の服をつかみ、胸元へ顔を押しつけた。
声を上げて泣いている。
春馬は困ったように、りかの頭へ手を置いた。
春馬「ただいま」
りか「遅いよ……」
右手を見る。
「一」の印から伸びていた黒い筋は消えていた。
印そのものは、まだ紫色に残っている。
塚原も春馬の隣へ戻っていた。
以前より姿が薄い。
それでも、確かにそこにいる。
春馬「塚原…」
ひろしがその場へ座り込む。
ひろし「よかった……」
春馬「心配した?てか、泣いてる?」
ひろし「うるせえ!」
りかが涙を拭いながら、小さく笑う。
空が明るくなり始めていた。
長かった夜が、ようやく終わろうとしている。
その時。
りかの左手にある「二」の印が光った。
車内の時計が切り替わる。
午前六時二分。
06:02。
時刻の末尾に「二」が現れる。
紫乃「来るぞ」
りか「何が?」
県道を覆っていた朝靄が、一点へ集まり始める。
白い霧の中に、一人の女性が現れた。
白い装束。
長い黒髪。
両手首と首には、紫色の鎖が巻きついている。
春馬「九ノ火……」
女性は九条翡翠だった。
しかし以前に現れた時よりも、姿が薄い。
片方の頬には亀裂が走り、内側から紫色の光が漏れている。
翡翠「時間がありません」
紫乃「九条翡翠」
翡翠「二階堂紫乃。ようやく、あなたと話せます」
りか「私たちに何をさせたいんですか?」
翡翠は、りかを見つめる。
翡翠「十一ノ火・霜月士郎は、現世と幻真層を一つにしようとしています」
春馬「一つにしたら、どうなる?」
翡翠「現世の全ての人間が、火人の器になります」
ひろし「全てって……」
翡翠「子供も、老人も、火に耐えられない者も」
塚原「耐えられなければ、どうなる」
翡翠は目を伏せた。
翡翠「魂を焼かれ、死にます」
誰も言葉を発せなかった。
翡翠「一月十一日、午前十一時十一分」
その日時を告げた瞬間、空気が震える。
一月十一日。
十一時十一分。
「一」がいくつも重なる時。
翡翠「その時、十一ノ火の門が完全に開きます」
春馬「あと十日……」
翡翠「門を閉じるには、十一ノ火へたどり着かなければなりません」
紫乃「幻真層への道は?」
翡翠「四ノ火が知っています」
春馬「四ノ火?」
翡翠「四宮千景」
白い霧の中に、一瞬だけ人影が映る。
眼鏡をかけた若い男。
黒い手袋。
その手には「四」の印。
無数の紙片と数式が、周囲を回っていた。
翡翠「彼を捜してください」
りか「どこにいるんですか?」
翡翠が答えようとした瞬間。
首に巻かれた鎖が強く締まる。
翡翠「うっ……!」
春馬「大丈夫か!」
翡翠「十一ノ火に……気づかれました」
霧の向こうから、低い男の声が響く。
男「九条翡翠」
翡翠の顔が恐怖に染まる。
男「また余計なことをしたな」
黒い手が霧の中から伸び、翡翠の髪をつかんだ。
春馬「待て!」
春馬が手を伸ばす。
しかし指先は、翡翠の体をすり抜ける。
翡翠「一ノ火……」
春馬「何だ!」
翡翠「塚原一を、信じてはいけません」
春馬の動きが止まる。
塚原「何じゃと?」
翡翠「千人を殺したのは、彼ではありません」
春馬「だったら、誰が――」
黒い手が翡翠を霧の奥へ引きずり込む。
翡翠「ですが――」
紫色の鎖が激しく鳴る。
翡翠は最後の力で叫んだ。
翡翠「千人を殺した者を、この世へ解き放ったのは塚原一です!」
霧が消える。
県道には、朝の光だけが残った。
春馬は塚原を見る。
塚原の顔から、血の気が失われていた。
春馬「どういう意味だよ」
塚原は答えない。
春馬「塚原」
塚原「……思い出せぬ」
春馬「本当に?」
塚原「わからぬ」
塚原の手が震えている。
春馬は、幻の中で見た光景を思い出す。
無数の遺体。
燃える村。
一人だけ生き残った塚原。
そして、四百年間消えなかった罪悪感。
塚原「ワシは……何を解き放った」
その時。
どこからか、電子音が鳴った。
ピピッ。
ひろしのスマートフォンに電波が戻る。
画面には、差出人不明のメールが表示されていた。
件名は一文字。
「四」
本文には住所と、短い文章だけが書かれている。
――九条翡翠の言葉を信じるな。
春馬「四宮千景……?」
メールの受信時刻。
一月一日、午前六時四分。
06:04。
ひろしが顔を上げる。
ひろし「これ、罠じゃないよな?」
塚原「確認できぬ」
春馬「行くしかない」
りか「春馬、今起きたばかりだよ」
春馬「でも、あと十日しかない」
りか「だからって、また一人で決めないで」
春馬「一人じゃないだろ」
りか「え?」
春馬は、りかの左手を指さす。
春馬「二人いるじゃん」
りかの意識の奥で、紫乃が小さく笑う。
紫乃「少しは学んだようじゃな」
春馬「俺も塚原と二人。ひろしを入れれば五人」
ひろし「俺だけ一人で数えるの、やめてくれる?」
朝日が、四人の立つ県道を照らし始める。
春馬は塚原へ目を向けた。
疑いが消えたわけではない。
翡翠の言葉も、塚原の過去も、何一つわかっていない。
それでも春馬は、右手を差し出した。
春馬「帰ってから、全部話してもらうからな」
塚原「思い出せることならばな」
春馬「一人で抱えるなって言っただろ」
塚原は差し出された手を見つめる。
触れることはできない。
それでも、自分の手を重ねた。
塚原「承知した」
春馬の右手にある「一」の印。
りかの左手にある「二」の印。
二つの紫色の光が、朝日の中で静かに輝く。
その頃。
県道から数十キロ離れた古い洋館。
無数のモニターに、春馬たちの姿が映し出されていた。
眼鏡をかけた青年が、椅子へ深く腰かけている。
青年の右手には「四」の印。
机の上には、十二枚の人物写真。
一、二、三。
そして、まだ顔の見えない九人。
青年は春馬の写真へ、赤い印をつけた。
四宮「一ノ火と二ノ火の同調を確認」
背後の暗闇へ向かって告げる。
四宮「予測より、六日早い」
暗闇の中で、誰かが笑った。
四宮「笑い事ではありません」
謎の男「そうか?」
四宮「十二番目が目を覚ませば、全ての計算が崩れます」
暗闇から、白い髪の青年が姿を現す。
右手には、数字の印がない。
代わりに手のひらの中央へ、丸い「零」が刻まれていた。
青年「計算できないから、面白いんだろ」
四宮「あなたは何者です?計画の内容が面白いのとその強さに興味があって一緒に居ますけど、そろそろ教えてくださいよ。もしや貴方…」
青年は答えず、春馬とりかの映る画面を見つめた。
天元「もうすぐ会える」
その目が、紫色ではなく金色に輝く。
天元「一ノ火・赤井春馬」
四宮「彼の名は、塚原一です」
天元「違う」
天元零士は、静かに笑った。
天元「最初から選ばれていたのは、塚原じゃない」
画面の中で、春馬の「一」の印が一瞬だけ消える。
その下から、見たことのない円形の紋章が浮かび上がった。
天元「赤井春馬だ」
――第八話・完――
第八話をお読みいただきありがとうございます。りかと紫乃は主従ではなく、対等な二人として歩き始めました。一方、塚原が背負う罪には、まだ隠された真実があります。四ノ火・四宮千景、そして謎の男、天元零士。十一ノ火の門が開くまで、残された時間は十日です。




