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【書籍化決定】コミュ障の天才魔法使いは、王都の片隅でのんびりお店経営はじめます~魔法学園主席の少女は実力を隠して静かに暮らしたい~(旧タイトル:厭世の魔法人形屋)  作者: 八星 こはく
第四章 フィーネ・フェルナーへの依頼

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第79話 与えられた立場

 一瞬、驚いたようにアレクサンダーが目を見開く。

 しかし、すぐに落ち着きを取り戻した。


「理由は?」

「ま、魔法軍に入れば、自由に行動することは……『魔法人形屋』を続けることはできないと思います。私は、『魔法人形屋』を続けたいんです」


 最初は、全くと言っていいほど乗り気ではなかった。

 ユーリアの提案に従って、仕方なく店を開いただけ。


(でも、今は……今は、違う)


 魔法人形屋を始めて、いろんな人達と出会った。


(みんな、私に感謝してくれたけど……私も、たくさん、いろんなものをもらったんだと思う)


 変わろうと思えたのも、魔法人形屋での経験があったからだ。

 きっとまだ、大切な人を喪って悲しんでいる人も、別れをやり直したい人もたくさんいる。


(私は……そういう人達に、少しでも良い『別れ』を提供したい)


 たった一日だけ。

 けれど、その一日が誰かを救うことがある。

 人々を救う為に戦うことを諦めたわけじゃない。モンドでの経験のおかげで、もう一度戦う覚悟ができた。


 だが、人々を守る為に戦うことと、魔法人形屋を諦めることは別だ。

 どちらも大事だから、どちらも手放さない。その為の選択をする。


「だから、私……魔法軍には、入れません」


 怒鳴られてもおかしくない。覚悟してアレクサンダーの瞳をじっと見つめる。


「……なるほどな」


 しかし彼は、表情を変えずに頷いただけだった。


「リドワーン」


 振り向いて、褐色の男の名を呼ぶ。すると、リドワーンが懐から細長い小さな箱を取り出した。

 その箱を持って、アレクサンダーが立ち上がる。


「フェルナー」


 差し出された箱を受け取る。

 一体なんだろうと思っていると、開けてみろ、とアレクサンダーに指示された。

 丁寧に、壊さないように箱を開ける。

 中に入っていたのは金の懐中時計だった。しかも、蓋の部分に王家の紋章が刻印されている。


「これがあれば、国内の関所はどこでも通れるし、あらゆる施設を利用することもできる」

「……は、はい」


 渡された物が凄い物だということは分かる。だが、どうしてこの時計を渡されたのかが理解できない。


「無理に魔法軍に入れとは言わん。だが、魔法軍に入らないなら、お前には俺の直属の部下になってもらう」

「へっ、陛下直属の……⁉」

「正確な役職名は……なんだったか。リドワーン」

「はっ」


 リドワーンは頷くと、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。


「近衛隊付き監察官です」

「こっ、近衛隊? 監察官……?」


 想像すらしていなかった単語に狼狽えていると、アレクサンダーが口の端を上げて笑った。しかし、瞳は笑っていない。


「俺が自由に動かせる駒になれ、ということだ。普段は『魔法人形屋』を営んでいて構わないが、有事の際は俺の命令に従って動いてもらう。監察官として、魔法軍を始めとする組織の監査がお前の仕事だ。調査先が無能な場合、状況によってはお前自身が問題を解決する必要があるだろうが」


 流暢な説明から察するに、元々フィーネが魔法軍入隊を断る可能性を考えていたのだろう。

 というか、こちらの案が本命だった可能性もある。


(要するに、魔法軍には所属しなくていいけど、陛下の命令で色々動かなきゃいけないってことだよね……?)


 近衛隊というのは、国王直属の護衛部隊である。

 少数精鋭で、信頼がおける人間のみを国王が選んで結成した部隊だ。

 その最たる特徴は、ほぼ全員が平民で構成されていること。つまり、他の貴族と利害関係にないということである。


「言っておくが、お前に拒否権はない」


(ですよね……)


 相手は国王陛下である。魔法軍への入隊を強制されなかった時点で、なにか裏があると考えるべきだったのだ。


(まあでも、魔法人形屋は続けられるし、陛下の組織改革には賛成ではあるし……)


 今のフィーネにとって最適の提案かもしれない。


「というわけで、よろしく頼むぞ、フェルナー」


 アレクサンダーが目配せをすると、リドワーンが手に持っていた羊皮紙をフィーネに差し出した。そこには『任命書』と書いてある。


「今から私が君にとっての直属の上司だ。覚えておくように」


 リドワーンは、歌えば誰もが聞き入ってしまうような澄んだ声をしている。

 だが、整った顔立ちをしているだけに、無表情を保たれると怖い。


「リドワーンは近衛隊の隊長だ。お前への指示は、基本的にリドワーンを通じて出す。リドワーンの言葉は俺の言葉だと思え」

「はっ、はい」


 もらったばかりの任命書と、先程もらった懐中時計を丁寧に胸元へしまう。


「もう用はない。下がっていいぞ。せっかくだから、パーティーを楽しんで帰るといい」

「はい……」


 フィーネとブルクハルトが立ち去るより先に、アレクサンダー達が部屋を出ていった。足音が完全に消えてから、ブルクハルトがゆっくりと息を吐く。


「……フィーネ」

「はい……」

「大変だろうが、陛下は信頼のできる御方だ。しっかりと任務に励んでいれば、不当な扱いを受けるようなことはないだろう。だが、あの側近には気をつけろ」

「リドワーン様に、ですか?」

「ああ。遠い異国の魔術を使うそうだ。詳しくは俺も知らないが……陛下よりもよほど容赦がない。陛下の敵と判断した奴は容赦なく殺す」

「ひっ……」


 一対一の戦いであれば怯えたりはしない。

 だが、政治的な争いとなると、フィーネは完全な門外漢である。


(それに、異国の魔術って……どんな術なんだろう)


 考えることは山のようにある気がするが、実際のところ、フィーネが考えたところでどうにかなるものはない。

 既にフィーネは近衛隊付き監察官に任命されてしまったのだ。


「フィーネ。なにかあれば、遠慮なく頼ってくれ」

「はい……! あ、えっと、その、私のことも、た、頼ってくださいね……!」

「……ああ」


 微笑み合って、二人は部屋を出た。

 これからのことは分からないが、ひとまず今日はパーティーに参加せねばならない。



◆



 パーティーにおいて、新米監査官フィーネ・フェルナーは常軌を逸するほどの食事量でちょっとした話題になったのだが、本人がそれを知ったのは一ヶ月後のことであった。


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