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【書籍化決定】コミュ障の天才魔法使いは、王都の片隅でのんびりお店経営はじめます~魔法学園主席の少女は実力を隠して静かに暮らしたい~(旧タイトル:厭世の魔法人形屋)  作者: 八星 こはく
第四章 フィーネ・フェルナーへの依頼

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第76話 夢の続き

 馬車に揺られながら感じるのはまず充足感だった。

 身体は疲れているが気分は爽快で、こんな気持ちになったのは随分と久しぶりである。


「フィーネ、楽しそうね」

「……そう、かも」

「そうだって認めていいのよ」


 微笑んで、ユーリアが街でもらったパンを渡してくれた。

 きちんと代金を支払おうとしたのだが、『街を救ってくれたフィーネ様から代金はいただけません!』と拒まれてしまったのである。

 エドガーが話を広めまくったせいで、フィーネはすっかりモンドの有名人になってしまったのだ。


「賑やかな人達だったわよね」

「……うん。ちょっと変わってたから、最初は不安だったけど」


 一緒にいるうちに、別れるのが少し寂しい、とまで感じるまでになった。


「きっとまた会えるわよ。近いんだし、リヨン王国へ旅行してもいいわよね」


 別れ際、リヨン王国へくることがあれば案内すると言ってくれた。

 単なる社交辞令と流さず、甘えてみてもいいのかもしれない。


「……うん。ブルクハルトさんとも、ちゃんと話せてよかった」


 振り返ってみれば、今回の任務は良い事ばかりだった。

 もちろん、大変なこともあったけれど。


「ブルクハルトさん、家にもきてくれるって言ってたし」

「ええ。その時はちゃんとおもてなしをしないとね」


 ユーリアとの旅行。ブルクハルトの来訪。

 頭に浮かぶのは楽しみな未来のことばかりだ。

 こんなの、いつぶりだろう。


 少し顔を上げて、馬車の窓から外を眺める。

 なんてことはない風景なのに、やたらと綺麗に見えた。



◆



「ね、ねえ、フィーネ、本当にいいの?」

「うん。大丈夫だから、思いっきりお願い」

「……それなら、いいんだけど」


 珍しく緊張したユーリアがハサミに手を伸ばす。

 本当にいいのね? ともう一度確認してから、彼女はそっとフィーネの前髪に触れた。


 シャキッ、シャキッ……。

 音がするたびに、白銀の髪が床に落ちていく。

 ユーリアがハサミを下ろした時には、ずいぶんと視界が良好になっていた。


「……うん、いい感じ」


 鏡に映る自分は、金銀妖瞳《ヘテロクロミア》がはっきりと見える。

 今までは必死に隠そうとしてきたけれど、もうそれはやめる。


(こんなことで人が変われるわけじゃないのは、分かってるけど)


 決意表明のようなものだ。


「じゃあ、行こうか」

「……ええ」


 二人が向かった先は、ユーリアの墓だ。

 フィーネが一人でくることはあっても、ユーリアをここへ連れてきたことは一度もない。


(でも、これも、前に進む為には必要だから)


 ブルクハルトからの依頼を通じて、フィーネは自分の中にある気持ちを素直に認めることができた。


(変わるんだ。誇れる自分になれるように)


 墓石の前で手を合わせた後、ユーリアと向き合う。

 今日はここで、彼女の死因について話すと決めている。


「ユーリアは、私を庇って死んだんだ」


 感情的にならないように、淡々と当時の状況を説明する。

 人手不足の戦場で共に駆け回っていたこと、暴走し動けなくなったフィーネを優先してユーリアが死んでしまったこと。

 事実を口にするたびに声が震えてしまうのは、情けない自分を思い出すからだ。


「話してくれてありがとう、フィーネ」

「……ううん」

「でも大体、予想通りだったわ」


 あはは、とユーリアは墓場に似合わない明るい声で笑うと、ぎゅっとフィーネの手を握った。


「だって絶対、私ならそうするもの」


 フィーネ、と柔らかい声で名前を呼んだユーリアが、そっとフィーネの頬を両手で包んだ。

 名前を呼び返すよりも先に、彼女の唇が額に触れる。


「……ユーリア?」


 顔を見上げる。目が合うと、なぜか彼女の両目が涙でいっぱいになっていた。


「別れのキスよ」

「え?」

「……前に進む為に、決めたんでしょ?」


 一瞬、彼女がなにを言っているのか分からなくてフリーズする。

 そして、とんでもない勘違いをさせてしまったことに気がついた。


「違うから‼ 私、ユーリアを処分する気なんて全然ないからね⁉」

「……え? で、でも、戦うためには、やっぱり私は邪魔でしょ。私がいると、フィーネは全力を出せないし……」


 ユーリアの言っていることは正しい。

 魔法人形である彼女を常時維持するだけで、フィーネは膨大な魔力を消費することになるのだから。


(だけど、だからユーリアを諦める……なんて、あり得ない)


 死んだ人間を蘇らせ、魔法人形としていつまでも傍においておくことは、正しい振る舞いとは言えないだろう。

 だがフィーネは、正しい人間になりたいわけじゃない。

 強くなって、大事なものを全て守れる人間になりたいのだ。

 当然、大事なものにはユーリアだって含まれている。


「うん。だから、もっと強くなるって決めたんだ。ユーリアを維持してても、ちゃんと戦えるくらい強くなる」

「……フィーネ」

「この前も言ったでしょ? 私が死ぬまで、ずっとユーリアを守るから」


 ユーリアの瞳から涙がこぼれ落ちた。

 手のひらでそっと涙を拭い、彼女の手をぎゅっと握る。


「帰ろう、ユーリア。私達の家に」

「……うん」


 もう二度と、この手を離したりしない。大切なものは、全部自分で守ってみせる。

 なくしたものはたくさんある。

 それでもまだ、やり直せることはあるはずだ。


「ユーリア」


 立ち止まると、視界の端に幼い子供の姿が目に入った。

 誰かの墓の前に蹲り、泣きながら必死に手を合わせている。


(これ以上、私みたいな子は増やしたくない)


 現実に絶望して、夢を見ることをやめてしまった。

 でも、まだきっと間に合う。


「夢の続きを、ユーリアと見たいんだ」


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