第70話 危機的状況
「予想以上に大量にきてる……なんで……?」
洞窟を出ると、周辺には大量の魔物が集まっていた。
ブラックドラゴンが魔物を呼ぶことができるとはいえ、想定をかなり上回る数である。
「とりあえず、低級の魔物を一斉に……」
街へ向かって走りながら、軽い光属性魔法の雨で雑魚を一掃する。
だが、それでは倒れない魔物もかなりの数がいた。
一体一体相手をするよりもまず、街へ向かうべきだろう。中級の魔物が一体でも街へ入ってしまったら大変なことになる。
「フィ、フィーネ、あれ、うっ、上見て……っ‼」
「上⁉」
走りながら、ユーリアの言葉に従って空を見上げる。
その瞬間、フィーネは驚きのあまり足を止めてしまった。
「ブラックドラゴン……⁉」
空をブラックドラゴンが飛んでいる。洞窟にいた個体ではない。
別個体のブラックドラゴンが、街めがけて飛んでいた。
(まさか、ブラックドラゴンを呼ぶなんて……だから、他の魔物もいっぱいきてたんだ……)
ブラックドラゴンは通常、人を襲うことは少なく、街や村へ自ら赴くことはないはずだ。
なのになぜ、ブラックドラゴンが街へ向かっているのか。
(分からない。分からないけど、とにかく急がなきゃ……‼)
◆
風魔法を用いた全速力のフィーネが街に到着したのと、ブラックドラゴンが街へ到着したのはほぼ同時だった。
ブラックドラゴンが闇の炎を吐いて、街を囲む壁の一部を破壊する。
壁が崩壊した瞬間、人々の悲鳴が空に響いた。
「ぎゃ、ぎゃああああああああああああっ‼」
「魔物、魔物がっ‼」
「ドラゴン……⁉」
一瞬にして街が混乱状態に陥る。
ブラックドラゴンは爪を伸ばし、近くにいた女性を掴もうとした。
慌てて間に入り、杖で爪を受け止める。
「ユーリアっ! 街の人達を一か所に誘導して! 巨大な結界を張るから‼」
「わ、分かったって、言いたいところなんだけど……っ‼」
爪を薙ぎ払い、一瞬だけ視線を街の中へ移す。
人々は奇声を放ちながら逃げ惑い、とても避難誘導の声が届く雰囲気ではない。
加えて、ブラックドラゴン以外の魔物も街へ向かいつつある。
ブラックドラゴンと他の魔物を同時に相手にしつつ、さらに街の人々を守るのは不可能だ。
(……だったら)
残された解決策は一つだ。
街の人全員を操って、一ヶ所に誘導する。そして結界を張るのだ。
「ユーリア。今から一か所にみんなを集めるから、その周りにこれを置いてきて」
念の為に用意しておいた結界用の魔法具をユーリアに渡す。
これがあれば、離れた箇所に結界を張ることができるのだ。
「みんなを集めるって……もしかして⁉」
「うん。これしかない」
「で、でも、さすがに数が多過ぎるわよ‼」
「分かってる。でも、やるしかないから。……ユーリア、お願い。時間がないんだ」
「……分かったわ」
ユーリアが走り出した瞬間、最大火力の炎をブラックドラゴンにぶつける。
鱗のせいでダメージを与えられないことは分かっているが、数秒間は時間を稼げる。それで十分だ。
(こんなに大量の人を操るのは初めてだけど……でも、単純な操作でいいから、いけるはず……‼)
魔法陣を描く。魔法を発動した瞬間、膨大な魔力が身体の外から出ていくのが分かった。
モンドに暮らす住民全員を操作する必要があるのだ。
正確な人数は把握していないが、五万人はいるだろう。
繊細な操作の必要はなく、ただ一か所に集めるだけ。
だがその後、彼らを守る為の結界魔法も張らなければならない。
不安はある。しかし、やるしかない。
フィーネが失敗すれば、大量の人々が命を落とすことになってしまうのだ。
ブラックドラゴンが動き出す度に炎をぶつける。
人々の避難が終わるまでの間、どうにか時間を稼がなくてはならない。
数十発の炎を放った後、ようやく人々の避難が完成した。次は結界だ。
無傷のブラックドラゴンが高らかに叫ぶのが憎らしい。
結界魔法を完成させた途端、フィーネは思わず地面に手をついてしまった。
その瞬間、ブラックドラゴンの爪がフィーネの眼前に迫る。
(まずい……っ!)




