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【書籍化決定】コミュ障の天才魔法使いは、王都の片隅でのんびりお店経営はじめます~魔法学園主席の少女は実力を隠して静かに暮らしたい~(旧タイトル:厭世の魔法人形屋)  作者: 八星 こはく
第四章 フィーネ・フェルナーへの依頼

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第68話 エドガーの流儀

「ぎゃっ、ぎゃあっ! き、気持ち悪……っ!」


 再びユーリアが悲鳴を上げる。

 森の奥に潜んでいたギフトシュイターは、確かに気持ちが悪い見た目をしていた。


(足のところとか、こう、なんとも言えない気持ち悪さがあるかも……)


 ギィギィ、と地鳴りのような声を上げつつ、二本の角で木の幹を挟む。

 角の内側には無数の鋭い歯が生えていて、簡単に幹を切断した。

 倒れた木が襲いかかってくる。フィーネとユーリアは右に軽く飛んで避けただが、なぜかエドガーは空中で一回転していた。


(む、無駄過ぎない……っ⁉)


 地面に着地したエドガーが髪をかきあげる。

 かなり絵になっているが、必要な動作でないことは確かだった。


「あいつの体液は毒がある。下手に傷をつけると厄介だ」

「で、ですよね……」

「お前ならどうする?」

「ば、爆発で消し炭にするとか……」


 切ったり潰したりすれば、体液を浴びてしまう可能性がある。

 だとすれば、跡形もなく消してしまうのが手っ取り早い。


「美しくないな」

「えっ⁉」


 今、フィーネは魔物の倒し方を聞かれたはずだ。

 その答えに対し、美しくない、とはどういうことなのだろう。


「俺様を見ているがいい」


 エドガーは胸元から杖を取り出した。

 金で作られた杖で、先端には巨大なダイヤモンドが埋め込まれている。


 彼が空中に魔法陣を描く。

 魔法陣の中から、色とりどりの薔薇の花びらが舞い落ちてきた。

 ギフトシュイターの全身が花びらに覆われ、ギィイイイイイ‼ とまたしても強烈な叫び声が森に響く。


 花びらに包まれたギフトシュイターが空に浮かび上がり、一瞬、眩しく光る。

 そしてギフトシュイターが消え、鮮やかな花びらだけが地上に舞い落ちてきた。


「いっ、今のって光属性魔法ですよね⁉ あの大きさの魔物を一瞬で消すなんて凄い魔力……」


 多数の魔物を一気に片付ける時光属性魔法はかなり便利だが、魔物一体を相手に使う場合はあまり効率的ではない。

 光属性魔法は、他属性の魔法に比べて魔力量が多い傾向にあるのだ。


(もちろん個人差はあるけど……エドガーさんって、光属性魔法が得意なのかな? でも、花びらを作ってたのは創造魔法だよね? ていうか、花びらって必要だった……?)


 聞いてみたいことは色々あるのだが、すぐには言葉が出てこない。

 しかし、フィーネの内心を見透かしたかのようにエドガーが笑った。


「戦闘は華麗に。これが俺様の流儀だ」

「せっ、戦闘を華麗に、ですか……?」

「ああ。効率化の観点から言えば、さっきの花びらは完全に無駄だ。特に意味はない。光属性魔法でやるより、お前が言ったように爆発させた方が魔力量の消費も少ない。そもそも、俺が得意なのは火属性の魔法だしな」

「……ええ……?」

「だが、美しかっただろう?」

「……それは、確かに」


 エドガーの作り出した花びらは、本物の花びらよりも綺麗だった。

 それが舞う様は幻想的で、とてもギフトシュイターという気持ち悪い魔物相手の戦闘には見えなかった。


(服を選ぶ時、無駄が多い物ほど可愛いってユーリアがよく言うけど、そういうことなのかな?)


 幼い時から魔法を学んできたが、戦闘時に美しさを重視する、という魔法使いに出会ったのは初めてだ。

 当然、フィーネにもない考えである。


「ど、どうして、戦闘を華麗にしようと思ったんです……?」


 つい、気になって聞いてしまう。


「簡単な話だ。気分がいいだろう?」

「気分が……」

「フィーネ。お前は何の為に戦うんだ?」


 エドガーの問いに、とっさに答えることができなかった。


「このエドガー・ジャンメールは、美しく生きて美しく死ぬために戦っている」

「美しく生きて、美しく死ぬ……」


 フィーネの目を真っ直ぐに見つめ、エドガーが笑った。


「戦いの世界で生きる気があるのなら、お前もお前なりの美学を見つけることだな」


 行くぞ、とフィーネに背を向けてエドガーが歩き出す。真っ直ぐに伸びた背筋から、彼の覚悟が伝わってくるような気がした。


(エドガーさんの美学自体は、正直共感できないけど……)


 彼は戦う理由を自分の中に持っている。

 誰も見ていなくても、協力してくれる人がいなくても、辛い戦いの中でも、きっと彼は美しく戦うのだろう。彼自身の美学のために。


(……強い人なんだな、本当に)



◆



 夕方になる頃には、北の洞窟を残して周辺の魔物を一掃することに成功した。


「本番は明日だ。よろしく頼む」


 ブルクハルトが話し終わるとすぐ、乾杯! というユーリアの陽気な声がレストランに響いた。

 みんなで一緒に夕飯を食べることを提案したのも彼女である。


(お、大人数で食事とか、私苦手なのに……‼)


 向かい側に座るノエルも同じ気持ちなのか、深くフードをかぶって、ひたすらエドガーにくっついている。


「おい、ノエル。お前、フィーネに聞きたいことがあったんだろう?」

「うっ、ん……だ、だからお願い、エドガー……」

「俺はお前の伝書鳩じゃないんだぞ」

「おっ、お、幼馴染のお願いを聞くエドガー、美しいと思う……」

「……仕方ないな」


 今のやりとりで納得したことには驚くが、どうやらエドガーは納得したらしい。

 というか、いつものことなのだろう。


「魔法人形の開発において、最も難航しているのが『記憶』を司る部分だ。お前の魔法人形は生前の記憶がある上に、魔法人形としても記憶することができるんだろう。どういう仕組みなんだ?」

「あっ、えっと、それは、その……私自身、上手く体系化できているわけじゃなくて……あと、そもそも私は操作魔法が得意で、それで……」


 何年もかけて開発した魔法だが、体系化できたわけじゃない。

 偶然による産物も大きく、他人に教えろと言われても無理だ。


 それでも、できる限りのことを伝える。興味本位ではなく、ノエルが本当に興味を持ってくれているのだと思ったから。

 魔法について話しているうちに緊張も解れてきた。


(魔法学園時代も、こうやって色々話したりしたな……)


 やる気のある生徒ばかりではなかったけれど、中には熱心な生徒もいた。

 訓練後に反省会を開いたり、お互いの弱点や長所を伝えたりする会は、緊張したけれど楽しくもあったのだ。


(……魔法の話、楽しいな)


 ブルクハルトに教わって、魔法学園でユーリアと共に学んで。

 きっとフィーネは、純粋に魔法を楽しんでいた。

 そのことを今日、なんだか思い出せたような気がする。

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