第67話 魔力の無駄遣い
「鏡で見た情報によると、この森には土属性の魔物が多く棲息してるんだよね」
「らしいけど、私、土属性の魔物って好きじゃないのよね。気持ち悪いのが多いし……」
「そうかな。私はあんまり気にならないけど」
ユーリアと話しながら森へ入る。
魔物をおびき寄せるために風魔法で何本かの木を揺らした。魔物は魔力につられて出てくることが多いのだ。
案の定、がさごそっ……と葉の間から大量のドルンワームが出てきた。
通常のワームより少し大きく、全身に棘を持つ魔物である。
「ぎゃあああああああっ‼ ふぃ、フィーネ、いやっ、は、早くどうにかしてっ‼」
「ゆ、ユーリア落ち着いてよ、ドルンワームはほとんど害がない低級の魔物だし……」
「そういう問題じゃないってば! とっ、とにかく早くっ‼ いやああああああっ!」
ユーリアがひたすら叫ぶ。フィーネにはよく分からないが、ユーリアはドルンワームの見た目が気持ち悪くて苦手なのだ。
(昔からユーリア、昆虫系の魔物はすごく嫌ってたよね)
ドルンワームは特に知能もなく、昆虫とほとんど変わらない。
だが、放っておけばドルンワームを餌とする上級の魔物が集まってくるかもしれない。
「分かった、とにかくさっさと片付けるね」
低級の魔物を一気に片付けるなら、光属性魔法の雨を降らせるのが最も早い。
コンラートとの戦いでも使った魔法だ。
素早く魔法陣を描き、魔法を発動する。
光り輝く雨粒が触れると、ドルンワームは呻きながら消滅していった。
「ユーリア、消えたよ」
「消える姿も気持ち悪い……」
「そ、それはさすがに可哀想なんじゃないかな……」
ドルンワームは駆除したが、確かこの森には一匹、巨大なギフトシュイターがいる。
ギフトシュイターは巨大なクワガタのような見た目をしており、体液が毒を持つ少々厄介な魔物だ。
「……なんで私達がここの担当になったのよ……」
「そ、それはまあ、じゃんけんで決まったことだし……」
ユーリアを宥めつつ奥へ奥へと進む。すると、頭上からいきなり薔薇が降ってきた。
「なっ、なに……⁉」
甘い香りと共に地上に降りたってきたのはエドガーである。
彼の周りには、比喩的表現ではなく物理的に薔薇が舞い続けていた。
(え、これ魔法? 魔法でわざわざ浮かせてるの?)
確か彼は、東にある川へ向かったはずだ。
魔物が少ない場所だったとはいえ、もう駆除を終えたのだろうか。
「悲鳴が聞こえたから急いできたが、何かあったのか?」
喋り出しても、まだ彼の周りを薔薇が舞っている。
「えっ、えーっと、ユーリアがドルンワームが気持ち悪いって騒いだだけで……あっ、でも、ドルンワームは全部もう倒しました。光属性の魔法で一斉に駆除したので……」
「一斉に? 森全域をか?」
「あ、はい。その、ドルンワームは弱いので、広範囲攻撃で全滅させられますし……」
「ノエルも言っていたが、お前、かなり魔力量があるな」
「いっ、いえその、あ、あはは……」
褒められた時の適切な反応が分からず、ぎこちない笑みを浮かべると、呆れたようにユーリアが溜息を吐いた。
そして、フィーネが聞きたかったことを代わりに聞いてくれる。
「どうして、エドガーさんの周りに薔薇が舞っているんですか?」
「ああ、これか」
エドガーが腕を動かすと、赤い薔薇も腕に沿った舞い方をする。
彼はわざとらしく髪をかきあげ、麗しい微笑みを浮かべて胸を張った。
「美しいだろう?」
「えっ、あっ、そ、そうですね……?」
珍しいことにユーリアが混乱している。
だが、フィーネとしては気になって仕方ない。普段なら流すところだが、つい自分でも質問をしてしまう。
「あ、えっと……その薔薇に結界効果があるとか、あるいは隠密効果があるとか……?」
「ないぞ。通常の薔薇より匂いは濃いから逆に目立つだろうな」
「……あ、あの、じゃあ……何の為の魔法、なんですか?」
「美しく戦う為だ」
「な、なるほど……」
(どうしよう。答えてくれたけど全然分かんない……‼)
じっと観察すると、どうやら薔薇は本物の薔薇ではなく、創造魔法で生み出した薔薇のようだ。
しかもその薔薇を風魔法で常に浮かせている。
(どう考えても魔力の無駄遣いだよね……?)
彼なりのこだわりがあるのだろうが、フィーネには理解し難い。
「よし、行くぞ。ギフトシュイターの討伐を手伝ってやる」
「あ、ありがとうございます……」
彼の後ろを歩く。時折、空中を舞う薔薇がフィーネの顔にあたって、かなり邪魔だった。




