第66話 任務開始!
「今から、その水晶玉に魔力を込めてくれ。全魔力を込める必要はない。戦闘に必要な分は残しておけ」
エドガーの指示に従い、水晶玉に魔力を込める。
(少ないと迷惑がかかるだろうし、でも、ここで魔力を使い過ぎても戦いになった時に困るよね……)
周りを見ると、フィーネのように悩んでいる人はいなかった。
フィーネと違い、自分の限界や魔力量をしっかりと把握しているのだろう。
(……私も気をつけないと。あとちょっと、あとちょっとだけ……)
気をつけながら、少しずつ水晶玉に魔力を込めていく。
「あっ、お、終わり、そのっ、終わりで、もう十分……っ!」
焦ったようなノエルの声に慌てて顔を上げる。
集中し過ぎて周りが見えなくなっていたが、いつの間にか他の三人は魔力を込め終わっていたらしい。
「それ以上魔力を込め続けると、水晶が壊れるから……」
「えっ⁉ す、すいません、大切な魔法具を……」
「……いや、それはいいんだけど、その……魔力、ちゃんと残ってる?」
「え? あ、はい、それは……全然……」
この後の戦闘で足を引っ張らないように意識的に控えめにしていたから、まだ余裕はある。
「……魔法人形を使いつつそれって、君の魔力量はどうなってるの?」
「どうって、その、別に……」
どんな反応をすればいいか分からなくなって、助けを求めるようにユーリアを見てしまう。
「この子、昔から魔力量は凄いんです。ですよねっ、教官!」
「ああ」
「凄いな。色んな人を見てきたけど、君ほど魔力量がある人は初めてかもしれない」
「……あっ、ありがとう、ございます」
ノエルは全員から水晶玉を回収すると、水晶玉を魔法鏡の上に置いた。
すると鏡がぐにゃりと歪み、水晶玉が鏡の中へ吸い込まれていく。
しばらくすると、鏡がモンド周辺の景色を映した。
まるで、遥か上空からこの地域を映しているようだ。
「……もしかして、この赤い点が、魔物ってことですか?」
フィーネの問いに答えたのはエドガーだった。
ノエルは再び、彼の後ろに隠れてしまっている。
「ああ。点の大きさは魔物の強さに比例している。たとえば……」
エドガーが鏡の左下にあった赤い点に人差し指で触れた。
すると、鏡が森の中を映す。鏡の中央には、鋭い牙を持つサンダーウルフが映っていた。
「こうやって、魔物を映像で確認することができる」
「凄い……」
これなら、どこに何の魔物がいるかを確認するのは容易だ。
(魔法具って、こんなに凄いんだ……‼)
と瞳を輝かせたフィーネと異なり、エドガーは渋い表情を浮かべている。
「……思っていたよりも魔物の数が多いな」
「あ……た、確かに、そうですね……」
再び鏡で全体を表示する。確かに、赤い点があちこちに散らばっていた。
中でも、北の洞窟あたりには大きな点が密集している。
エドガーが最も大きな点を指で押すと、鏡に表示されたのはブラックドラゴンだった。
(嘘……ブラックドラゴンがいるの……⁉)
ドラゴンは魔物の中でも最上位に君臨する強い魔物だ。
その中でも、ブラックドラゴンは厄介な存在である。
ブラックドラゴン自身が強い戦闘力を有するのはもちろんだが、ブラックドラゴンは他の魔物を呼び寄せることができるのだ。
周辺の魔物が多いのも、ブラックドラゴンが原因だろう。
「この洞窟、表面が黒魔石に覆われているな。ブラックドラゴンは好みそうなところだ」
鏡を睨むように見ながら、ブルクハルトが言った。
「そうなんですか?」
「ああ。放っておくと、他の個体も棲みつく可能性がある。群れになると厄介だ」
「ブラックドラゴンの群れ……」
想像するだけで恐ろしくなってくる。
群れを退治するとなれば、とても四人では無理だろう。そうなれば、この地域一帯が戦場になってしまうかもしれない。
(だから今、私達がこの一匹を倒さなきゃなんだ)
言葉を交わさずとも、全員が同じ考えに至ったことは明らかだった。
「今日は北の洞窟以外の魔物を討伐して、明日北の洞窟に挑むのはどうだ?」
提案したのはブルクハルトだ。年長者として、自分がまとめ役をやる必要があると思っているのだろう。
「私は賛成です。ブラックドラゴン討伐中に他の魔物がわらわらきたら邪魔でしょうし」
ちら、とリヨン王国の二人を見る。
作戦に反対されたら話し合いが大変だなと思ったけれど、二人とも頷いてくれた。
「雑魚相手なら、四人全員で動く必要はないな。持ち場を決めて別れるか」
エドガーの提案に従い、それぞれが担当する場所を決める。
フィーネの担当は南側にある森だ。また、各々作業が早く終われば近くの仲間を助けることになった。




