第65話 ノエルの魔法具
翌朝、独立都市モンドの魔物調査任務が始まった。
ローゼリア王国やリヨン王国に寄せられた情報としては、最近、各国とモンドを繋ぐ街道に魔物が現れることがあるそうだ。
商品を積んだ馬車が襲われ、被害を訴える商人が増えているらしい。
この状況が続けば、商業都市としての役割が失われてしまう。
そうなれば、両国にも甚大な影響が出る。
(冷静に考えれば考えるほど重大な任務だよね、これ……)
街を出た瞬間、ノエルがローブから大きな鏡と小さな水晶玉を八個程取り出した。
「すっごい‼ これ今、そのローブから取り出しましたよねっ⁉ ポケットそんなに大きくないですよねっ⁉」
興奮したユーリアが大声を出すと、逃げるようにノエルがエドガーの背中に隠れた。
だが、隠れたまま饒舌に喋り出す。
「こ、これは魔法鞄を応用して作ったローブなんだ。仕組みはほとんど魔法鞄と同じで、ローブの内側にあるポケットの一つから色んな物を取り出せる。理屈はそれほど難しくないし、常に魔力を使う必要もない。ただ作るのにはわりと時間がかかって高価にはなるんだけど、結構人気の商品でもあるんだ」
「凄いですね!」
怒涛の早口を気にした風もなく、ユーリアは無邪気に拍手した。
魔法具だと指摘された時は少し不安になったが、ユーリアが気にしている様子はない。
「ノエル。それより水晶の方を説明しろ。こいつらにも手伝ってもらいたいんだろう?」
「あっ、うん。あの、でも……」
「なんだ?」
「結構もう喋ったし、エドガーがやって……」
弱々しい声で言うと、ノエルは彼の後ろで体育座りをしてしまった。
魔法具の話ならいくらでもするのかと思ったが、そうでもないらしい。
(……いや、喋り疲れたっていうより、誰かに協力を頼むのが苦手なのかな)
昨晩夕飯を食べる際に聞いた話によると、二人は幼馴染でノエルは昔からこの調子らしい。
「仕方ないから代わりに俺が説明する。この鏡は、結界内にいる魔物を見ることができる魔法具だ。この鏡に対応する結界は水晶玉を用いて張る必要がある。水晶玉に魔力を込めると、魔力量に反応して限界まで遠くに水晶玉が飛んでいく仕組みだ」
「……魔力量に応じて、自動的に結界の広さを決めてくれるわけか」
ブルクハルトが頷く。魔法具に関しては、フィーネよりもずっと彼の方が詳しい。
「ああ。要するにこの魔法具の優れた点は、魔力量を感知して限界を教えてくれるところにある。人力だけで結界を張ろうとすると、魔力が不足した場合は精度が落ちるからな」
一般的な結界魔法は、まず結界を張る範囲を確定させて発動する。
エドガーの言う通り、魔力量が不足した場合は結界の精度が落ちるものだ。
もちろん優れた魔法使いであれば、精度を保って結界を張れる範囲等理解しているが、便利な魔法具であることに変わりはない。
(でも、この魔法具の凄いところはそれだけじゃない……)
水晶玉の一つを手に取りながら、フィーネは勇気を出して口を開いた。
「つ、つまりその、複数人の魔力を合計して、結界が張れるってわけですよね……?」
魔法といえば、自分で魔法陣を描き、自分の魔力を用いて発動させるもの。
お互いに魔法を使って協力し合うのはよくあるが、一つの魔法を複数人で発動させることはまずない。
「ああ。だから、余力を残しても広い結界が張れる。魔物の居場所が分かっても、魔力切れになっていたら意味がないからな」
言いながら、エドガーはユーリアを除く三人に水晶玉を二個ずつ配った。




