第64話 リヨン王国からきた二人
まず地上に降り立ったのは、紫色の髪をなびかせた灰色の瞳の男。
舞台役者かと勘違いしそうになるのは整った顔立ちだけが原因ではない。
舞台役者のように派手な格好をしているからである。
宝石が散りばめられたやたらと派手な衣服は、太陽の光を反射してかなり眩しい。
ただ、派手な衣装に負けない顔の持ち主ではある。
一方、彼の後ろに隠れるようにして馬車を下りてきたのは、身長二メートル近い大男だ。
しかし、極端な猫背である。加えて、顔が見えないほど深くフードを被っている。
(ぜっ、絶対、絶対に面倒臭い人達だ……っ‼)
隣を見るとブルクハルトもうんざりとした表情を浮かべていた。
「ゆ、ユーリアの勘違いじゃない、かな……?」
「現実を見なさい、フィーネ。あの馬車、ジャンメールの名前がでかでかと書かれているじゃないの」
「で、でも……」
なんていうやりとりをしている間に、二人が真っ直ぐフィーネ達の元に向かってきた。
「おい、お前達がローゼリア王国からきた調査員か?」
口を開いたのは当然、やたらと派手な男である。
近くで見ると右目の下にホクロがあった。
「……ああ、そうだ」
ブルクハルトが応じる。
ブルクハルトが敬語を使わなかったのは、対等な立場であることを意識してのことだろう。
「俺はブルクハルト・フォン・アッヘンバッハ。ローゼリア魔法軍の少将を務めている。こっちはフィーネ・フェルナー。魔法軍に所属しているわけではないが、我が国きっての実力者だ」
盛り過ぎです! といつもなら訂正するところだが、できなかった。
インパクトの強い二人に負けたフィーネは、ユーリアの背中に隠れることしかできなかったのである。
「私はユーリア・フォン・コルネリウスです。調査員ではなく、二人の世話係として同行しています」
ユーリアが口を開くと、フードの男がいきなり顔を上げた。
「……す、凄い。人間みたいな見た目だと思ったけど、この魔法具喋るんだ」
男の言葉に、フィーネ達の空気が固まる。
しかし彼はそのことに気づいた様子はなく、早口でまくしたてた。
「見た感じ、自律的に動いてるって感じだよね。無駄なのにわざわざ火属性魔法で体温を人間と同程度に保ってるみたいだけど、単なる家事手伝い用の魔法具じゃなくて本物の人間みたいな魔法具、っていうのが売りなの? でもこれ、常に動かすには魔法石だけじゃ足りないよね。使用者が近くで魔力を使い続ける必要があると思うんだけど、そうするとかなりの魔力量を恒常的に消費するし、一般化するにはあまりにも……うっ!」
男が口を閉ざしたのは、もう一人の男に口を塞がれたからである。
「悪いな。ノエルは魔法具のことになるといつもこうなんだ。おい、ノエル。まずは自己紹介だろうが」
「うっ、ひぃ……じ、自己紹介なんていい……他己紹介しといて……」
悲鳴を上げ、男は逃げるようにエドガーの背中に隠れた。
「こいつはノエル・ルイス。魔法具研究家だ。こんなんだが、魔法具を使った戦闘は上手い。探索能力も高いから、今回の任務には適任だろう」
紹介されたノエルは、あはは……とあまりにも気味の悪い笑みを浮かべた。
(この人、私以上にコミュニケーション能力に難があるんじゃ……いや、それより……)
驚くべきは、一目でユーリアを魔法具だと見抜いた観察力だ。
今まで、ユーリアの死を知る人間以外に彼女が人形だとバレたことはなかったのに。
「で、俺様がエドガー・ジャンメール。ジャンメール侯爵家跡継ぎにして、魔法騎士隊第二連隊の隊長だ」
エドガーは誇らしげに胸を張った。随分と対照的な二人である。
「安心していい。この俺様がやるからには、派手に魔物共を蹴散らしてやる」
自信満々に彼は宣言したが、今回の任務はなるべく穏便に、という指示があった気がする。
様子を窺うようにブルクハルトへ視線を向けると、疲れきった表情で溜息を吐いていた。




