第63話 独立都市・モンドへ
ブルクハルトから依頼を受けた一週間後、フィーネ達はモンド地方行の馬車に乗っていた。
二国の中央に位置するモンドは商業都市として栄えており、観光客も多い賑やかな場所だ。
(……気が重いな)
依頼を受けたことに後悔はない。
けれど、逃げたはずの場所に再び向かっているような気がして、どうしても身体が重くなってしまう。
「フィーネ、顔色が悪いわよ」
「……大丈夫。ちょっと寝れば治るよ」
ユーリアの肩に頭を預け、そっと目を閉じる。
眠ろうとすればするほど、思考が活発になって眠れない。
今回の仕事は各国二人ずつで調査団を結成するもので、ユーリアはその数に入っていない。
そもそも彼女は人間ではないため、フィーネの魔法具扱いとなるのだ。
(ブルクハルトさんは私のこと、どう思ってるのかな……)
彼は今まで、戦場で何人もの仲間を喪ったはずだ。その中には、大切な友人だっていただろう。
それでも彼は、今もまだ魔法軍で戦い続けている。
逃げ出した上に、親友の魔法人形を生み出したフィーネとは大違いだ。
(間違っているのは私。分かってるけど……)
正しく生きられないのは、フィーネが弱いからだ。
なのにどうして、神様は分不相応な力をフィーネに与えたのだろう。
◆
目的地に到着すると、ブルクハルトに迎えられた。
仕事前に市長と話しておく必要があったらしく、ブルクハルトは一日早くきていたのだ。
「リヨン王国の人達とは、夕方に合流するんですよね?」
「ああ」
「そ、その、どんな人とかって、分かったりします……?」
「肩書と経歴くらいはな。実際に会うのは俺も初めてなんだ」
そう前置きしつつ、ブルクハルトはリヨン王国からくる二人のことを説明してくれた。
一人目はエドガー・ジャンメール。
ジャンメール侯爵家の長男であり、リヨン王国の魔法騎士隊に所属している男だという。
ローゼリア王国と異なり、リヨン王国には魔法軍ではなく魔法騎士隊というものが存在する。
魔法騎士隊は魔法を使える貴族達で結成された部隊だ。
貴族にとっては魔法騎士隊へ入隊することは栄誉あることで、当主も魔法騎士として戦場へ赴くことがあるのだという。
二人目はノエル・ルイス。
ルイス家といえば、ローゼリア王国でも有名な魔法研究家の家系だ。
世間に流通している魔道具のうち、大半がルイス家による発明で生み出されたものである。
(私、そんな凄い人達と一緒に仕事することになっちゃったの……っ⁉)
コミュニケーションに自信がない分魔法で貢献しようと思っていたのに、この面子ではフィーネにできることはゼロかもしれない。
「詳しい人柄は知らないが、国を代表しての仕事に選ばれるような二人だ。サボるようなことはないだろう」
フィーネを安心させるようにブルクハルトが微笑む。
(もしかしてブルクハルトさん、私が働きやすい環境を用意してくれたのかな……?)
少人数で、しかもフィーネを除いて精鋭ばかりの集まり。
この状況なら、フィーネだけが仕事を押しつけられることは絶対にないだろうし、周囲が頑張ってくれないことに辛くなることもないだろう。
「……ありがとうございます、ブルクハルトさん」
気にするな、と少し照れたように呟いて、ブルクハルトは乱暴にフィーネの頭を撫でた。
◆
「そろそろ時間だな」
夕方まで都市を観光した後、フィーネ達は待ち合わせ場所に指定された噴水広場へ向かった。
「……見た目が分からないから、無事に合流できるかが少し気がかりだが……」
「教官。たぶんですけど、あの人達じゃないですか?」
ユーリアが指差したのは、二頭立てのやたらと派手な馬車だった。
しかも馬車を引くのは立派な白馬である。
開いた馬車の扉から、ちょうど二人の男が出てくるところだった。
「うっ……‼」
思わずフィーネが声を漏らしてしまったのは、あまりにも特徴的な風貌に驚いた……言葉を選ばずに言えば、ドン引きしてしまったからである。




