第61話 本当によかった
「これ、持って帰ってください!」
村を出る直前、アダムに籠いっぱいの野菜を渡された。
正直なところまだ野菜は余っているのだが、ありがたく受け取っておこう。
「そうだ! 昨日の夜、流れ星が見えたんです。フィーネさんも見ましたか?」
「……うん、見たよ」
フィーネの横でユーリアがくすっと笑った。
もしかしたら、フィーネが宿を抜け出したことに気づいているのかもしれない。
「ぼく、ちゃんと三回、願いことを言えたんです!」
「なんて言ったの?」
「お母さんとマリーを、ぼくが守れますようにって‼」
力を持たないただの子供だ。それでも、彼の気持ちは本物だった。
「私は残念ながら眠っていて見られなかったんです」
ヘレナが切なげに息を吐く。またすぐ見られるよ! とアダムが手を握って励ましていた。
「……あの、もしなにかあったら、連絡してください」
「え?」
「魔法人形屋として同じ依頼を二度受けることはできませんが……フィーネ・フェルナー個人として、多少はできることがありますので」
相手の反応を見るのが恥ずかしく、慌てて頭を下げて馬車に乗り込む。
馬車の窓からそっと外を見ると、アダムもヘレナも、ヘレナに抱かれているマリーも全力で手を振ってくれていた。
「びっくりしたわ、フィーネがあんなことを言うなんて」
「……た、たまには、ね」
目立つのは好きじゃないし、過度に頼られるのは御免だ。
でもきっと、エプフェル村の人々がフィーネだけを頼りにすることはないだろう。
だから、手を差し伸べたいと思った。
「ふふ、恥ずかしがらなくていいのよ? フィーネのことなんてお見通しなんだから」
朝早いからか、共同馬車には他の乗客がいない。
出発してしばらく経ってから、フィーネはユーリアの手を握った。
「ねえ、ユーリア」
「なに?」
「……自分が死んだ時のこと、気になる?」
魔法人形は自分の死因を知らない。それに関しては、ユーリアも例外ではない。
だから彼女は知らないのだ。
フィーネを庇ったせいで、自分が死んでしまったことを。
(ずっと、いつか話さなきゃとは思ってるんだけど……)
怖くてなかなか、自分から切り出せなかったのだ。
「どっちでもいいわ」
「え?」
「貴女が話したいなら聞くし、話したくないなら聞かなくていい」
「そんな……」
「だから、焦る必要はないわよ」
ユーリアの手が伸びてきて、フィーネの頬を優しく包んだ。
真っ直ぐに見つめられて初めて、自分が怯えた目をしていたことに気づく。
「ねえ、フィーネ」
「……なに?」
「貴女が生きていてくれて、本当によかった」
じわ、と涙が滲む。泣き虫ね、と笑って、ユーリアがそっと涙を拭ってくれた。




