↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
59/80

第59話 貴女に、もう一度

 一ヶ月ぶりに訪れたエプフェル村の様子は、以前とは明らかに変わっていた。


「なんか……前より、賑やかになってる?」


 エプフェル村で収穫した農作物を王都に運び、エプフェル村の住人は王都で買い物をする。

 そのためエプフェル村へくる商人は多くないはずだが、広場には以前より多くの行商がきていた。


「あっ、ユーリアお姉ちゃんだ!」

「ユーリアおねえちゃんっ‼」


 周囲の様子を観察している間に、幼い子供達がユーリアの周りに集まってきた。

 しかもユーリアは、一人ひとりの名前を呼んで頭を撫でてやっている。


(さ、さすがにユーリア、馴染み過ぎじゃない⁉)


 だんだん、子供達以外にも多くの村人が集まってきた。

 フィーネが混乱していると、フィーネさん! と聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。

 慌てて振り向く。

 そこに立っていたのはヘレナだったが、記憶の中にある彼女の姿とは全く違う。


 長い髪は頭の上で一つにまとめられ、上品なワンピースではなく地味な作業着に身を包んでいる。

 嫋やかな雰囲気はそのままに、健康美が加わっていた。


「ヘレナさん……?」

「お久しぶりです。その、こんな格好で申し訳ないのですけれど」

「い、いえ……?」

「最近、私も畑仕事を始めてみたんです。主人がいた頃はしなくていいと言われていましたし、恥ずかしながら、やってみようとも思わなかったんですが、ここで生きると決めたからには、私自身もなにかしなくちゃ、と」


 両手の拳をぎゅっと握って、ヘレナが恥ずかしそうに笑った。


「フィーネさん。よかったら、うちの畑を見にきてくれませんか?」



◆



 家に立ち寄ってアダムとマリーに声をかけてから、フィーネ達は五人で畑へ向かった。


「え……?」


 目の前の光景を見て、フィーネは一瞬固まってしまった。

 記憶の中にある畑の様子と、現在の畑の様子があまりにも乖離していたから。


 畑全体に害獣及び魔物防止のネットが張られており、ネットには対魔物に効果的な成分を孕んだ糸が組み込まれている。

 また、等間隔で設置された罠は以前の物とは異なり、魔物を検知して光属性魔法が発動する仕組みの魔道具になっていた。


 加えて、畑の周りには前回なかった草が植えられている。

 人間や作物に害はないが、ビッグラットが嫌う匂いのする草だった。


「ユーリアさんにアドバイスをいただいて、頑張ってみたんです」


 誇らしげにヘレナが胸を張る。

 ぼくも! と隣にいたアダムが背伸びをした。


「あの草植えるの、ぼくも手伝ったんです! ネットを張るのも! 魔道具は、村のみんなに声をかけて、どうにかお金をみんなで出せ合って買えないかって、いっぱい聞いて回りました」


 魔道具は定期的な整備も必要だ。特に、光属性魔法を用いた魔道具の価格は高い。

 エプフェル村は豪農が多いし、手が出せない額ではないだろう。


(でも、絶対に人を雇った方がコストは低い……)


 現状、村人達に可視化されていた危険はビッグラットの被害くらいだ。

 それなら、貧しい農民を雇って対処させることは可能のはず。


(なのにみんなが、わざわざ納得してこれだけの対策をしたって言うの?)


 フィーネが驚いていると、近くの畑にいた男性が声をかけてきた。


「アダムとヘレナさんが熱心に言ってくれるから、俺や他の連中も、やるか! って気持ちになったんだ。そもそもここは俺達の地元で、俺達に守る責任があるからな」

「……畑は人に任せて、王都に引っ越すという考えはなかったんですか?」

「もちろんあったさ。でも、元々迷ってたんだ。そんな時に必死に言われたら、じゃあやってみようかってなったんだよな」


 男性は豪快に笑うと、アダムの肩に腕を回した。


(そういえばこの子、背が伸びた……?)


 たった一ヶ月しか経っていないのに、顔つきまで成長しているような気がする。


「それに、ユーリアさんがいろいろ教えてくれたからな。正直なところ、彼女がいなきゃこうはなってないさ」

「いえいえ、私はちょっぴりアドバイスをしただけですよ」

「そのちょっぴりが俺達には大事だったんだよ。なあ、アダム?」

「そうです! ユーリアさんのおかげで、ぼく達、頑張り方が分かったんです」


 口々に褒められて、ユーリアは照れ臭そうに頭をかいた。

 おそらくユーリアがしたアドバイスというのは、魔法的な知識に即したものだろう。

 といっても、それほど専門的なものではない。魔法学園を卒業した生徒であれば常識レベルの知識だ。


(でもその知識が、この人達にとっては大事だったんだ……)


 頑張り方が分かったのだとアダムは言っていた。

 頑張り方が分からない人がいるなんて、フィーネは考えたことすらなかった気がする。

 世の中には、力がある人間と力がない人間がいる。才能がある人間とない人間がある。

 ただ、それだけだと思っていた。


「私はね、アダムやヘレナさん、村の人達の熱意に動かされただけ。みんなに頑張りたいって気持ちがあったから、応援したくなったのよ」

「応援……」

「そう。みんながこの村を好きだっていう気持ちを、私も守りたくなっちゃったの」


 ユーリアの言葉をゆっくりとかみ砕いていると、ヘレナに握手を求められた。


「それも全部、フィーネさんのおかげなんです。もう一度あの人に会わせてくれたから……あの日があったから、頑張ろうって、頑張りたいって思えたんです」

「本当、俺もびっくりしたんだよ。箱入り娘のヘレナさんが、作業服なんか着て、畑仕事を教えてほしいって頭を下げて回ったんだからなあ」


 ありがとうございます、とヘレナが頭を下げた。


「い、いえ、私はただ、仕事をしただけで……」

「フィーネさんの仕事が、私を救ってくれたんです‼」


 眩しい。

 ヘレナの笑顔を見て、単純にそう感じた。


(人って、こんなに変わるものなんだ……)


 思わず固まってしまったフィーネの耳元で、そっとユーリアが囁く。


「ねえ、フィーネ。信じてみたいって、そう思っちゃうでしょ?」


 能力の有無や立場に関わらず人々が尊重され、一人ひとりが手を取り合って平和を目指す社会。

 理想的で、だからこそ、実現不可能な社会。

 ――私が。

 私達が、夢見ていた世界。


「貴女にもう一度、夢を信じてほしいの」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。