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第56話 羨ましくて

「お父さんがやってたことって、それだけ……?」


 ケヴィンから魔物対策について聞いたアダムは、がっかりしたようにそう返していた。

 予想通りのリアクションではあるが、いたたまれなくなってフィーネは目を逸らしてしまう。


(罠の設置、罠に引っかかった魔物の回収、夜間の見回り……ただの害獣対策と、ほとんど変わらないんだよね)


 こうなることは分かっていたから、事実を盛って伝えることも可能だと提案してみた。

 けれど、ケヴィンはそれを断ったのだ。


「ああ。でも、それだけのことを何年も、何十年もやり続けてるのがこの村なんだ」


 たいしたことを口にしていないはずなのに、ケヴィンの背中はやたらと堂々していた。

 だからだろうか。最初はがっかりしていた様子のアダムも、再び真剣に話を聞き始めている。


「なあ、アダム。たとえば俺や他の村の奴らが夜、ここにやってきた魔物と戦ったらどうなると思う?」

「……怪我しちゃう、かも」

「怪我で済めばいいが、現実は厳しいぞ」

「……死んじゃう、かも」

「ああ、そうだ。いいか? アダム。勝てない相手に無理をして挑むことは勇気とは言わない。大切な家族を不安にさせるだけだ。もしアダムが魔物と戦うなんて言ったら、セレナもマリーも不安になる」

「……確かに、そうだよね」

「じゃあ、一切なにもせず、他人に任せるべきだと思うか?」


 しばらく黙り込んだ後、アダムはゆっくりと首を横に振った。


「それは違うと思う。だって、自分達の村で、自分の畑だから。人を頼ることはよくても、任せっきりにするのは、よくないと思う」

「その通りだ」


 アダムの返事に満足したのか、ケヴィンは大きく頷きながら彼の頭を撫でた。


「一人ひとりが、それぞれできることをやる。それが大事なんだ」


 子供向けの絵本に書いてあるような、理想的で現実味のない言葉。

 なのに、ケヴィンは真剣な目をしていた。


(そんなこと、あるわけないのに……)


 力も志もある者は責任も仕事も押しつけられる。力があろうと、自己保身に走る連中も多い。

 かといって、力なき者ができることをやろうとしてくれるとは限らない。


(みんなが理想通りに動ける社会なんて、あるわけない)


 ユーリアはそんな理想的な世界を夢見ていた。

 でも、夢半ばで死んでしまった。


「だからもし大きくなって、いろんなことができるようになったら、アダムが人を助けてあげるんだぞ」

「うん!」


 こんな理想を伝えて、何の意味があると言うのだろう。

 アダムによれば、他の村人達も移住を考え始めているというのに。

 どうせあと少しすれば、広い土地の所有者は王都に移り住むだろう。

 畑仕事や魔物の対策なんて、金のない労働者に押しつければいいのだから。


「ぼく、お父さんみたいに、みんなと一緒に頑張るよ!」


 きらきらとした瞳で頷くアダムが眩しくて、羨ましくて、フィーネはきゅっと唇を噛んだ


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