第54話(ヘレナ視点)好きなところばかり
「覚えてるかしら。ここ、この指輪を買った店よ」
家を出て向かったのは、村の中心部にある雑貨屋だった。
ケヴィンの姿を見て村人達が騒いでいるけれど、ヘレナ達に声をかけてくることはない。
(……フィーネさんのおかげね)
魔法人形から離れることはできないそうで、ヘレナ達のデートにもフィーネは同行している。
けれど、極限まで気配を消してくれている上に、ヘレナ達に声をかけないよう周囲の人に説明してくれているのだ。
おそらく彼女は、人と話すのがあまり得意ではないのだろう。
顔を青くしながら、必死に周りに声をかけている姿を見れば分かる。
「ヘレナ」
「ええ、分かってるわ」
どうしても視界の端に入ってしまうが、気にしないようにするのが礼儀というもの。
気持ちを切り替えるために深呼吸し、改めてケヴィンの顔をじっと見つめる。
本物ではなく、フィーネによって作り出された魔法人形。
そう理解していても、目の前にいるケヴィンが作り物だとは思えない。
手を伸ばして触れると温もりだって感じられるのだ。
「……君にそんなに見つめられると照れるな」
「今さらじゃない。ずっと見ていたわ」
「それでも」
目が合うと、どちらともなく笑い合った。
一ヶ月の空白なんて気にならないくらいにいつも通りだ。
「ねえ、ケヴィン。今日は貴方に、なにか選んでほしいの」
この店は装飾品から食器類まで様々な品を取り扱っている店で、手に取りやすい価格の品が多い。
揃いの結婚指輪を買う時はまだあまり金銭的な余裕がなかったのだ。
明日のこの時間にはもう、ケヴィンは消えてしまう。
だから、形に残る思い出をなにかもらいたい。
彼との別れは、あまりにも唐突だったから。
「分かった」
真剣になると彼は口数が少なくなる。沈黙した彼の横顔を眺めるのも、なにか喋ってと頬をつつくのも好きだった。
(好きなところばかりなのね、本当に)
生きている間はもちろん、たまに愚痴を漏らすことだってあった。
家事を手伝ってくれることが少ないだとか、寝相が悪いだとか、デリカシーがないだとか。
けれど彼が死んでから、彼に対する不満を思い出すことはなかった。
アダムが魔法人形屋のことを教えてくれなくても、いつか、自分で依頼していたかもしれない。
「これはどうだ?」
店中を歩き回った後、ケヴィンが手に取ったのは華奢な腕輪だった。
小さなカラーストーンがいくつも埋め込まれていて、中央に一つだけ、小さなダイヤモンドがある。
「腕輪……」
「あんまりしないだろう」
ケヴィンの言う通り、普段腕輪はあまりつけない。
正確に言えば、つけなくなった。
家事の邪魔になるからだ。結婚し、子供も生まれた今となっては、着飾って出かける機会等そう多くない。
「つける時に、俺を思い出すだろうと思って」
微笑みながらそっと腕輪をはめられる。ケヴィンの言葉に、ずきん、と胸が痛んだ。
(まるで、つけない時は思い出さなくていい、って言われてるみたい)
彼なりの優しさだと分かっているから余計に辛い。
「……毎日つけるわ」
そう答えた自分の声が妙に子供っぽく聞こえて、ヘレナは複雑な気持ちになった。




