第51話 厄介なこと
「今のは簡単な光属性魔法です。金銭的に余裕があるのでしたら、対魔物用の魔法具を購入するのがおすすめかと。次点で、殺した後に川へ流す処理方法がおすすめです」
なるほど、と言いながら村人達はメモを取った。
(……この流れで一応、聞いておこうかな)
今日の昼過ぎに、ヘレナから正式に依頼するかどうかの回答を聞くことになっている。
依頼がなくなった場合は無駄になるかもしれないが、情報を集めておいて損はないだろう。
「アダムという少年の父親についてお聞きしたいのですが、ご存知でしょうか?」
「ケヴィンのことか? お嬢ちゃん、なんでまた?」
魔法人形屋のこと、アダムから依頼を受けるかもしれないことを説明する。
仮に依頼を受けた場合、ケヴィンの姿をした魔法人形が村や畑の中を歩くのだから、隠しておくことはできないだろう。
フィーネの説明を聞くと、村人達は納得したように頷いた。
「畑の見回りでいうと、ケヴィンがしてたことは俺達と一緒だ。夜には三人組で明かりを持って見回って、朝は罠の中身を確認して燃やしてた。それと、交代で罠の作成も」
改めて罠を観察すると、単純な仕組みだった。
中に餌を置き、それに反応すると鋭い針が身体に刺さるようになっている。
「見回りの最中、魔物に遭遇した時はどのように対処をしているのですか?」
「恥ずかしい話だが、逃げるだけだ。罠にかかっていない魔物を相手にして怪我をするくらいなら、多少作物を犠牲にした方がいい」
なるほど。合理的な判断である。
「……ケヴィンのやつ、アダムに格好つけたがるところがあったからな。魔物を退治している、なんて言っていたんだろうさ」
「だろうなあ」
顔を見合わせて、村人達は楽しそうに笑い合った。
どうやら、周囲の人間のケヴィンに対する印象はよかったらしい。
(となると、わざわざ教えるようなことはなさそうだけど……父親から教わる、ってところが大事なんだろうな)
元々、見張りや罠のことだけを知りたいのなら、魔法人形屋を頼るまでもなく他の村人に聞けばいいことだ。
だが、アダムはそうしなかった。
彼の中で父は『みんなから頼りにされている存在』であり、自身もそうなって、村人達や家族を支えたかったのだろう。
(コンラートさんの時みたいに、過度なことはするべきじゃない気がする……)
今回の依頼で大切なのは、『父親との再会を通じてアダムが学ぶこと』だ。
父の強さを誇張して伝えることではない。
「……あの、もう一つ聞いてもいいですか?」
「ああ」
「ビッグラットの外には、どんな魔物が捕まることが多いんですか?」
「他の魔物はいないぞ? うちの村にやってくるのはこの、ネズミみたいなやつだけだ」
「……ビッグラットだけ、ですか? 日に何体ほど?」
「罠にかかっていない日もあるが、二、三体くることが多いな」
「そうだったんですね……」
これは、少々まずい状況かもしれない。
農作物を狙って、様々な低級の魔物が畑を襲う状況が続いているのかと思っていたが、どうやらこの畑を襲うのはビッグラットだけらしい。
日に二、三体というのはかなりの量だ。
(ビッグラットは繁殖力が高く、餌場の近くの森に巣を作る。そして巣には必ず一体、キングラットがいる……)
女王蜂のようなものだ。
キングラットはビッグラットと異なり知能が高く、魔法も使う。
もしキングラットが村を襲ってくれば、農作物の被害だけでは済まないだろう。
畑を襲うビッグラットを駆除し続けているのなら、キングラットが出てくるのも時間の問題である。
「嬢ちゃん? どうかしたのか?」
「……いえ」
無暗に不安を煽っても意味はない。
「情報、ありがとうございます」
頭を下げ、踵を返して宿へ戻る。
厄介なことを知ってしまったせいで、フィーネの身体は重たかった。




