第50話 散歩へ
「フィーネ、こんな時間にどこへ行くの?」
「……ちょっと、散歩に」
結局、フィーネ達はヘレナが紹介してくれた宿に泊まることになった。
美味しい食事と大浴場付きのありがたい宿である。
夕食と風呂はもう済ませていて、あとは寝るだけだ。
そんな時間に、フィーネは宿から出ようとしていた。
「もしかして、畑の様子を見てくるの?」
「……まあ」
「やっぱりフィーネは優しいわね」
「そんなんじゃないよ」
もし依頼を受けることになった場合に備えて行動しているだけだ。そう主張しても、ユーリアには笑われてしまった。
◆
宿を出て畑の方へ向かう。
アダムが畑の所有者が順番に見回りを担当していると言っていたから、具体的にどんなことをしているかを確かめるためだ。
住宅が並んでいた村の中心部は街灯も多く設置されていたが、畑は夜になると明かりがなく暗い。
杖の先に光を灯しながら、細い道を進む。
畑には等間隔に案山子が並べられている他、外との区切りに溝が作られている。加えて、対魔物用の罠も点在していた。
とはいえ、どれも害獣対策の物と同程度で、対魔物に特化した魔道具等ではない。
さらに歩くと、明かりを持って歩いている三人組の姿が見えた。
遠目で見たところ、十代後半から四十代くらいの男性三人組だ。
(あれが見回りの人達なのかな)
足音を立てないように近づく。
彼らはやたらと明かりを振り回すようにして歩いていた。
(魔物が苦手なのは光属性魔法の光であって、通常の明かりは別に苦手じゃないんだけどなあ)
気配を消して彼らの後をついてく。一時間ほど歩くと、彼らはそれぞれ家へ帰っていった。
◆
(で、朝になったら罠の中を確認してるんだ)
翌朝、フィーネは宿で朝食をとるよりも先に畑にやってきた。
夜と同じく畑に集まった男性は全部で三名だが、昨晩の三人組とは面子が違った。
畑に設置された罠を順番に確認していく。三つ目の罠を開けたところで、一人が声を上げた。
「魔物が引っかかってるぞ!」
「分かった。すぐに火の用意を……」
火打石を用いして火起こしの準備を始めたところで、フィーネは思わず飛び出してしまった。
「あっ、あのっ‼」
いきなり現れたフィーネを見て、三人組が首を傾げる。
「い、今……魔物を燃やそうとしてましたよね?」
「ああ。危ないから、お嬢ちゃんは離れた方がいいぞ」
とっくに成人を済ませたフィーネに対し、『お嬢ちゃん』とは失礼な言い方だが、若く見られてよかったと思っておこう。
それより今は、魔物を焼くことの是非を確認しなくては。
「あの、魔物は種類や強さによって対応を変える必要があります。燃やすことが有効な場合もありますが……」
しゃがみ込んで罠の中を確認する。
中に捕まっていたのは、ビッグラットというネズミによく似た魔物だった。
大きさは一般的なネズミの三倍程度で、鋭く尖った歯が特徴的だ。
農作物に被害を与える魔物としては定番である。
「ビッグラットのような低級の魔物は燃やすべきではありません。燃やせば匂いで他の魔物を引きつけてしまうからです。上級の魔物の場合、強い魔物が倒されたことに怯え、下級の魔物が近寄ってこなくなったりする効果はありますが、ビッグラットでは無意味です」
むしろ、餌があるのだということが他の魔物にも伝わってしまう。
「……じゃあ、一体どうしたらいいんだ? 殺したとして、死骸は土に埋めていいのか?」
「それもおすすめしません。最もおすすめの対処法は、光属性魔法で消滅させることです」
積極的に関わるつもりはなかったが、これもなにかの縁だ。
杖を取り出し、簡単な光属性魔法をビッグラットへ向ける。
白い光に包まれたビッグラットは呆気なく消滅した。
「魔物が消えた……っ⁉」
「お嬢ちゃん、魔法が使えるのか⁉」




