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第48話 負け惜しみ

「……魔物?」

「エプフェル村では、最近畑を襲われることが増えて……お父さんを中心に、村の男の人達が見回りをしたりしてました。ぼくも手伝うって言ったんですけど、子供だから夜はお家にいなさいって言われてて」

「うんうん、それで?」


 ユーリアは大袈裟なほど頷きながらアダムに話の続きを促した。


「一ヶ月前、お父さんが流行り病で死んじゃったんです。お父さんが中心に見回りとかをやってたから、みんなも困っちゃって、他の人に任せて街に引っ越すって人も増えてきて……ぼくのお母さんも、そんなことを言い始めたんです」


 大きな畑を所有する豪農は、他人に畑を任せて都会で生活する者も多い。

 おそらくアダムの家も、それなりに裕福な家なのだろう。


「でも僕、エプフェル村が大好きなんです。だから、みんなと一緒に暮らしたいから、他のところに行ってほしくなくて。でも、お母さんも安心させたいし、妹がいるんですけど、妹は守ってあげたいんです」

「偉いね、妹のことまで考えてあげて」

「いえ! お父さんの分まで、ぼくが家族を支えるのは当然です。ぼくは長男ですから。だから、一日だけでもお父さんに生き返ってもらって、いろいろ教わりたいんです。そうすればぼくが、みんなを安心させてあげられるかなって‼」


 期待に満ちた瞳でアダムはユーリアを見つめている。おそらく、ユーリアがこの店の店主だと思っているのだろう。


(それにしてもこれ、かなり厄介な依頼だな……)


 話を聞く限り、アダムの父親がやっていた魔物対策というのは、おそらく一般的に農村でやっているようなものだろう。

 つまり、魔法を使ったものではない。

 だからこそ、第三者からの聞き取りも必要になるだろう。


 前回の依頼と異なり、フィーネの魔法だけで解決できる依頼ではない。

 それに、依頼をこなしたところでアダムが満足するとは限らない。

 父親の代わりになる、と彼は意気込んでいるが、所詮、ただの子供である。

 村人達から同程度の信頼をもらうことはできないだろう。


「……おっ、お金が、足りない、かも……」


 悩んだ挙句、フィーネの口から出たのはそんな言葉だった。

 急に口を開いたフィーネにアダムが驚くと、ユーリアが紹介してくれる。


「このお姉さんはフィーネっていって、魔法人形屋のオーナーなの。私は助手のユーリア」

「……オーナーさん。お金、そんなに足りないんですか?」


 アダムの表情が曇る。

 だが、すぐに表情を切り替え、自信に満ちた目でフィーネを見つめた。


「だったら、もっと払えます。お母さんに頼めば大丈夫です! ぼくの家、意外とお金持ちなんですよ!」


 家の財政状況と、家主である母親が『魔法人形屋』に依頼をするかは別の話である。

 仮にアダムの母親が依頼料を支払ってくれるとしても、その場合依頼者はアダム自身ではなく彼の母親だ。アダムの希望だけで契約を結ぶことはできない。


「その、じゃあ母親を連れてきてもらわないとなんとも言えないっていうか、今の情報だけだと信頼できないというか……」


 フィーネの言葉を聞いて、アダムは瞳に涙をためた。


「お願いします、オーナーさん‼」

「え? あ、いや……」


 涙ながらに頭を下げられたところで、現実はなにも変わらない。


(だから子供って苦手なんだよね……!)


 助けを求めるようにユーリアを見つめるが目は合わない。

 それどころか、ユーリアはアダムの手をとって大きく頷いた。


「その依頼、引き受けたわ。お姉さん達に任せて」

「ちょっとユーリアっ⁉」


 思わず立ち上がると、ユーリアはフィーネを見てにっこりと笑った。


「いいじゃない、どうせ他に依頼もないんだし」

「お願いします‼ お母さんにも頼んで、絶対、お金は用意するので……‼」

「うっ……」


 二人に見つめられ、フィーネは溜息を吐いた。

 この状況で上手く断れる術をフィーネは持っていない。


「……実際に依頼を受けるかどうかは、詳しい状況が判明してからだから」


 そのため、負け惜しみのようにこう口にするしかなかったのだった。

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