第47話 早朝の客
魔法人形屋の朝は遅い。
パン屋のように朝早くからの開店を求められるわけでもないし、ひっきりなしに客が訪れるわけでもないからだ。
というわけで今日も、フィーネはゆっくりと朝食をとってから一階に下りようとしていたのだが――。
ガンガンガン‼
と、ドアを叩く音が二階まで聞こえてくる。
二階の窓から外の様子を確認すると、見覚えのない子供がドアを叩いていた。
「フィーネ、お客さんじゃない?」
「……嫌がらせじゃなくて?」
「うちに子供が嫌がらせをする理由がないでしょ」
「……でも、子供がうちに依頼できるようなお金持ってる気がしないんだけど」
見たところ、貴族の子弟という雰囲気ではない。
(私、子供は苦手なんだよね……)
嫌い、というわけではない。
子供という属性全体で考えれば、穏やかに、健やかに育ってほしいとすら思っている。
しかし、自分が関わるとなると話は別だ。
大人以上に気を遣う必要があるし、時に話が通じない。
ただでさえ会話は苦手なのに、頑張っても対話が成り立たない可能性があることが恐ろしい。
「とりあえず行くわよ、フィーネ」
「で、でも私、まだご飯中で……」
「じゃあさっさと食べなさい」
食べかけのパンを口の中に突っ込まれる。
ふごふご、と声にならない抗議をしている間に、ユーリアに連れられて一階へ移動した。
◆
「いらっしゃい。『魔法人形屋』になにか用かしら?」
ドアを開け、子供と目線を合わせるようにユーリアがしゃがんだ。
遠目には分からなかったが、どうやら子供は男の子のようだ。
年齢は十歳前後だろうか。男の子にしては長い髪の持ち主で、中性的な顔立ちをしている。
「はい。お願いします、お父さんを作ってくださいっ‼」
男の子は勢いよく頭を下げた後、肩にかけた鞄から瓶を取り出した。
中にはたっぷりと硬貨が詰まっているが銅貨ばかりだ。
おそらく全てを合計しても、ルクスの依頼料としては不足している。
(内容によって依頼料に変動はあるけど、これだと厳しいだろうなあ)
実のところ、ルクスの依頼料は定額ではない。
依頼内容や状況に応じて料金は変わるが、どんな内容であれ適正な価格には足りないことは確かだ。
「とりあえず中に入って、詳しいお話を教えてくれる?」
「はいっ!」
なのにユーリアは笑顔で男の子を招き入れてしまった。
フィーネと異なり、ユーリアは子供に弱いのだ。正確に言えば子供を含め社会的地位の弱い属性に。
平民のメイドを母に持ち、貴族社会のしがらみで苦しんだ過去を持つにも関わらず、彼女はノブレスオブリージュの精神が強い。
男の子はユーリアの指示でソファーに座ると、礼儀正しく挨拶を始めた。
「ぼく、アダム・ヒューグラーっていいます。エプフェル村からやってきました」
エプフェル村というのは、王都から少し離れた場所にある農村である。
農村といっても貧しい村ではなく、巨大な農園を持つ豪農も多数暮らしている村だ。
作物を王都へ運ぶ必要があるため交通の便もよく、エプフェル村と王都の間では日に何回も共同馬車が行き来している。
「アダムくん。さっき、お父さんを作って、って言ったわよね? お父さんに会いたいの?」
「はい。でも、会いたいだけじゃないんです」
大きく息を吸い込んで、アダムが立ち上がった。ユーリアを見つめる眼差しには強い意志を感じられる。
どうやら、父を喪ってただただ悲しんでいる子供ではないらしい。
「お父さんに会って、魔物との戦い方を教わりたいんです!」




