第46話 私のせいで
「……よかった、ユーリ……ア……?」
目を開けた瞬間、視界に入ったのはユーリアの顔だった。
しかし、安心できたのはたった一瞬だけ。
首から下の身体が、存在していなかったのだから。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああっ‼」
フィーネが強く抱いていたのは、ユーリアの首から上だけ。
桃色の瞳は開いたままで、宝石のようにきらきらと輝いていた彼女の目が今は白く濁っている。
首には、エメラルドのペンダントがしっかりとついていた。
ユーリアだ。正真正銘、本物の。
見間違えるはずがない。けれど、脳が必死に否定しようとしてくる。
「な、んで、なんで……」
頭の中に、ここへくる前の記憶が流れ込んでくる。
(私は暴走して、倒れて、そして、ユーリアが……)
フィーネを助けて、その場で殺された。
両親を殺したのと同じ、ブラックトロルの手によって。
もしフィーネを見捨てていれば、ユーリアはきっと助かっただろう。
なのに、彼女はフィーネを救うことを優先したのだ。
「……フィーネ」
肩を叩かれる。ブルクハルトだった。
周囲を見回し、ここが病院だということに気づく。
意識を失っている間に、戦いは終わったのだろう。
「……私のせいだ。私が、私がユーリアを……」
「違う。絶対に違う。フィーネ。それだけは勘違いするな」
「でも‼ 私がもっと強ければ、ユーリアは死なずに済んだ‼」
暴走なんてせず、ちゃんと自分の状態を判断できるままでいられたら。
最後に、ユーリアを助ける魔力が残っていたら。
――ユーリアは、死なずに済んだ。
「……どうして……」
彼女はこんなところで死ぬべき人間ではなかった。
誰よりも人を助けようとし、限界まで戦場を駆け回っていた彼女が、どうして死ななければならなかったのだろう。
「……お前はよくやった。お前に救われた人は大勢いる」
慰めるようにブルクハルトがフィーネの手を握る。
その温もりも、今は心に届かない。
確かに彼の言う通り、フィーネによって救われた命はたくさんあるだろう。
自分と同じように、魔物によって親を失う子をなくしたい。
完璧ではなかったにせよ、その夢のためにできることはやったはずだ。
しかし、代わりにユーリアを失った。
かけがえのない、最愛の親友を。
(ごめん、ユーリア。私はもう、夢は追えない。私にとって夢は、ユーリアと共に見るものだったから)
前線に行かなければこんなことにならなかった。
もし前線を嫌い、後方勤務しかしたがらない貴族達もちゃんと前線にきていたら、これほど無理をして暴走することはなかった。
(こんな世界で、もう頑張れないよ、ユーリア……)
首だけになった親友を抱き締める。冷たくて、腐ったような匂いがした。
「ブルクハルトさん、すいません。……私、魔法軍には入れません」
――その後、フィーネ・フェルナーは姿を消した。
単位満了により、それ以上の出席をせずに魔法学園を卒業。
それから四年の時が流れ、彼女は店を開いた。
魔法人形屋『ルクス』
別れをやり直すための店を営む彼女はまだ、最愛の親友との別れをやり直せていない。




