第44話 フィーネの固有魔法
(私ばっかり……なんて、考えても仕方ないけど)
前線へ行くことは嫌ではなかった。
魔法が使える兵士が最も活躍できるのは最前線で、そのための準備をしてきたから。
けれど実際、フィーネのように考える者は少なかったのだ。
前線にいる魔法軍は、一部の勇敢な魔法兵士を除けば、後方勤務を認められなかった平民ばかりだ。
大半の貴族達は、高い階級につきながら戦闘から逃げている。
国民のために命を賭して戦う。そんな魔法軍の理念は、明らかに崩壊していた。
ファイヤースルトが近づいてくる。熱風がフィーネの髪を揺らした。
(私も、もう、かなりきつい……)
ひたすら土人形を生成し続け、同時に他の魔法を用いて敵と戦う。
それをもう、昨日の夜からずっと繰り返している。
飲まず食わずで身体も限界だ。本当は今すぐテントで寝たい。
(でも、ユーリアはまだ、頑張ってる)
一人でも多くの人を救いたいのだと彼女は言っていた。
私が運べば確実に助かる命があるのなら限界まで頑張りたい、と。
組織全体は腐敗していても、前線で戦う兵士達は頑張っている。
だったら、フィーネだって投げ出すわけにはいかない。
「……私も固有魔法、使うしかないか」
すう、と大きく息を吸い込む。
できればこの手段は使いたくなかったが、仕方あるまい。
『自己人形化』
フィーネの固有魔法だ。
自分自身を操作対象の人形と捉え、半自動的に魔法で操作する。
そうすることで、肉体の限界を超えた動きをすることができるのだ。
つまり、近接戦特化型の魔法である。
右手の人差し指を噛み、血で左の手の甲に魔法陣を描く。
眩い七色の光に包まれた後、フィーネはふわりと浮遊した。
自己人形化を行った際の感覚は、いつものそれとは明確に違う。
遠くから自分を見ているような感覚になるのだ。
地面を蹴り、ファイヤースルトに向かって飛ぶ。
跳ぶ、ではなく、飛ぶ、と言うのが相応しいほどの跳躍力だ。
この際、近接戦を有利に運べる一番のポイントは、魔法陣を描くことを短縮できる点にある。
自己人形化によって、フィーネ自身が一種の魔道具と化しているのだ。だから、新たな魔法陣はいらない。
氷を纏ったフィーネの拳がファイヤースルトの目に突き刺さる。
大きく悲鳴を上げたファイヤースルトの頭を、同じように氷を纏った足で蹴り飛ばす。
フィーネ自身が氷と化して、あっという間にファイヤースルトを倒した。
「フェルナー! 次だ!」
しかし、戦いは終わらない。次々と現れる魔物、減っていく兵士達。
(私はまだやれる。だから、やらなきゃ)
使命感に突き動かされるように、フィーネはまた地面を蹴った。
手足が一歩も動かない。
フィーネの身体は限界を迎えてしまった。
けれど、戦いは終わらない。目の前には魔物の群れが広がっている。
(――だめだ、これ以上は、もう――)
次の瞬間、フィーネは完全に意識を失った。




