第43話 初めての戦場
「此度の戦いでは、魔法軍の人数が慢性的に不足している。そこで、魔法学園の生徒にも出兵要請がきた。強制ではないが、特に最高学年であるお前達には要請に応じてほしいと思っている」
緊急的に集会が開かれ、檀上でブルクハルトがそう告げた。
「戦いに参加した生徒は能力に応じて配置場所を決める。前線に参加できない奴も、後方勤務として軍の役に立てるだろう」
魔法学園の生徒にも出兵要請がくるのではないか、とは少し前から噂されていた。
それほどまでに今、魔法軍の人員は不足しているのだ。
「要請に応じてくれる生徒は明日の放課後までに申請書を俺に提出してくれ。明後日の朝、俺はそいつらと共に学園を発つ」
喋り終えると、ブルクハルトは檀上を下りて去っていった。
これで集会は終わりだ。
「……フィーネ」
隣に立つユーリアに手を引かれた。彼女の胸元では、エメラルドのペンダントが輝いている。
エメラルドのペンダントは、学年で三番目の成績を示す物だ。
四年生の夏、ユーリアはこのペンダントを手に入れた。
季節は冬。
あと少しで春を迎え、魔法学園を卒業するというこの時期になって出兵要請を受けることになるなんて、入学当初は想像すらしていなかった。
(どうせ私達は、来年の春にはもう、魔法軍に入るんだ)
魔法軍に入った後は、命令があればただちにどんな戦場にも赴かねばならない。
「うん。行こう」
戦場に出るのが怖くない、と言えば嘘になる。
どれだけ訓練を重ねても実戦とは別物だ。訓練では誰かが死ぬことはない。
(私ができることなんて、たいしてないかもしれない。でも、私が行くことで、助けられる命もきっとある)
それは戦場で初めて会う兵士かもしれないし、近くにいた民間人かもしれない。
間接的に、彼らの家族を救うことにもなるだろう。
(あの日、私は、両親を守れなかった。だから――)
今度こそ、と決意を込めて拳を握る。
「ユーリア。きっとこれが、私達の夢の一歩だよ」
◆
(これが、戦場なんだ……)
四方八方から聞こえる悲鳴、身体の一部がちぎれる音、魔物の身体が潰れる音。
倒しても倒しても魔物は消えない。
次から次へと森の奥から現れ、その度に魔法軍の兵士達が消えていく。
戦術や戦略なんてあったものじゃない。こんなのはただの消耗戦だ。
「フェルナー‼ 次は右の敵だ!」
上官からの命令に反応し、再び杖を握る力を強める。
魔法学園の生徒達はブルクハルトが言っていたように能力によって配置を変えられた。
だが、能力があっても後方勤務を希望する貴族達もいた。
彼らは実戦には参加したくないが、魔法軍からの要請に応じた、という名誉ある記録だけは残しておきたいのだろう。
(……これじゃ、全然、キリがない)
地面に魔法陣を描き、十体の土人形を召喚する。
先程作った土人形は魔物によって既に破壊されてしまった。
「ユーリア!」
彼女の近くに迫っていた魔物を風魔法で吹き飛ばす。危機一髪のところだった。
ユーリアはずっと前線を駆け回っている。
それは、彼女の固有魔法が『移送魔法』だからだ。
固有魔法というのは属性魔法とは異なり、限られた人間しか使うことのできない特殊な魔法である。
世の中に二人以上同じ固有魔法を使える人間が存在しないわけではないが、一般的に、当人にしか使えないと考えてよい。
そしてユーリアの固有魔法である『移送魔法』は、遠方に人や物を飛ばすことができる魔法だ。
距離には限りがあるが、戦場ではかなり役に立つ。
前線で負傷した兵士の移送。それが、ユーリアに任された仕事である。
彼女は前線を駆けずり回り、負傷兵を傷病人用テントへ移送し続けているのだ。
明らかにユーリアは限界が近い。
誰よりも動き回っているし、『移送魔法』は使用する魔力量も多い。
それに、襲ってくる魔物の攻撃をよけなければならないのだから。
(私が、ずっとユーリアに付いていられたらいいんだけど……!)
ドカンッ! と大きな爆発音が聞こえ、慌てて顔を上げる。
少し先で、どうやら巨大な爆発が生じたようだった。
煙幕が消え、姿を現したのはファイヤースルト。炎を全身に纏い、頭に二本の角を持つ魔物である。
(厄介なのがきた……‼)
火属性の魔物は他属性の魔物に比べ、攻撃性がかなり強い。
他属性の魔法なら多少攻撃をくらってもどうにかなるが、炎は怪我に繋がりやすい。
加えて、燃え広がる可能性も高いのだ。即座に対応しなければ被害が広まってしまう。
「フェルナー! ファイヤースルトを頼む‼」
「了解です!」
半ばやけくそになって、大声で返事をする。
他に手助けをしてくれそうな人はいなかった。




